31
ウジ虫がざわざわと波打つっている。
すさまじい悪臭。
吐き気がする。
彩音は吐く。
苦いものがこみあげてきた。
なんども、吐いた。
天井のコウモリがいつしか数をました。
興奮している。
侵入者に気づき。
ときおり羽音をたてる。
このコウモリの大群におそわれたら……。
どう防いだらいいのか。
「くるわよ。彩音、あれを準備して」
彩音は構えた。
舞台で学都とむかいあったときのように。
だかこのたびは……。
長めの皐の楔を。
逆手にかまえた。
あのとき。
演劇部員が。
演武とみなした。
素舞を。
披露。
するわけではない。
こんどはまちがいなく手に武器となる楔をもっている。
目の前に白い霧がわく。
ねばつくような、いやなかんじの霧。
霧のなかから、捕食した娘たちをかついだ吸血鬼が3体あらわれた。
ああ、ここは折檻室でも、反省室でもなかった。
ここは吸血鬼の食料保存室だったのだ。
文美が皐手裏剣をなげた。
「きさまら、スレイヤーだな」
「純平、遠慮なくこんどはあの娘からいただいちまえ」
二人目の吸血鬼が純平をけしかける。
いつも純平にかげのようにつきまとっているヤツだ。
演劇部の舞台での再現だ。
「このひとなのかい? 新任の先生というのは、レインフイルドだね。澄江さんの逢引のあいて。澄江さんの敵と、わたしの父をつけねらっていた林純平さんよ。女工哀歌の功さんの叔父さん。とんでもない誤解からみずから吸血鬼に噛まれた哀れな男」
さすがは語り部、文美。
「やはり、上沢寮監につながる家のものか」
「彩音の初仕事よ。澄江さんにもいい功徳になるわ」
「いくわよ」
彩音もすっかりそのきになっている。
わたしの鹿沼は、わたしが守る。
鹿沼はわたしが守る。
わたしたちの美しい鹿沼を吸血鬼の血でよごすわけにはいかないのよ。
彩音の仕込まれた鹿沼流の舞踊は闘いの所作を秘めたものだった。
序の舞い『鹿の入り巡礼』昔鹿沼の里に迷い込んだ女巡礼が土地の悪霊とたたかう舞いだ。
酔拳のように。
ふらつく。
じつは八重垣流の小太刀の技を秘めている。
油断させておいて、か弱い女が確実に相手を倒せる技。
敵の首筋を攻める技だ。
踊るように闘えばいい。
吸血鬼の鉤爪をかわせれば、こちらの勝利だ。
すきをみて鹿沼で栽培されている刺す木、皐の楔を打ちこむのだ。
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ウジ虫がざわざわと波打つっている。
すさまじい悪臭。
吐き気がする。
彩音は吐く。
苦いものがこみあげてきた。
なんども、吐いた。
天井のコウモリがいつしか数をました。
興奮している。
侵入者に気づき。
ときおり羽音をたてる。
このコウモリの大群におそわれたら……。
どう防いだらいいのか。
「くるわよ。彩音、あれを準備して」
彩音は構えた。
舞台で学都とむかいあったときのように。
だかこのたびは……。
長めの皐の楔を。
逆手にかまえた。
あのとき。
演劇部員が。
演武とみなした。
素舞を。
披露。
するわけではない。
こんどはまちがいなく手に武器となる楔をもっている。
目の前に白い霧がわく。
ねばつくような、いやなかんじの霧。
霧のなかから、捕食した娘たちをかついだ吸血鬼が3体あらわれた。
ああ、ここは折檻室でも、反省室でもなかった。
ここは吸血鬼の食料保存室だったのだ。
文美が皐手裏剣をなげた。
「きさまら、スレイヤーだな」
「純平、遠慮なくこんどはあの娘からいただいちまえ」
二人目の吸血鬼が純平をけしかける。
いつも純平にかげのようにつきまとっているヤツだ。
演劇部の舞台での再現だ。
「このひとなのかい? 新任の先生というのは、レインフイルドだね。澄江さんの逢引のあいて。澄江さんの敵と、わたしの父をつけねらっていた林純平さんよ。女工哀歌の功さんの叔父さん。とんでもない誤解からみずから吸血鬼に噛まれた哀れな男」
さすがは語り部、文美。
「やはり、上沢寮監につながる家のものか」
「彩音の初仕事よ。澄江さんにもいい功徳になるわ」
「いくわよ」
彩音もすっかりそのきになっている。
わたしの鹿沼は、わたしが守る。
鹿沼はわたしが守る。
わたしたちの美しい鹿沼を吸血鬼の血でよごすわけにはいかないのよ。
彩音の仕込まれた鹿沼流の舞踊は闘いの所作を秘めたものだった。
序の舞い『鹿の入り巡礼』昔鹿沼の里に迷い込んだ女巡礼が土地の悪霊とたたかう舞いだ。
酔拳のように。
ふらつく。
じつは八重垣流の小太刀の技を秘めている。
油断させておいて、か弱い女が確実に相手を倒せる技。
敵の首筋を攻める技だ。
踊るように闘えばいい。
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