田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

夢うつつ/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-06-15 17:58:46 | Weblog
夢うつつ

16

「どういうことなの」
婦警のコスチュームのホステスが席をはずした。
店長が「お馴染さんだ」と呼びに来た。
翔子が純に小声で訊ねた。
ホステスはさりぎわまで、
「わたし吸血鬼をまちがいなくみたよ。携帯がどうかしているのよ」
と主張した。

「吸血鬼には変化しなかった。
この黒犬の姿だってみえない彼女には吸血鬼なんてみえるはずがない。
おもいこみからくる、幻想だろう。
彼女は疲れていた。
日常の覚醒しているときでも、
疲労がたまり極度のストレスにおちいるとウトウトすることがある。
そのときに、
仮性のレム睡眠状態になることがある」
「ストレスのせいだというのか?」
百目鬼が真面目な顔で訊く。
「おれみたいなノンキャリアにもわかるように説明してくれ」
「むかし、第二次大戦のころ、
戦場行軍で疲労困憊して、
隊列から脱落しそうになる。
でも隊列から離脱することは、死を意味していた。
なにがなんでも、歩きつづけなければならない。
そこで、歩きながら仮レム睡眠状態におちいった。
それでも歩行はつづけていた。
こうしたときに、ひとはすごくリアルな夢をみたという。
故郷の山河であったり、
懐かしい母親があらわれたりとた。
母に会った。母がここにいた。兵士はそう主張した。
母に乳をあたえてもらい、
それで元気になって脱落をまぬがれたという記録がのこっている」

大学時代の恩師からきいたエピソードだった。

「なるほどなんとなくわかったような気がする」
「ほら、もっとシンプルな言葉かあります。
夢がうつつか幻か。
婦警さんは営業が忙しくて睡眠不足で幻覚をみたのでしょう」
「ではこの黒犬はどう説明してくれるの」

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黒犬が見える?/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-06-15 09:11:54 | Weblog
黒犬が見える?


5

「ね、なんの話しているの」
婦警のコスチュームが三人の会話に割って入る。
「わたしは吸血鬼になるところを見たわ。黒犬だなんて!!」
「吸血鬼? なにねぼけたことを言ってる。黒犬だろうが!!!」
百目鬼が負けずに声をはりあげている。
刑事に恫喝されて怯むような婦警ではなかった。
婦警の制服が彼女を勇敢にしていた。

「これみてよ。ちゃんと動画で記録したんだから……」
「映っていないわよ」
「そんなバカな」
「疑うのだったら、じぶんの目で確かめたら」
と翔子に詰め寄られて、携帯を眺めた。
婦警は絶句した。
「いま何が見える? よく見て」
婦警は絶句した表情のまま首を大きく左右にふる。
「ただの男だぁ。わたしどうかしていたの???」

ダダのお客。
すこし腕が毛深いだけの男。
だが三人には黒犬に見える。
 

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