奥様はバンパイァ 55
○「玲加がいない」
Mがふいにきづいた。
なにか体に力がはいらない。
玲加がすぐそばで戦っていると思いこんでいた。
玲加のことをかんがえてあげられないでいた。
その余裕をなくしていた。
「おとうさん。玲加がいない……? 玲加はどこ?? どこなの???」
「わたしは始めから玲加をみていない。玲加も一緒にきていたのか」
Mは寒気に襲われた。
分断されていた。
人狼のバラ園への侵入を阻止することばかりかんがえていた。
玲加と引き離されていたことにきづいていなかったのだ。
人狼のすさまじい悪意にとりかこまれていた。
玲加の存在に気配りができなかった。
すさまじい妖気と邪気の集団を前にしていた。
必死で戦っていた。
戦いぬいていた。
この人狼の群れに、美しいバラ園を荒らされることを恐れていた。
すさまじい凶念をあびてバラが枯れるのではないか。
わたしたちが生きる糧でもあるバラが凋んでしまうのではないか。
そのことばかり心配していた。
Gは意識の波を周囲にひろげた。
意識の隅に玲加の悲鳴が流れ込んできた。
「林の奥よ」
叫んだときにはGは走りだしていた。
林が忽然と消えていた。
草原になっている。
草いきれがする。
那須野が原だ。
青い草の海に陽炎が立っている。
あのときと同じだ。
もう玉藻さまは、いや玲加は食いちぎられてしまったのかもしれない。
あまりに静だ。
陽炎の中でGは過去の記憶をよみがえらせていた。
過去の悲惨な記憶に支配されていた。
わたしたちの駈けつけるのが今少し早ければ。
もつと速く走ることが出来ていければ……。
玉藻さまは死なずに済んだ。
歴史はかわっていた。
その時歴史は玉藻さまの死をきめてしまった。
そして今、21世紀。
玲加の死を酷くも刻印するのか。
玲加!
玲加!!
玲加!!!
負けないで。
直ぐいくから。戦っていて。
イントゥリーグ
pictured by 「猫と亭主とわたし」
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↓
○「玲加がいない」
Mがふいにきづいた。
なにか体に力がはいらない。
玲加がすぐそばで戦っていると思いこんでいた。
玲加のことをかんがえてあげられないでいた。
その余裕をなくしていた。
「おとうさん。玲加がいない……? 玲加はどこ?? どこなの???」
「わたしは始めから玲加をみていない。玲加も一緒にきていたのか」
Mは寒気に襲われた。
分断されていた。
人狼のバラ園への侵入を阻止することばかりかんがえていた。
玲加と引き離されていたことにきづいていなかったのだ。
人狼のすさまじい悪意にとりかこまれていた。
玲加の存在に気配りができなかった。
すさまじい妖気と邪気の集団を前にしていた。
必死で戦っていた。
戦いぬいていた。
この人狼の群れに、美しいバラ園を荒らされることを恐れていた。
すさまじい凶念をあびてバラが枯れるのではないか。
わたしたちが生きる糧でもあるバラが凋んでしまうのではないか。
そのことばかり心配していた。
Gは意識の波を周囲にひろげた。
意識の隅に玲加の悲鳴が流れ込んできた。
「林の奥よ」
叫んだときにはGは走りだしていた。
林が忽然と消えていた。
草原になっている。
草いきれがする。
那須野が原だ。
青い草の海に陽炎が立っている。
あのときと同じだ。
もう玉藻さまは、いや玲加は食いちぎられてしまったのかもしれない。
あまりに静だ。
陽炎の中でGは過去の記憶をよみがえらせていた。
過去の悲惨な記憶に支配されていた。
わたしたちの駈けつけるのが今少し早ければ。
もつと速く走ることが出来ていければ……。
玉藻さまは死なずに済んだ。
歴史はかわっていた。
その時歴史は玉藻さまの死をきめてしまった。
そして今、21世紀。
玲加の死を酷くも刻印するのか。
玲加!
玲加!!
玲加!!!
負けないで。
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