田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

吸血鬼/浜辺の少女        麻屋与志夫

2008-04-20 08:23:21 | Weblog
4月20日 日曜日
吸血鬼/浜辺の少女 10 (小説)
 建物全体がゆらいでいる。倉庫の中の薄暗い空間がゆがむ。なにかおかしい。高野はめまいがした。なぐられたからではない。なぐられたのは顔面だ。脳しんとうをおこしたわけではない。
 渇いている。水を飲んでも。カナディアンドライでも。ビールでもこの渇きは癒されない。喉が渇いている。ひりひりとまるでアリが喉の粘膜の水気を吸いとりながら這いまわっているようだ。
男だけの暴走族<バンパイァ>だ。倉庫のすみで立ちしょんするものがいる。だれもとがめない。汗とガソリンと尿のいりまじった臭いが強烈だ。それでもここは、頼りになる場所だ。ほかの族にはこのアジトは気づかれていない。この邪悪な秘密基地はおれたちだけのものだ。いちばん安心していられる場所だ。
飲み食いは、ヨーカ堂がすぐそこだ。なんでもそろっている。なんでも飲める。それなのにこの渇きはどうしたことだ。飢餓感。なにかがたりないという感じだ。
族だからアウトロウだ。ほかの若者とはちがう。普通ではない。ところが、ほかの族仲間ともどこかちがってきた。族のライダーたちも薄気味悪がっている。かわったのは、頭の高野だ。
 あの日からへんになったのだ。感覚が異常だ。毎日すこしずつおかしくなっていく。高野は鬼島に噛まれた。……なにかおかしい。首筋から血を吸われた。もともと<バンパイァ>なんて名乗っている族だ。でもほんとうに吸血鬼がいるなんて、だれも信じてはいない。
 おれはほんものの吸血鬼に噛まれたのか。噛まれた。高野は宇都宮のオリオン通りを歩いていた。通りのはずれのマンションでは拳銃男が立てこもっている。警官とプレス関係者が街あふれていた。とてもワルサなどしていられない。暗闇から手がのびてきた。路地の奥に引きずりこまれた。ふいに噛まれた。さからう間もなかった。
 いま目の前にいる。鬼島に噛まれた。あのときからおれはかわった。「ナンスんだよ。鬼島さん」ケントがわめいている。
「ケント。そこまでだ」
「だってよ。キャップをなぐることはナイスヨ」
 鼻血がでた。高野はそれを舌でなめた。ぞくっとした。ねとりとして塩気があった。汗と血の味。ウマイ。ゆらいでいる。ゆらいでいるのは高野の体だ。


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