田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

今年のわたしの超短編ベストワン 麻屋与志夫

2013-12-23 17:34:03 | ブログ

超短編44 大震災の廃材の中から  麻屋与志夫

2013-08-04 15:41:57 | 超短編小説



44

大震災の廃材の中から

「オジイチャン。なにしているの」
妙子が呼んでいる。
夕暮れ時だ。
校庭には校舎を長年形作って来た――。
今は、ただの廃材の山が高く盛り上がっている。
まさに山だ。
わたしの在任中は校舎を新築するのに反対してきた。
町長が土建屋なので、選挙を控えて同業者に大判振る舞いをしたがっていた。
まだ、築30年に満たない校舎を解体し、新築する計画が市議会で通過しょうとしていた。

「夜道があるのを校長、忘れるな」
新校舎建設に反対した。敵が大勢できた。
脅迫電話がかかってきた。
みんなこの町の大人は教え子なのに。
わたしのこの町での教育の成果がこれか!!
だったら、いっそ進んで夜道を歩いてみようではないか。
そんなふうに、思い詰めた夜もあった。

山積した廃材の向こうに空が見える。
黒い雲が渦をまいている。
その動きに津波のときの海水の渦を重ねて思い起こし慄然とする。
なにもかもなくなってしまった。
わたしも定年になっていなければ、この校舎と運命を共にしていたろう。
稲妻が天と地をつないだ。
雷鳴がする。

「オジイチャン、かえりましょう」
妙子が子どもらしいアクセントで可愛らしく呼びかけている。

震災前だったら、ここからは海は見えなかった
ヒマラヤシダの大木が立ち並び、その背後に二階建ての木造校舎があった。
それが今は、すべて失われてしまった。
もしあの震災の前に校舎を新築していたら。
経済的な損害は膨大なものだろう。
幸い、倒壊したのは古い校舎だった。

「オジイチャン。もうかえろうよー」

校舎の骨を拾いにきた。
すぐには見つからなかった。
これで4日も廃材の山をかきまわしている。
校舎に話しかけていた。
骨はひろってやる。
お前が長いことこの町の子どもたちとすごしてきた証。
お前が守ってきたこの町の子どもたち。
みんな逝ってしまった。

雷鳴が稲妻が近づいてきていた。
強烈な雷鳴が轟く。
稲妻が光る。
雷鳴が轟く。
妙子の顔が稲妻に照らされた。
わたしは、ようやく、辺りが暗くなっているのに気づいた。
今日もまた、あきらめて校庭を去ろうとした。
山なす廃材の裾の方で……声がした。

わたしはここにいるよ。
ここにいるよ。
そんなことはない。
廃材が口をきくなんてありうることではない。
だがそれは、そこにあった。
校長室の中央の柱。
ただの柱ではない。
歴代の校長が児童のような、児戯で、「敬愛」とナイフやコンパスの先や、彫刻刀で彫った跡のある柱。
定年になる校長か幼い子どもの心にもどってのイタズラ。
だれが始めたことか。
すばらしいことだ。

その柱が見つかった。
これは校舎の骨という意味だけの柱ではない。
この学校のハートだったのだ。

わたしはその柱をひきづりながら、車に急いだ。
柱を荷台に積む。
これで、心おきなく故郷をあとにすることができる。
待ち疲れた孫の妙子はわたしの膝で寝てしまった。



12月23日 月曜日

●なすこともなく一日ぼんやりとすごしてしまった。

こんなことは珍しい。

●夕刻今年書いた作品を読みだした。

超短編では、これが一番わたし的には、感銘を受けた。

●自分の作品で感銘を受けた。

としう表現は少しおかしいかもしれない。

●ともかく、塾の講師だが、故郷で教えだしてからでも50年になる。

●なにか子どもたちのために、成っているのだろうか。

教育の成果? について、考えている。

その結果の作品だ。

●わたしの町は、栃木県にある。

震災の被害はあまりなかった。













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 ブログとは違ったGGの小説の文章を読んでみてください。
 
 
 

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