田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

吸血鬼の故郷  麻屋与志夫

2008-10-21 08:38:41 | Weblog
わたしは暗黒の顎を(あぎと )思わせるような横穴の入り口でためらっていた。
一族のものはみなこの奥の壇ノ浦古墳とよばれる地下墓地に埋葬されるのだという。
この北関東の極みにある古墳になぜ壇ノ浦という名称がつけられているのか……?
「ここからさきはあなたひとりで棺を押していかなければならないのよ」
妻が冷酷にいいはなった。
地下納骨所までひとりでいかなければならない。
「わたしたちは、東京の大学の剣道場で知り合い自由な意思のもとに結婚した。あなたはわたしを愛していた。わたしもあなたを愛していた。でもそれだけではわたしたちの愛は完結しないのよ。あなたはあのときからわたしの部族の意思にしたがう運命にあったのよ」
と妻はつづけた。
部族などといわれても、なんのことかさっぱりわからない。
わたしは両親の柩をのせたトロッコのような台座に手をかけたまま逡巡していた。

非情にも暗い穴が目前にせまっている。

「まさかこのままでてこられないって……ことはないよな」
「安心して……なにかあったら台座についたロープを引けばすぐひきもどしてくれるから」
「いままでに……そんなことは起きてないのだろう」
「さあ、どうかしら。わたしがきいているかちぎりでは、ないはずよ」
ますます妻のことばが冷ややかになる。
「あなたこわいの」
 …………………。
「あなた、こわいんでしょう」
「こんな土俗的習慣きいたことがない。おれはシテイボーイだ。怖がらないほうがおかしいよ」
妻は沈黙。
「それは怖いさ。このままなにもかも捨てて逃げたい」
「これは通過儀式なの。親の柩を地下の玄室にひとりで納めにいってはじめてわたしたちの一族の婿としてみとめられるの」 
入り口をふさがれたら。 
横穴の中になにか怪異なものがまちうけていたら。  
ただでさえ閉所恐怖症の気味のあるわたしは、猛烈な恐怖が足下からはいのぼってくるのを感じた。
穴の奥からは湿った悪意を含んだ風が吹き寄せてくる。
巨大な怪物がわたしに息を吹きかけている。
わたしの震えはさらにひどくなった。
まわりの親族のものは、わたしの次なる行為を冷淡に待っている。
わたしはよろけて膝をついてしまった。
それなのに妻は「そうよ。そんなふうにして中腰でおしていけばいいの」
とわたしの次なる行動をそくした




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