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「純平さんや澄江さんの好意に甘えてはいけなかったのよ。この鹿沼はわたしたちで守らなければ。そうでしょう……おじいちゃん」
「はじめて、おじいちゃんと呼んでくれたな。彩音だがな、そういう考え方をわたしもいままでしてきたし、教えてきたが、この街に命をかけて守るべきものがあるのか。くやしいけれども、吸血鬼につけいれられるだけのわけがいまになってわかってきた。玉藻さまが朝廷の軍に追われて頼ってきたこの可奴麻の犬飼村の人たちがなにをした。頼られればそれだけの繋がりがあったのだからその信頼に応えるのが仁義だろうが。その犬飼の人たちがなにをした。かれらは人狼だった。心も体も血吸鬼だ」
「あまり犬飼のひとたちを責めないで。彩音のお友達もおおぜいいるのよ」
「悪い。ごめんよ、彩音。いまの犬飼の人たちはあのころの人ではない。旧犬飼の人たちはモロ山の大洞窟で生きながらえているのだろう」
「そうよ。そうよ。オオカミ筋の人たちはみんな排除されたって鹿沼の語り部文美オバアチャンがいっていた。だからいまの犬飼とは無関係よ」
「女たちがかれらの子どもをうんだ。みんな犯されてしまった。敵の子を生んで、育てて、母親になっても都にもどることを夢みていたにちがいない。玉藻さまが蘇ればこの街が滅びる。玉藻さまには古い怨念だけが存在しているだろうからな。人狼との交配種である人狼吸血鬼と玉藻さまの呪怨が衝突すれば、どうみてもわたしたちの生きる術は考えられない。わたしも源一郎や文葉さんたちとこの街から出よう。もつと早くそうするべきだったのだ。塾だって、東から進出してきた大型の予備校に滅ぼされる寸前だからな。いままで鹿沼のみんなと仲良く勉強してこられたのに残念だ。だが、時代がかわつた。それともこの鹿沼に残って滅びの道を選ぶか? どうする彩音」
麻屋にはまだこの期に臨んで迷いがある。
文美の葬儀をすませた。
葬儀がすんだからみんなまた離れていく。
彩音たちは、花束を黒川に流しにきていた。空が暗くなった。ただの黒雲ではない。ウイルスを含んだ雲だ。文音の好きなルネ・マグリットの絵のような澄んだ青空はもう見られない。
コウモリインフルエンザが猖獗し、学校の皆も赤目が消えないだろう。
吸血鬼に直接噛まれなくてもウイルスの侵攻で皆が疑似吸血鬼症に罹っている。
赤い目をして、鼻水をたらして苦しむことからは逃げられない。
文美の葬儀がおわって、平凡な田舎街の学校に生活が待っているはずだったのに。
わたしは両親と東京に、あるいは世界中まわってヴァンパイアとたたかう道をえらぶには、はやすぎる。
そして、祖先が命懸けで守ってきた鹿沼をアイッラにわたすことはできない。
北犬飼地区にも仲良しの友だちが大勢いるのだ。鹿沼にも文美ばあちゃんの、鹿沼流のお弟子さんがおおぜいいるのだ。
守護師としてのバァンパイアハンターとしての誇りが文音のこころに芽生えていた。
「やっぱ、わたしは、鹿沼にのこって先生とたたかうよ。先生とともにアイツラと戦うよ」
「だめだ、それだけは許せない、文葉や源一郎とこの街を出なさい」
「それじゃ、おじいちゃんいまいったこととちがうじゃない。出るの残るの」
麻屋の言葉がいつになく厳しい。
彩音にはそれがうれしかった。
先生であって祖父だ。
家にもどれば母と父がいる。
その家でも異変に気づいていた。
「おかえり彩音。ぶじだったのね。いま迎えにでようとしていたの」
「みる間に空が暗くなったからな」
と父の源一郎。
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「純平さんや澄江さんの好意に甘えてはいけなかったのよ。この鹿沼はわたしたちで守らなければ。そうでしょう……おじいちゃん」
「はじめて、おじいちゃんと呼んでくれたな。彩音だがな、そういう考え方をわたしもいままでしてきたし、教えてきたが、この街に命をかけて守るべきものがあるのか。くやしいけれども、吸血鬼につけいれられるだけのわけがいまになってわかってきた。玉藻さまが朝廷の軍に追われて頼ってきたこの可奴麻の犬飼村の人たちがなにをした。頼られればそれだけの繋がりがあったのだからその信頼に応えるのが仁義だろうが。その犬飼の人たちがなにをした。かれらは人狼だった。心も体も血吸鬼だ」
「あまり犬飼のひとたちを責めないで。彩音のお友達もおおぜいいるのよ」
「悪い。ごめんよ、彩音。いまの犬飼の人たちはあのころの人ではない。旧犬飼の人たちはモロ山の大洞窟で生きながらえているのだろう」
「そうよ。そうよ。オオカミ筋の人たちはみんな排除されたって鹿沼の語り部文美オバアチャンがいっていた。だからいまの犬飼とは無関係よ」
「女たちがかれらの子どもをうんだ。みんな犯されてしまった。敵の子を生んで、育てて、母親になっても都にもどることを夢みていたにちがいない。玉藻さまが蘇ればこの街が滅びる。玉藻さまには古い怨念だけが存在しているだろうからな。人狼との交配種である人狼吸血鬼と玉藻さまの呪怨が衝突すれば、どうみてもわたしたちの生きる術は考えられない。わたしも源一郎や文葉さんたちとこの街から出よう。もつと早くそうするべきだったのだ。塾だって、東から進出してきた大型の予備校に滅ぼされる寸前だからな。いままで鹿沼のみんなと仲良く勉強してこられたのに残念だ。だが、時代がかわつた。それともこの鹿沼に残って滅びの道を選ぶか? どうする彩音」
麻屋にはまだこの期に臨んで迷いがある。
文美の葬儀をすませた。
葬儀がすんだからみんなまた離れていく。
彩音たちは、花束を黒川に流しにきていた。空が暗くなった。ただの黒雲ではない。ウイルスを含んだ雲だ。文音の好きなルネ・マグリットの絵のような澄んだ青空はもう見られない。
コウモリインフルエンザが猖獗し、学校の皆も赤目が消えないだろう。
吸血鬼に直接噛まれなくてもウイルスの侵攻で皆が疑似吸血鬼症に罹っている。
赤い目をして、鼻水をたらして苦しむことからは逃げられない。
文美の葬儀がおわって、平凡な田舎街の学校に生活が待っているはずだったのに。
わたしは両親と東京に、あるいは世界中まわってヴァンパイアとたたかう道をえらぶには、はやすぎる。
そして、祖先が命懸けで守ってきた鹿沼をアイッラにわたすことはできない。
北犬飼地区にも仲良しの友だちが大勢いるのだ。鹿沼にも文美ばあちゃんの、鹿沼流のお弟子さんがおおぜいいるのだ。
守護師としてのバァンパイアハンターとしての誇りが文音のこころに芽生えていた。
「やっぱ、わたしは、鹿沼にのこって先生とたたかうよ。先生とともにアイツラと戦うよ」
「だめだ、それだけは許せない、文葉や源一郎とこの街を出なさい」
「それじゃ、おじいちゃんいまいったこととちがうじゃない。出るの残るの」
麻屋の言葉がいつになく厳しい。
彩音にはそれがうれしかった。
先生であって祖父だ。
家にもどれば母と父がいる。
その家でも異変に気づいていた。
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