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田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

100年の恋/吸血鬼ハンター美少女彩音

2008-07-25 13:33:57 | Weblog
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  彩音はバック・パックにジャランというほど楔をもってきていた。
 数本左手に握り、右手の楔で吸血鬼の喉元を攻め抜く。
 まさに美しい彩音の舞いだ。
 まさに、古流鹿沼流の舞だ。
 右手に構えた楔で吸血鬼の心臓をねらう。
 彩音は朱鞘の脇差しを背中にしのばせていた。
 カマキリのように構えて斬りこむ。
 とても、老婆とはおもえない。
「江照松風吹 永夜清宵何所為」(かうげつてらししようふうふくえいやせいせうなんのししよゐぞ )
 オッチヤンが呪文をとなえている。
  純平の動きが鈍くなる。
 江月照らし松風吹く 永夜清宵何の所為ぞ
 吸血鬼呪縛を朗々と声詠する。
 この地方。
 大平山曹洞宗大中寺の開祖。
 快庵禅師(くわいあんぜんじ)ののこした証道の歌。
 禅師は食人鬼と化した青頭巾と戦った。
 そのときに唱えた証道の歌だ。
 いつしか吸血鬼を封じる呪文となった。
 麻屋先生は……。
 と文美おばあちゃんがいいかけたことばの意味を。
 いま彩音は悟った。
 封印師だったのだ。
 鹿沼に仇なす邪気を封印することができるのだ。
「いまだ。彩音」
 彩音はトンと床をける。かるがると純平の肩にとびのる。
 彩音は純平の頭に制服からとったブルーのスカーフをまきつける。
 青頭巾にみたてたのだ。
 仮性吸血鬼の純平の胸に、澄江の哀れをおもえば楔をうちこむことはできなかった。
 青いスカーフ、青頭巾のうえから頭頂をぽんとたたく。
「澄江さんが、幸橋でまっているわよ」
「澄江」
 純平が悲哀にみちた声をはりあげた。
「そうよ。あなたを待ちつづけていたのよ」
「ウソダ……」
「解封、封印された澄江の魂よ。よみがえれ」
 吸血鬼になるまえであったが、澄江はともかく噛まれている。
 明治の封印師によって封印されているはずだ。
 それが百年の年月を経てほころびかけている。
 彩音はその綻び目から澄江を垣間見たのだ。
 と麻屋は推察した。
 はたせるかな、中空に幸橋が浮かぶ。   
 澄江が純平を見た。
 純平を見て、呼びかける。
 澄江が純平に声をかけた。
 懐かしい、恋しい純平に声をかけた。
「純平さんはやくきて。
 アイツに血をすわれるくらいなら川に身を投げたほうがいい。
 アイツに、また、噛まれるくらいなら死んだほうがいい。
 純平さん、もういちど会いたかった。
 あなた、ああ、純平さん、わたし最後にあなたって呼びかけている。
 あなた、あなた、毎日、そう呼びかけたかった。
 純平さん……」
「ダマサレテイタ。ダマサレテイタ。澄江はおれを幸橋で待っていた……」
「純平」
「澄江」
 青白いフレイヤーが立ち上ぼった。
 純平の魂だ。
 よかった。
 タマシイまでは吸血鬼になっていなかった。
 純平の澄江を思う気持ち。
 澄江の純平を恋い焦がれる想い。
 合体した。
 いつまでも、いつまでも一緒でいてね。
 彩音はふたりに祝福の念波を贈った。
 純平の、肉体は……さらさらと粉になった。
 消えた。
 だが、百年の恋がここに添い遂げた。           
「鹿沼の土に養われたものたちが、生れ故郷に仇なすとは、作麼生何所為ぞ」
 残った2体の真正吸血鬼にむかって麻屋が一喝する。
 そもさんなんのしよゐぞ。
 吸血鬼捕縛の呪文。
 2体は動けない、たちすくんでいる。
 文美の剣と彩音の楔が胸につき立った。
 心臓を皐の楔でえぐられた。
 純平のあとをおつって土くれとなり埃となってきえていった。

 注 青頭巾。 上田秋成の「雨月物語」より。物語の舞台となっている太平山までは、鹿沼から車で30分くらいです。    







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