田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

吸血鬼の故郷   麻屋与志夫

2008-11-02 06:25:13 | Weblog
いまのところは分からない。
いずれにしても、人狼が変身を開始したときには、猫のようすで察知できる。
というような索敵防御システムではほとんど無効にちかかったのだ。

そこへきて、本田が倒れてしまっていた。
本田は街のヒトの中に埋没していた。
彼を目にしてもだれも彼を意識しない。
静穏にひっそりと生きていた。

駐輪場の日だまり。
背をかがめた彼の孤独な姿。
『涅槃原則』というか、ただただ猫に餌をあたえる隠者として。
老人としての静かに生存していることで。
一族のために人狼の覚醒のみに気をくばっていたのだ。

霧の中で咀嚼音がする。  
人狼の牙鳴りがする。
グチョグチョという音がする。 
美智子が食べられている。 
美智子が切り裂かれている。 
わたしは恐怖とともに走りだしていた。
「パパ、わたしもいく……」
祥代が長刀で血路を開く。   
人狼の街ビトの血が飛び散る。
もうこうなっては戦うのみだ。
その選択の可否を論じている余裕はない。

美智子が犬飼とにらみ合っていた。
こんどはみごとに擬音にひっかかった。
犬飼はヒトの形態をまだとっていた。   
わたしが美智子を助けに割って入ろうとする。

「婿殿のあいてはおれだよ」
ばかにした口調で人狼がいう。
狼が口をきくのがもう不審ではない。
そしてソノモノがヒロシだと認知できる。
がばっと開いた口に本田のところからつれてきた黒猫がとびこんだ。
ムックがヒロシの背を爪で切り割く。
黒猫はみずからをギセイにして人狼の喉をふさぐ気だ。
ヒロシはなんども口を歯を噛み合わせている。
黒猫を飲み込もうと焦っている。 
わたしはヒロシに猫たちの万感の恨みをこめて剣をつきたてた。
必殺の気合いを込めた。  

剣は人狼の背中を胸のほうまでつきぬけた。 
わたしは人狼の顎に両手をかけて大きく開いた。
黒猫を救い出した。   
全身に牙をつきたてられ瀕死の重傷だ。




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