休日の午後。僕は街に出かけた。着飾った男女が颯爽と歩く。
僕は少し引け目を感じながら歩く。40歳。独身。貯金少し。
周囲の人々にすべて見透かされているのではないか。被害妄想的な卑屈な気持ち。
いやいや、今日は目的があって歩いている。
気持ちを切り替えてショールームに向かう。
メードロボットカンパニーを目指している。
テレビで盛んにCMを流しているのだ。
「アンドロイドバージョン7.9。お掃除、洗濯、料理、世間話、何でも出来ます。レンタルも出来ます。どうぞご相談ください」
僕には身分不相応かもしれないが、この先、結婚出来る保証もない。趣味らしい趣味も無い。ペットを飼うくらいならロボットメイドをレンタルしてみよう。
そう思ったのだ。
問題はレンタル料だ。
いったいどれくらいの金額なのか…。
「いらっしゃいませー」
自動ドアがひらいた。
髪の毛をピン止めしたスーツ姿の若い女性がやってくる。
苦手だ。女性が苦手なのだ。
「メイドロボットレンタルの金額プランをお聞きしたいのですが」
「どうぞこちらにお掛けください」
イスを勧められる。
「性能的なご質問は大丈夫ですか?実は私もメードアンドロイドなんです」
「えっ、ああ、大丈夫です。(まったくアンドロイドとは分からない。どこからどう見ても綺麗で知的な女性にしか見えない。まさかこれほどの事に世の中なっているとは)」
「そうですか。では料金プランのご説明をさせて頂きます。ワンデー、マンス、シックスマンス、ワンイヤー…」
テーブルの上のタブレットに表示された金額を見て時間が止まる。
だめだ。
僕の給料では到底払えない。
その後、アンドロイドとどんな会話をしたかあまり覚えはない。
しどろもどろになりながら、ショールームを後にした。
やはり僕には高嶺の花だったか…
そう思いながら重い足取りで岐路についた。
「すいません。今メードロボットカンパニーから出てこられましたか」
後ろから声を掛けられた。振り返るとシルクハットをかぶった老紳士が立っていた。
「はい、そうですが」
「お高かったですか?」
「そうですね。手が出ませんでしたが、それが何か?」
「実は私、バージョン7のメードアンドロイドをレンタルでは無く保持しております。格安でお貸しいたしますがどうでしょうか」
「格安とはどれくらいですか」
老紳士の言った金額は一桁違った(もちろん安い方にだ)
それを聞いた僕は俄然乗り気になった。
話を聞くとアンドロイドは車に乗っているというのだった。
「こんにちは。私はメードアンドロイドバージョン7.0「ナナ」と呼ばれています。」
僕はナナを見て老紳士と契約をかわした。
ナナとの生活が始まった。
朝起きるとすでにナナは朝食を作ってくれている。
キッチンに行くとナナは挨拶してくれる。
「おはようございます。はい、朝刊です。今日は午後から雨が降るそうなので傘をお持ちくださいね。本日のお帰りは何時くらいですか」
「いつもと同じくらいになります」
「そうですか。ちなみに今晩は何を食べたいですか?」
「そうですね、マーボー豆腐なんかどうでしょう」
「かしこまりました。ちなみに辛い方がお好きですか」
「辛いのがいいですね」
「かしこまりました」
ナナはとてもアンドロイドとは思えないほど人間的で優秀だった。
ただひとつ気になることはこの部屋には通いでやってくることだった。
朝早くやってきて、老紳士の家に帰っていくのだ。
メンテナンスと充電の為らしい。
この部屋にずっといてくれればいいのに。
そう思えてきた。
直帰の仕事が不意にあり、いつもとは違う時間に駅についた。
ナナだ。
向かいのホームに仕事を終えたナナが電車を待っていた。
僕は老紳士の家を知らない。
ナナにはずっと僕の家にいてもらいたい。
老紳士に掛け合いたい衝動にかられた。
気づいた時には足は反対側のホームにむかっていた。
車内のナナは本当に人間のように振る舞っていた。
他の人と同じようにスマホをいじり、鞄から手帳を取り出し、何かを書き込み、そして目を閉じて居眠りした。
ああ、ナナが人間なら僕の胸の内を伝えられるのに。
そう感じていた。
ナナは立ち上がり電車を降りた。
後を追う。
そのまま改札を出て、ナナはある建物に入った。
僕は目を疑った。
ナナは耳鼻科に入っていったのだ。
アンドロイドがなぜ耳鼻科に入るのだ。
そのとき、肩をたたかれた。
老紳士がそこにいた。
「どうして後をつけたのですか。お気づきのようにナナはアンドロイドではございません。人間です。ロボット技術の進歩により人間のできる仕事が激減したのです。ですからロボット偽ってでも仕事をしているのです」
僕にはそんなことはどうでもよかった。
ナナがロボットでは無い。
