田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

吸血鬼浜辺の少女外伝/魔闘学園 麻屋与志夫

2008-09-01 06:53:56 | Weblog
 声もでない。             
 体温が急速にうばわれた。
 
 目前で鹿沼土の穴に沈んでいく父の姿が蘇る。
 蟻地獄のような。
 すり鉢状の。
 さらさらした鹿沼土の穴に。
 なすすべもなく父がすいこまれていった。 

「きさまスレイヤーだな」        
 その父から伝承された技だった。
 その父の遺志をついでの技だ。
 墨染めの衣。
 手甲、脚絆。
 破れ網代笠。
 そして杖。
 全国を行脚して、修行をつんだ雲水姿のご先祖をイメージする。
 マントラをとなえた。
 麻屋が二重身となる。
 雲水の幻像がかさなった。

「ナウマクサンマンダバサラダ、センダマカロシャナ、ソハタヤウンタラタカンマン」

 生霊を調伏の呪文をろうろうと麻屋が唱える。
 それはもはや塾の英語教師としての声ではなかった。
 吸血鬼の乱杭歯がもみけしたタバコのように萎えていく。
 だが、そこまでだった。
 とびげりが麻屋をおそう。
 回転まわしげり。
 くるくると独楽のようだ。
 体を回転させて。
 連続技をくりだしてくる。
 ワイヤーアクションみたいだ。
 
 だが、麻屋の体にはあたらない。
 どうしていまごろになって。
 夜の種族がおれのまえに現れるのだ。
 平穏な小さな田舎町の。
 小さな学習塾の塾長でいたいのに。
 愛する妻と塾生にとりかこまれ。
 田舎町で静かに暮らしていきたいのに。
 なぜそうさせてくれないのだ。
 
 麻屋の幻の錫杖の鐶が鳴った。     
 杖の先が鮫肌の胸をついた。      
 ポリ袋の山のなかに吸血鬼がふきとんだ。
 すかさず脳天に杖をふりおろす。
 吸血鬼のからだに痙攣がはしる。
 どろっとした緑の液体となってきえてしまった。
「アサヤのオッチャン。あんたぁ、ダレ。ナニモノナノ」
「なんだ、まだそこにいたのかタカコ」
「心配でもどってきたの。ごまかさないで、ねね、教えて」
「受け身は、be動詞プラス過去分詞」
「ちがう。英語じゃない」
「現在完了形は……」
「ちがうちがうの。アイッ消えちゃったよ。わたし見たんだからね。緑の血をながして、消えるとこ見たんだ。ね、ね、ねぇ、教えてよ」
「see、見るの変化形は……」
「もう、しらない。おこるからね」
 タカコが唇をとがらせた。

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