田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

上沢寮監 吸血鬼ハンター美少女彩音 麻屋与志夫

2008-07-08 11:32:55 | Weblog
6

 近寄って。こちらから「どうぞ食べてください」と身を投げだしたくなる。どうぞ食べてくださいと哀願したくなる。これも鬼の眼光の魔力のなせる技か。
 どうせ逃げられない。だったら、従順に鬼のいうことを聞いたにほうがいい。食べられてしまったほうがいい。そんなことを言ったらいけない。そうしたくなる。でもそう思いたくなる。この恐怖からはそうでもしないと、そう思わないと逃げられないのかもしれない。
 鬼の眼光と冷酷な笑いは、澄江に凄惨な恐怖心を叩きこんだ。白い歯の間からシュシュと吐きだされる臭い息。体が竦む。目の前に白く尖った歯がせまってくる。金縛りにあったようで動けない。澄江は鬼の顎門とから逃れようとした。
 犬歯が白く光っている。顎を音をたてて噛み合わせている。音をたてて威嚇して楽しんでいる。歯がガチガチ鳴っている。歯がカチカチ鳴っている。ガチガチカチカチ鳴っている。澄江を捕食することを楽しむように音をたてている。
 乱杭歯を剥きだして迫ってくる。上唇がめくれ涎をたらしながら澄江に迫る。唇をながい尖った舌でなめている。
「ああ、おいしそうな娘だ。さっそくいただくか」
鬼がニタニタ笑う。澄江は逃げながら首をそらした。その視線の遥か彼方に寮監の姿をとらえた。全速力でこちらへ走ってくる。上方を見た。鋭利な犬歯がもうすぐそこに迫っていた。恐怖で腰が抜けた。よたよたと大地に屈みこんだ。必死で後ずさる。じりじりと歯が迫る。
鬼は楽しんでいるのだ。鋭い牙がもう肌に触れている。赤い目がすぐそこにある。だめ。もう動けない。
「いゃあ。助けて。純平さん。助けて」
そして噛まれてしまった。ぐさっときた。鬼の牙が襟首にくいこんだ。いままでのことが一瞬のことのように感じられる。たしかにそうだ。ほんの一瞬のできごとなのに、恐怖のため時間の観念がくるってしまつているのだ。
「鬼が出た」と思った瞬間にもう噛まれていたのだ。
「鬼め。退散しろ……」と寮監が叫んでいる。
「わたし純平さんと約束したの。純平さんと会いたい」
「二度噛まれたら終わりだ。反省室に逃げこめ」
 そんなふうなことを寮監が叫んでいるが、鬼に噛まれた恐怖でよく聞きとれない。なにを言われているのかよく理解できない。
「わたし純平さんと出会いの約束してるの。行かせて」
「ばか、おとひとはいつでも会える」
「わたし鬼に噛まれたこと伝えたい」
「だめだ。いまは逃げることだけ考えろ。鬼にまた噛まれたら終わりなんだ。鬼の仲間になってしまう。ヤツらに心まで奪われてしまう。反省室に逃げこめ。あそこなら、鬼神よけの太平山は大中寺を祀ってある。岩船山の孫太郎尊のお札がはってある。鬼避けの霊験あらたかなお寺さんだ。だから鬼もみだりに入れない。こいつはおれが斬る。たのむから、逃げてくれ」
「待っているの。純平さんが、わたしを待ってるの。会いたい」
「だめだ」
 上沢寮監が邪険に澄江を脇に突き飛ばした。
 まさにその時、鬼がいままで澄江のいたところをがばっと襲った。寮監の剣が鬼の胴をはらった。木刀とみせて、仕込み杖だった。いつのまに抜きはなったのか、月光に煌めく白刃が鬼の胴を斬った。
 固く締めてある工場の麻の梱包をたたいたような手応えだった。いくら斬りこんでも、箸で叩いたくらいの効果しかない。鬼はじりじりと澄江に迫る。
 澄江はようやく状況を認めた。顔面蒼白で寮のほうへ後じさりする。ふらふらと一歩一歩薄氷を踏むように後じさりする。鬼がたかく跳躍する。寮監の頭上を跳び越す。爛々とした眼光で澄江を見据える。獣のうめき声をあげて澄江に迫ってくる。
「おいしかった。娘、おまえの血はいい味がする」
上沢にはただの呻き声にしか聞こえない。
血を吸われた澄江には恐怖のことばに聞こえる。
鬼は澄江に迫る。舌舐めずりしながら。ピチャピチャ!!
「もっと吸わせろ。もっと飲ませろ」
「逃げるんだ。逃げろ!!……おれは後からいく」

      
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