その事実が僕には心の底からうれしかった。
僕は少し引け目を感じながら歩く。40歳。独身。貯金少し。
周囲の人々にすべて見透かされているのではないか。被害妄想的な卑屈な気持ち。
いやいや、今日は目的があって歩いている。
気持ちを切り替えてショールームに向かう。
メードロボットカンパニーを目指している。
テレビで盛んにCMを流しているのだ。
「アンドロイドバージョン7.9。お掃除、洗濯、料理、世間話、何でも出来ます。レンタルも出来ます。どうぞご相談ください」
僕には身分不相応かもしれないが、この先、結婚出来る保証もない。趣味らしい趣味も無い。ペットを飼うくらいならロボットメイドをレンタルしてみよう。
そう思ったのだ。
問題はレンタル料だ。
いったいどれくらいの金額なのか…。
「いらっしゃいませー」
自動ドアがひらいた。
髪の毛をピン止めしたスーツ姿の若い女性がやってくる。
苦手だ。女性が苦手なのだ。
「メイドロボットレンタルの金額プランをお聞きしたいのですが」
「どうぞこちらにお掛けください」
イスを勧められる。
「性能的なご質問は大丈夫ですか?実は私もメードアンドロイドなんです」
「えっ、ああ、大丈夫です。(まったくアンドロイドとは分からない。どこからどう見ても綺麗で知的な女性にしか見えない。まさかこれほどの事に世の中なっているとは)」
「そうですか。では料金プランのご説明をさせて頂きます。ワンデー、マンス、シックスマンス、ワンイヤー…」
テーブルの上のタブレットに表示された金額を見て時間が止まる。
だめだ。
僕の給料では到底払えない。
その後、アンドロイドとどんな会話をしたかあまり覚えはない。
しどろもどろになりながら、ショールームを後にした。
やはり僕には高嶺の花だったか…
そう思いながら重い足取りで岐路についた。
「すいません。今メードロボットカンパニーから出てこられましたか」
後ろから声を掛けられた。振り返るとシルクハットをかぶった老紳士が立っていた。
「はい、そうですが」
「お高かったですか?」
「そうですね。手が出ませんでしたが、それが何か?」
「実は私、バージョン7のメードアンドロイドをレンタルでは無く保持しております。格安でお貸しいたしますがどうでしょうか」
「格安とはどれくらいですか」
老紳士の言った金額は一桁違った(もちろん安い方にだ)
それを聞いた僕は俄然乗り気になった。
話を聞くとアンドロイドは車に乗っているというのだった。
「こんにちは。私はメードアンドロイドバージョン7.0「ナナ」と呼ばれています。」
僕はナナを見て老紳士と契約をかわした。
ナナとの生活が始まった。
朝起きるとすでにナナは朝食を作ってくれている。
キッチンに行くとナナは挨拶してくれる。
「おはようございます。はい、朝刊です。今日は午後から雨が降るそうなので傘をお持ちくださいね。本日のお帰りは何時くらいですか」
「いつもと同じくらいになります」
「そうですか。ちなみに今晩は何を食べたいですか?」
「そうですね、マーボー豆腐なんかどうでしょう」
「かしこまりました。ちなみに辛い方がお好きですか」
「辛いのがいいですね」
「かしこまりました」
ナナはとてもアンドロイドとは思えないほど人間的で優秀だった。
ただひとつ気になることはこの部屋には通いでやってくることだった。
朝早くやってきて、老紳士の家に帰っていくのだ。
メンテナンスと充電の為らしい。
この部屋にずっといてくれればいいのに。
そう思えてきた。
直帰の仕事が不意にあり、いつもとは違う時間に駅についた。
ナナだ。
向かいのホームに仕事を終えたナナが電車を待っていた。
僕は老紳士の家を知らない。
ナナにはずっと僕の家にいてもらいたい。
老紳士に掛け合いたい衝動にかられた。
気づいた時には足は反対側のホームにむかっていた。
車内のナナは本当に人間のように振る舞っていた。
他の人と同じようにスマホをいじり、鞄から手帳を取り出し、何かを書き込み、そして目を閉じて居眠りした。
ああ、ナナが人間なら僕の胸の内を伝えられるのに。
そう感じていた。
ナナは立ち上がり電車を降りた。
後を追う。
そのまま改札を出て、ナナはある建物に入った。
僕は目を疑った。
ナナは耳鼻科に入っていったのだ。
アンドロイドがなぜ耳鼻科に入るのだ。
そのとき、肩をたたかれた。
老紳士がそこにいた。
「どうして後をつけたのですか。お気づきのようにナナはアンドロイドではございません。人間です。ロボット技術の進歩により人間のできる仕事が激減したのです。ですからロボット偽ってでも仕事をしているのです」
僕にはそんなことはどうでもよかった。
ナナがロボットでは無い。
その事実が僕には心の底からうれしかった。