田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

吸血鬼浜辺の少女外伝/魔闘学園 麻屋与志夫

2008-08-27 05:16:05 | Weblog
小さな公園を路上生活の場としている男だった。
デカ部屋にいるはずの稲垣に。
トイレの建物をとびだすと携帯をいれた。
ドカドカとした足音が署のほうから近寄ってくる。
まだ、犯人がそのへんにいるかもしれない。
携帯から稲垣の興奮した声がする。
武も走りだしていた。
「あたりを、見てくれ。マルタはほかのやっらにまかせろ。まだヤッタやつはこの辺にいる」                  

 Fデパートの非常階段をふりかえっていた。

「あれも、ヤッパ殺人事件だったのだ」
 それは確信となって、武をおそった。

闇のなかに黒々と螺旋階段はとぐろをまきながら屋上にむかっていた。
 そこから中学一年生の女子生徒が転落死(自殺としてかだずけられてしまったが)したのは3月ほど前だ。
 道路にもデパートの駐車場にも人影はなかった。
 犯人はどこに消えてしまったのだ。
 血のながれ具合からみて、兇行がおこなわれて間もないことがわかる。
 武はあせっていた。
 自分が犯行現場にいた。
 ほんの数分前まで、犯人があそこにいたのだ。
 それなのに、ながながと小便垂れていた。
 血が流れだしてくるまではっきりとした気配は感じられなかった。
 だだ、漠とした勘であそこでぐずぐずしていたのだ。

 死体があるとは思ってもみなかった。

 犯人らしい人影がみあたらない。       
 
 武はあきらめて、現場にもどった。

「指紋が出たぞ。それも何人分も」
「公衆トイレだからな、特定はむりか」
「コミにまわれ。聞き込みにまわれ」

 自宅からかけつけた課長の本田がわめいている。
 いわれるまでもない。
 武と稲垣は黒川ぞいの、桜やハナミズキが植えられた『ふれあいの道』にも駐車場にも人影がないのは確かめていた。
 
 河川敷公園に降りた。
 背後で、鑑識のフラッシュが光っていた。

「なんど嗅いでも血の匂いだけはなれない。すきになれないな」
「血の匂いが好きになったら、バァンパイァだろうが」
 稲垣が武をなぐさめるように肩をたたいた。

 あの、たえがたい匂い。
 嗅ぎ慣れた、血の匂い。

 殺人課にまわされたとき。
 はじめて大量の血をみて。
 死体から発散する匂いを嗅いで。
 吐いてしまった。
 
 だが、武にはこれからおきることはわからなかった。
 稲垣が不用意にももらしたバァンパイァということばが。
 現実味をおびてくるのがわからなかった。
 
 血の祝祭にかれらが招待されている!
 
 超能力があるわけではない。
 わかるわけがなかった。
 そんなことが、わかるはずがなかった。
 
 武が稲垣の肘をつついた。
 捜査の範囲をさらに広めた。  
 
 貝島橋の下をくぐる。
 公園の隅の藤棚のした。
 
 東屋でアベックが淫行のマッサイチュウだった。
 公園の常夜燈は明るすぎた。      
 女があわてもせず。
 立ち上がった。

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