4月19日 土曜日
吸血鬼/浜辺の少女 8 (小説)
「やれ! たたきころしてしまえ」
夏子をただのか弱い女とおもっている。
隼人をただのやわな学生だとみている。
なにも知らされないまま召集をかけられた族だ。木刀でおそってきたものがいる。なかなかの太刀筋だ。でも、なんなくかわす。スピードがない。それでも、ピュッと風を切った。パイプが正面からくる。かわす。
チェーンがジャッと横から蛇のようにのたくっておそつてくる。かわしきれず、ポールでハッシとうけとめる。金属音をたててチェーンがポールにまきついた。ギギギギと金属のこすれるいやな音がした。
隼人は力まかせにぐいとポールをねじりながら引いた。男はチェーンを放さなかった。弧を描いて中空にとばされた。グニュと大地にクラッシュする。失神してしまった。
隼人は手首にまいたチェーンをほどいた。ポールを正眼にかまえる。息切れはしない。乱闘にもひるまない。なれてきたのだ。はじめてのケンカだ。戦いだ。守るだけでは不利だ。攻撃する。こちらから攻める。そんなことを思うゆとりができた。
正眼にかまえた隼人に族がドバドバといっせいにおそいかかる。槍のように長いパイプがクリダサレル。木刀が風を切る。ピュと耳元をかすめる。隼人はポールでうける。はじきかえす。こちらから攻撃するすきがない。
足を敵のポールがおそう。跳躍した。かかとでポールをうける。ダメージはない。着地とどうじに横に回転した。じぶんのポールを敵になげつけた。ひるむすきに、そいつのふところにとびこむ。木刀をうばう。
隼人の手に木刀がある。木刀をかまえる。自信がふつふつとわきあがる。
「あっ、こいつ皐道場の皐隼人だ」
木刀の切っ先を地面におとす。独特のかまえに気づいたものがいた。族の猛者たちがざわついた。中学の剣道部からいまにいたるまで無敗。大学剣道での優勝。族のれんちゅうがうきあしだつ。
「かまわぬ、たたきつぶせ」
「道場剣法がどれほどのものか。みせてもらう」
抜き身をさげて男がまえにでた。ハーレーのライダーだ。
「高野、たたき切ってやれ」
田村と鬼島があおる。
ハーレーのライダー、族を束ねている男は、高野伸二。
隼人と高野がにらみあった。タイマンとなった。
高野は月光に光る太刀を上段にかまえた。よほど自信があるのだ。
相手を威圧する喧嘩剣法であった。
相手をのんでかかる剣法であった。
振り下ろすとみせて横にないできた。胴切りにきた。
とても素人の太刀筋とは思えない。鋭い。速い。修羅場をなんどもくぐりぬけてきた。兇暴な切りこみに隼人はたじたじとなった。真剣と戦うのは、はじめてだ。さすがに怖い。
恐怖が背筋を稲妻のようにはしった。
「きざむぞ。きざむぞ。あんたとはいちどはやってみたかった。うれしいね。うれしいね」
声で隼人をなぶる。
木刀で受ける隼人のほうが不利だ。真剣にたいする根源的な恐怖がある。かすっただけでも血がふく。痛みを感じる。深ければ命にかかわる。
恐怖が筋肉の動きをにぶらせる。
隼人は後方に退く。切られる不安と戦う。メンタルな面の弱さにいま隼人は苦渋する。死の恐怖を克服するのだ。死闘とはもじどおり死を賭して戦うことだ。
ピュッと剣風が隼人の肩をおそう。
夏子も、駐車場のほうに追いこまれている。
その背後には元の倉庫群が暗くそそりたっている。
あそこに追いつめられれば逃げ場がない。
吸血鬼/浜辺の少女 8 (小説)
「やれ! たたきころしてしまえ」
夏子をただのか弱い女とおもっている。
隼人をただのやわな学生だとみている。
なにも知らされないまま召集をかけられた族だ。木刀でおそってきたものがいる。なかなかの太刀筋だ。でも、なんなくかわす。スピードがない。それでも、ピュッと風を切った。パイプが正面からくる。かわす。
チェーンがジャッと横から蛇のようにのたくっておそつてくる。かわしきれず、ポールでハッシとうけとめる。金属音をたててチェーンがポールにまきついた。ギギギギと金属のこすれるいやな音がした。
隼人は力まかせにぐいとポールをねじりながら引いた。男はチェーンを放さなかった。弧を描いて中空にとばされた。グニュと大地にクラッシュする。失神してしまった。
隼人は手首にまいたチェーンをほどいた。ポールを正眼にかまえる。息切れはしない。乱闘にもひるまない。なれてきたのだ。はじめてのケンカだ。戦いだ。守るだけでは不利だ。攻撃する。こちらから攻める。そんなことを思うゆとりができた。
正眼にかまえた隼人に族がドバドバといっせいにおそいかかる。槍のように長いパイプがクリダサレル。木刀が風を切る。ピュと耳元をかすめる。隼人はポールでうける。はじきかえす。こちらから攻撃するすきがない。
足を敵のポールがおそう。跳躍した。かかとでポールをうける。ダメージはない。着地とどうじに横に回転した。じぶんのポールを敵になげつけた。ひるむすきに、そいつのふところにとびこむ。木刀をうばう。
隼人の手に木刀がある。木刀をかまえる。自信がふつふつとわきあがる。
「あっ、こいつ皐道場の皐隼人だ」
木刀の切っ先を地面におとす。独特のかまえに気づいたものがいた。族の猛者たちがざわついた。中学の剣道部からいまにいたるまで無敗。大学剣道での優勝。族のれんちゅうがうきあしだつ。
「かまわぬ、たたきつぶせ」
「道場剣法がどれほどのものか。みせてもらう」
抜き身をさげて男がまえにでた。ハーレーのライダーだ。
「高野、たたき切ってやれ」
田村と鬼島があおる。
ハーレーのライダー、族を束ねている男は、高野伸二。
隼人と高野がにらみあった。タイマンとなった。
高野は月光に光る太刀を上段にかまえた。よほど自信があるのだ。
相手を威圧する喧嘩剣法であった。
相手をのんでかかる剣法であった。
振り下ろすとみせて横にないできた。胴切りにきた。
とても素人の太刀筋とは思えない。鋭い。速い。修羅場をなんどもくぐりぬけてきた。兇暴な切りこみに隼人はたじたじとなった。真剣と戦うのは、はじめてだ。さすがに怖い。
恐怖が背筋を稲妻のようにはしった。
「きざむぞ。きざむぞ。あんたとはいちどはやってみたかった。うれしいね。うれしいね」
声で隼人をなぶる。
木刀で受ける隼人のほうが不利だ。真剣にたいする根源的な恐怖がある。かすっただけでも血がふく。痛みを感じる。深ければ命にかかわる。
恐怖が筋肉の動きをにぶらせる。
隼人は後方に退く。切られる不安と戦う。メンタルな面の弱さにいま隼人は苦渋する。死の恐怖を克服するのだ。死闘とはもじどおり死を賭して戦うことだ。
ピュッと剣風が隼人の肩をおそう。
夏子も、駐車場のほうに追いこまれている。
その背後には元の倉庫群が暗くそそりたっている。
あそこに追いつめられれば逃げ場がない。
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