第3部 未知への挑戦(10) 低減への模索 出荷再開へ企業の知恵

福島県園芸課長の松本登(57)は1日、県庁西庁舎の5階にある課内で、「あんぽ柿」の出荷再開に向けたプロジェクトの資料に目を通していた。「今年は何としても県北地方のあんぽ柿を出荷したい。このままではブランド力が損なわれる」。松本には、東京電力福島第一原発事故の影響で、平成23、24年の2年間、加工自粛が続き、農家の生産意欲が失われかねないという危機感もある。
県は7月下旬からJA伊達みらいなどと連携し、放射性物質検査を始める。生柿の放射性濃度は、あんぽ柿に加工すると3倍から5倍に濃縮される。まだ青々とした幼果(ようか)を摘み取り、食品衛生法の基準値(1キロ当たり100ベクレル)を上回るかどうかを見極める。原料柿の生産が集中する伊達と桑折、国見の3市町の全農家が対象だ。
9月下旬には県北地方の生柿を試験加工し、加工が再開できるかどうかを最終判断する。試験加工で基準値を上回った場合、県はこれまで通り市町村単位で加工自粛を要請する方針だ。ただ、面積の広い伊達市などで基準値を超える恐れのあるのは、ごく一部の地域と想定される。ほとんどの地域で下回れば、市町村単位の枠組みを見直し、例外地区を設けて加工できるような措置も視野に入れている。
■ ■
「生柿から検出される放射性物質は減少している。昨年より良い結果が出るはず」。松本は23年以降のデータを見るたびに、加工再開への望みを強くしている。
23年秋、伊達市保原町にある県農業総合センター果樹研究所のほ場で収穫された生柿の1キロ当たりの平均放射性物質濃度は74・8ベクレルだった。1年後の24年秋には17・8ベクレルまで下がった。
原発事故で柿の樹木表面に付着した放射性物質は高圧洗浄でほとんどを除去できた。さらに、樹木内部に入った放射性セシウムは、葉や実に移行して落葉などで減り、根から新たに放射性物質が吸収される可能性もほとんどないからだ。
樹木に降り注ぎ、内部に入ったセシウムは134と137が半々とみられている。「セシウム134が半減期の2年を迎えており、低減はさらに進むはずだ」。果樹研究所主任研究員の阿部和博(50)はこれから出そろう検査結果に注目している。
■ ■
加工再開を見据え、販売促進に向けた取り組みも動きだした。JA伊達みらいであんぽ柿を担当する営農指導員の芳賀武志(32)は「小売店で扱ってもらえるよう、働き掛けを強化したい」と対策を練る。
だが、消費者に安全性をアピールするには、あんぽ柿の全品検査が欠かせない。コメの全袋検査同様、万が一、食品衛生法の基準値を超えても、市場に出回らないように封じ込めるためだ。
現在、あんぽ柿の検査に使われているゲルマニウム半導体検出器は、切り刻まないと精度の高い検査ができない。出荷するには、袋のまま検査ができる測定器が導入されているコメのように、全品を検査する機器が必要となる。
県は検査機器の開発費として5000万円を予算化した。企業の開発を後押しする。17日、審査会が福島市で開かれ、県内外の複数の企業が検査機器の開発案を発表した。間もなく支援企業が決まる。
あんぽ柿は1つ約50グラム。全品調べると総量は1000トンに上る。専用の検査機器の開発は可能なのか-。ある企業の担当者は「難しい技術開発になる。しかし、農家のために何としても成し遂げたい」と意欲を見せる。早い地域では12月から出荷が始まる。残された時間はわずかだ。
それでも松本は期待する。「企業の努力が実を結ぶはず」(文中敬称略)
2013/05/23 11:15 福島民報

福島県園芸課長の松本登(57)は1日、県庁西庁舎の5階にある課内で、「あんぽ柿」の出荷再開に向けたプロジェクトの資料に目を通していた。「今年は何としても県北地方のあんぽ柿を出荷したい。このままではブランド力が損なわれる」。松本には、東京電力福島第一原発事故の影響で、平成23、24年の2年間、加工自粛が続き、農家の生産意欲が失われかねないという危機感もある。
県は7月下旬からJA伊達みらいなどと連携し、放射性物質検査を始める。生柿の放射性濃度は、あんぽ柿に加工すると3倍から5倍に濃縮される。まだ青々とした幼果(ようか)を摘み取り、食品衛生法の基準値(1キロ当たり100ベクレル)を上回るかどうかを見極める。原料柿の生産が集中する伊達と桑折、国見の3市町の全農家が対象だ。
9月下旬には県北地方の生柿を試験加工し、加工が再開できるかどうかを最終判断する。試験加工で基準値を上回った場合、県はこれまで通り市町村単位で加工自粛を要請する方針だ。ただ、面積の広い伊達市などで基準値を超える恐れのあるのは、ごく一部の地域と想定される。ほとんどの地域で下回れば、市町村単位の枠組みを見直し、例外地区を設けて加工できるような措置も視野に入れている。
■ ■
「生柿から検出される放射性物質は減少している。昨年より良い結果が出るはず」。松本は23年以降のデータを見るたびに、加工再開への望みを強くしている。
23年秋、伊達市保原町にある県農業総合センター果樹研究所のほ場で収穫された生柿の1キロ当たりの平均放射性物質濃度は74・8ベクレルだった。1年後の24年秋には17・8ベクレルまで下がった。
原発事故で柿の樹木表面に付着した放射性物質は高圧洗浄でほとんどを除去できた。さらに、樹木内部に入った放射性セシウムは、葉や実に移行して落葉などで減り、根から新たに放射性物質が吸収される可能性もほとんどないからだ。
樹木に降り注ぎ、内部に入ったセシウムは134と137が半々とみられている。「セシウム134が半減期の2年を迎えており、低減はさらに進むはずだ」。果樹研究所主任研究員の阿部和博(50)はこれから出そろう検査結果に注目している。
■ ■
加工再開を見据え、販売促進に向けた取り組みも動きだした。JA伊達みらいであんぽ柿を担当する営農指導員の芳賀武志(32)は「小売店で扱ってもらえるよう、働き掛けを強化したい」と対策を練る。
だが、消費者に安全性をアピールするには、あんぽ柿の全品検査が欠かせない。コメの全袋検査同様、万が一、食品衛生法の基準値を超えても、市場に出回らないように封じ込めるためだ。
現在、あんぽ柿の検査に使われているゲルマニウム半導体検出器は、切り刻まないと精度の高い検査ができない。出荷するには、袋のまま検査ができる測定器が導入されているコメのように、全品を検査する機器が必要となる。
県は検査機器の開発費として5000万円を予算化した。企業の開発を後押しする。17日、審査会が福島市で開かれ、県内外の複数の企業が検査機器の開発案を発表した。間もなく支援企業が決まる。
あんぽ柿は1つ約50グラム。全品調べると総量は1000トンに上る。専用の検査機器の開発は可能なのか-。ある企業の担当者は「難しい技術開発になる。しかし、農家のために何としても成し遂げたい」と意欲を見せる。早い地域では12月から出荷が始まる。残された時間はわずかだ。
それでも松本は期待する。「企業の努力が実を結ぶはず」(文中敬称略)
2013/05/23 11:15 福島民報