田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

人狼は墓地が好き/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-06-20 05:01:10 | Weblog
人狼は墓地が好き


5

翔子の母の文枝がGGの姪だ。
その縁故で純が東北さすらいの旅にでて、最初に投宿したのが「アサヤ塾」だった。
塾で万葉集の特別授業をしながら半年ほど鹿沼で過ごした。
よほど居心地がよかったのだろう。

翔子がいたらしい鶴巻南公園には子犬があそんでいた。
そして、砂場には争った気配の足跡がいりみだれていた。
さらに!! 人狼と指で書いた文字が砂の上にのこされていた。

純はおもいだした。
GGが、鹿沼の犬飼地区にからんだ「人狼伝説」を書いていたことを。
人狼の知識をもったひとが身近にいた。
GGの「奥様はバンパイア」では人狼が主役をはっていた。
純はそれをおもいだした。
この世に人狼がいるなんて当時は信じられなかった。
携帯電話で読みかえしながら電話してきたのだった。

「腹が減っては戦は出来ぬ」とGGも餃子をぱくつきながらきいていた。
話がすすむにしたがって、ことの重大さが認識できた。
GGは財布から千円札をとりだしだ。
レシートにはさむと隣の席にオーダーをとりにきたウエトレスにわたす。
釣りはいらない。言い残して、駅に走った。
新幹線に乗れば宇都宮―上野間は45分だ。
日ごろの鍛錬のたまものか、息切れはしなかった。

純が東京にもどってからの経緯を話している。

これはたいへんなことが起きている。

GGはせっかく買った特急券の席にはつかなかった。

純は早稲田の街を探している。
翔子はどこにいったかわからない。
焦燥にかられているようすが、携帯から伝わってくる。

純の焦燥がGGを怯えさせた。
吸血鬼ならいい。
いちどや二度血を吸われたからといって生命には別状はない。
ところが人狼は肉食だ。
もし翔子が飢えた狼に捕獲されたとしたら。
そうおもうと恐怖でGGの額から脂汗がふきだしていた。

「この小説では、人狼の巣窟は地下になっていますね」
純の声がとぎれとぎれにする。
電波のとどかないところにいるのだろうか。
雑司ヶ谷霊園。ふいにそのことばがGGの脳裡にうかびあがった。
「もうじき上野につく。そのまえに護国寺の墓地を調べておいて」

雑司ヶ谷霊園は広すぎる。
純ひとりでは広すぎる。それに危険だ。

上野まではあと10分くらいだ。
上野からタクシーをとばせばあと30分かかかるまい。
講談社の前で落ち合うことにした。

タクシーがとまった。
「護国寺の墓地は?」
後部座席からGGが声をとばした。
純はくびをよこにふった。
のりこんできた。



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