田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

吸血鬼/浜辺の少女   麻屋与志夫

2008-04-14 23:52:24 | Weblog
4月14日 月曜日

吸血鬼/浜辺の少女 1 (小説)            
                             
  フェメールの青いターバンの少女は美しい。
  ムンクの浜辺の少女はさらに美しい。
  彼女はマインド・バンパイアなのだ。
 
       
  ムンク 浜辺の少女


1

「ついてきてはダメ」
 皐隼人はあたりを見回す。
耳の奥にじかにひびいてきた声。
16時17分発の列車はまだ到着していない。
通学列車と呼ばれるだけに、時間まぎわになれば、高校生でラッシュとなるホームに、いまのところ人影もまばらだ。
「ついてこないで」
若い女性の声がさらにつづいた。潮騒が声の回りでBGのように聞こえている。
たしかに、海辺の波の音だ。
波の音などするはずがない。
ここは海のない栃木県は宇都宮のJR駅。
日光線のプラットホームだ。
テープレコーダーで潮騒のアルファ・サウンドでもきいているのだろうか。そうにいない。海岸にひいてはよせる、時の流れのなかで太古よりくりかえされてきた、白い波頭の砕ける音がしていた。
隼人は海辺に立っているような錯覚に陥った。鈴をころがすようなハイトーンの声の主を求めて、隼人の視線がホームを探索していくと……いた。それらしい少女のシルエットがホームのはずれに。遥か彼方の後ろ姿。日光の方角を見ている。潮風でもうけているようにワンピースのすそがゆらいでいる。
あそこだけ潮風が吹いているのだ。
そう信じさせる風情がある。
ムンクの<浜辺の少女>の姿だ。
清々しい後ろ姿だ。
でも……とても声がとどく距離ではない。
「ついて……こないで」
 こころに直接ひびいてくる。声だ。
 



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