日常観察隊おにみみ君

「おにみみコーラ」いかがでしょう。
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◎本日の想像話「適正の現実」

2016年12月25日 | ◎これまでの「OM君」
不思議な出来事の一番最初の記憶。
あれは、ひらがなが少し読めるようになった頃だろう。
4歳くらいだっただろうか。

幼稚園に向かう途中にあるパン屋さんがあった。
ショーウインドーにはあんパン、サンドイッチ、コロネ。商品写真としてポスターが貼ってある。
幼稚園に向かういやな気持ちを逃れるようにパンの写真を見るのが大好きだった。
「あおちゅうい」
そんな張り紙が目に入った。
「ねえ、ねえ、おかあさん。あの張り紙なに?」
一緒に歩く母に聞いた。
「え、どの張り紙?」
「あのパン屋さんの窓だよ。チョココロネの隣にあるでしょう」
ポスターを指さした。
「ん~っと、チョココロネの横にはポスター無いよ」
「ええ!あるでしょ!」
「ないよ、もう遅刻しそうなんだから早く歩いて」
半べそをかく僕の手を母はなかば強引に引いた。
釈然としないまま交差点にさしかかった。
この道路は交通量が多く、信号はなかなか変わらない。
「ほら、今、青だよ。渡っちゃおう!」
母は駈けだした。
「まって、今日は「あおちゅうい」だってそう書いてあった」
僕は母の手を強くひいた。

ブーー!

クラクションの大きな音と共に目の前を巨大なダンプが走り抜けた。
歩行者用の信号は青。
その時チラリと運転手の顔が見えた。
頬に青紫の大きな傷跡があった。
母は腰を抜かし、その場に座り込んだ。

次に予言が現れたのは高校受験を控えたある夜。
その当時の僕の心境は同級生の勉強の進捗具合だけが気になっていた。自分だけ勉強がひどく遅れているのでは無いだろうかという切迫感に支配されていた。
そしてある噂を聞いた。
どうやら同級生のミツル君が自分と同じ高校の推薦枠を狙っているらしいという。
推薦枠は一つしかない。
勉強はミツル君の方がよくできる。
僕はその推薦枠を諦めるのかそれとも狙うのかという事にも悩んでいた。
そんな夜、深夜ラジオを聞きながら悶々とした気持ちで勉強をしていた。

ざ、ざ、ざざー

ノイズが入り、ラジオの音が途切れた。
そして男性なのかそれとも女性なのかも判断できない声が言った。
「スイセンワクハネライナサイ。ライバルハイナクナル」
あの幼い時の思い出、交差点での出来事が頭をよぎった。

事件は3日後におこった。
部活最終日の帰宅途中にミツル君は何者かに刃物で襲われた。
生死の境をさまよったミツル君の傷は深く、命は助かったが、治療に8ヶ月以上かかる重傷だった。
犯人は結局捕まらず、ミツル君は留年した。


その後、予言はいろんな場面で出現した。
ある時はサンドイッチマンの背中に。
ある時は踏切で目の前を通り過ぎる電車の車窓に張り紙はあった。
そして予言はほぼ的中していった。
僕は確信した。
この予言は僕の能力なのだと。
神が僕に託した才能なのだと信じた。

実は僕の母親はある宗教の教祖なのだ。
この予言の力を世の為に発揮する事が僕の使命なのだ、そう信じた。

母の後をついで僕は教祖になった。
自分に起こった予言は事実だ。
教祖就任当初、ぼくは自信に満ちあふれてた。
しかし時が経てば経つほど自信は消滅していった。
なぜならその後、予言が僕に降臨する事がなかったからだ。

僕は母に相談した。
「実は予言が聞こえないんだ」
母はなんの表情も浮かべず言った。
「いいのよ。いいのよそれで。正論を連呼する。それがあなたの仕事なの」
そう言われた僕は、元教祖が言うのだから、それでもいいのかなと思い直した。


母と男が話している。
男の頬には傷跡があった。
その傷跡は大きく、紫色に染まっている。
「教祖を作り上げる。教祖は私にそう言われましたね」
傷の男は言った。
「そうね。言ったわ」
「ご子息に霊能力の存在を信じさせる為に私、長い年月尽力いたしました。ダンプカーをつっこませ、何の罪もない若者も傷つけました。この作業は必要だったのでしょうか。教祖、私は間違っていませんでしょうか」
教祖の表情は変わらない。
「あなたは間違っていません」
そう言った教祖の手には手斧が握られていた。
コメント
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