ユリと結婚して今年で十五年になる。出会いは二人とも大学生の頃だった。当時居酒屋のバイト仲間にユリはいた。失敗しても素直に失敗を認めるところに惹かれた。
二人には子供はいなかった。
日常をくりかえす幸せを感じていた。
そのユリが最近おかしい。
どこかよそよそしく、同じ時間を共有しない。食事を終えるとそそくさと食器を洗い、自室に引き上げる。何を聞いても「そんなことないわ」「きのせいよ」としか言わなかった。
ユリはどうしたのだろう。
ある朝、目が覚めて部屋の中の静けさが嫌に気になった。気配が無い。まるで僕一人だけのような…はっとして飛び起きた。
「ユリ!」
声を上げてユリの寝室に飛び込む。そこには綺麗に畳まれたふとんとA4の紙があった。パソコンで一言印刷されていた。「さよなら」
思い当たることが何もない。どうしてこうなったのかわからない。分からないのがすべての答えよ。ユリがそう言っているように思えた。
足下がぐらつく。
立っていられない。
床にしゃがみ込む。
自分の涙で目が覚めた。
「あなた、大丈夫」
ユリがいた。いつもの笑顔だ。
「おまえどこにいったんだ」
「何言ってるのよ。どこにもいかないわよ。夢でもみたんじゃない」
そうか。夢だったのだ。
「来年もこれで良いですか」
「ええ、お願いします」
リノリュームの床。
少し薄暗いが電子機器の光がまたたく一室。
そこにユリはいた。
「こんなことしなくてもご主人はあなたの前からいなくならないと思いますよ」白衣を着た技術者はそう言った。ユリは自嘲気味に笑いながら「私、不安なの。私にはあの人しかいない。捨てられる不安から逃れられないの。だから年に一度だけ夢をあの人に見せてもらっているの」
ここはどんな夢でも自由にみせることのできるラボだ。
ユリが帰った後、技術者達はコーヒーを飲みながらいった。
「あの人、知らないだろうな。だんなもここに来て、同じ依頼をしてる事を…」
「まあ、ある意味、似たもの夫婦なんじゃないの…。お似合いだよ」
二人には子供はいなかった。
日常をくりかえす幸せを感じていた。
そのユリが最近おかしい。
どこかよそよそしく、同じ時間を共有しない。食事を終えるとそそくさと食器を洗い、自室に引き上げる。何を聞いても「そんなことないわ」「きのせいよ」としか言わなかった。
ユリはどうしたのだろう。
ある朝、目が覚めて部屋の中の静けさが嫌に気になった。気配が無い。まるで僕一人だけのような…はっとして飛び起きた。
「ユリ!」
声を上げてユリの寝室に飛び込む。そこには綺麗に畳まれたふとんとA4の紙があった。パソコンで一言印刷されていた。「さよなら」
思い当たることが何もない。どうしてこうなったのかわからない。分からないのがすべての答えよ。ユリがそう言っているように思えた。
足下がぐらつく。
立っていられない。
床にしゃがみ込む。
自分の涙で目が覚めた。
「あなた、大丈夫」
ユリがいた。いつもの笑顔だ。
「おまえどこにいったんだ」
「何言ってるのよ。どこにもいかないわよ。夢でもみたんじゃない」
そうか。夢だったのだ。
「来年もこれで良いですか」
「ええ、お願いします」
リノリュームの床。
少し薄暗いが電子機器の光がまたたく一室。
そこにユリはいた。
「こんなことしなくてもご主人はあなたの前からいなくならないと思いますよ」白衣を着た技術者はそう言った。ユリは自嘲気味に笑いながら「私、不安なの。私にはあの人しかいない。捨てられる不安から逃れられないの。だから年に一度だけ夢をあの人に見せてもらっているの」
ここはどんな夢でも自由にみせることのできるラボだ。
ユリが帰った後、技術者達はコーヒーを飲みながらいった。
「あの人、知らないだろうな。だんなもここに来て、同じ依頼をしてる事を…」
「まあ、ある意味、似たもの夫婦なんじゃないの…。お似合いだよ」