私の寝ている頭のすぐ近くにハードディスクレコーダーがある。
深夜、このレコーダーの電源がひとりでに入っていることがある。
ちょっとしたパイロットランプの光でも頭上の暗闇で点灯すると驚くほど輝く。
説明書を熟読してもよくわからない。
生活パターンを学習して自動的に電源をON・OFFする機能もあるが、その設定は切った。
まあ、使えているので細かいことは気にしないようにした。
そんなこともあるさ。
若かかりし頃は自分の思うとおりに事が運ばない場合、頭に血が上り、怒りまくっていた。
でも、初老に片足をつっこむ年代になるともう細かいことは気にしなくなってきた。
次の日の朝、妻のケイコが私のために焼いてくれたトーストを皿に乗せながら言った。
「私のスマホ、寝ている間に勝手に電源が入るの。どういう事なんかね」
新聞を視界のはしに入れたまま生返事をする。
「うん」
「ちょっと聞いてる。この前買ったばかりなのに、これが初期不良だったらショック。また窓口に行っても1時間以上待たないとカウンターのお姉さんと話もできないのよ。いやになっちゃう」
(レコーダーに電源が入る、スマホにも電源が入る、こりゃおもしろい)
私は新聞8割、妻の話1割、残りの思考の隙間で一人うけていた。
ある日、しげしげとハードディスクの機械を観察していた。
天板上面右隅にはディスク開閉のボタンがある。
このボタンは知っている。
ディスクの開閉の時に使うからだ。
おや…
私の視線は釘付けになった。
天板上面左隅にスイッチがあったのだ。
この機械はおしゃれ気取りなのか、外見は何の出っ張りもないぬらりと光る一見ただの箱だ。
ボタンの存在もわかりにくい。
よく見るとボタンに説明が書かれている。
この字もまた小さい。
私は顔を近づけて、やっと読むことが出来た。
「電源」
ああ、これはメインスイッチだ。
いつも電源ONはリモコンを使う。
本体ボタンを使って電源をONにしたことは、これまで無かった。
私は何故電源が勝手に入るのか分かった。
電源が勝手に入る謎、それは…
私が寝ながらこのボタンを押している。
寝相の悪い私は片手を飛び出させてたまま寝返りを打つ癖がある。
これか…
では妻のスマホの電源が勝手に入るのは何故か…
私はその夜、妻の布団、妻の位置、スマホの位置を見た。
妻は翌日の着替えを頭の上に用意して眠る。
畳まれた服の上に電源が着られたスマホが置かれている。
深夜、私はローリング寝相によりハードディスクに電源が入ったのを自覚した。
寝ぼけ眼で主電源のパイロットランプを眺めた。
推理が正しかった事に少し満足感を覚えた。
ふと妻を見た。
夫婦はやっぱり似るのだな。
妻が片手を頭上にのばしながらごろごろと寝返りを繰り返す様を。
そしてミラクルも見た。
ちょうど、
ちょうどスマホの電源ボタンの上で寝返りの回転が逆になる様を。
人差し指はしっかりと確実に電源ボタンを長押し、電源が入った後、指紋認証もされていたのだった。
ハードディスクもスマホも置き場所を変えたら問題は解決だな。
そう思って頻尿気味の私はトイレに向かった。
深夜、このレコーダーの電源がひとりでに入っていることがある。
ちょっとしたパイロットランプの光でも頭上の暗闇で点灯すると驚くほど輝く。
説明書を熟読してもよくわからない。
生活パターンを学習して自動的に電源をON・OFFする機能もあるが、その設定は切った。
まあ、使えているので細かいことは気にしないようにした。
そんなこともあるさ。
若かかりし頃は自分の思うとおりに事が運ばない場合、頭に血が上り、怒りまくっていた。
でも、初老に片足をつっこむ年代になるともう細かいことは気にしなくなってきた。
次の日の朝、妻のケイコが私のために焼いてくれたトーストを皿に乗せながら言った。
「私のスマホ、寝ている間に勝手に電源が入るの。どういう事なんかね」
新聞を視界のはしに入れたまま生返事をする。
「うん」
「ちょっと聞いてる。この前買ったばかりなのに、これが初期不良だったらショック。また窓口に行っても1時間以上待たないとカウンターのお姉さんと話もできないのよ。いやになっちゃう」
(レコーダーに電源が入る、スマホにも電源が入る、こりゃおもしろい)
私は新聞8割、妻の話1割、残りの思考の隙間で一人うけていた。
ある日、しげしげとハードディスクの機械を観察していた。
天板上面右隅にはディスク開閉のボタンがある。
このボタンは知っている。
ディスクの開閉の時に使うからだ。
おや…
私の視線は釘付けになった。
天板上面左隅にスイッチがあったのだ。
この機械はおしゃれ気取りなのか、外見は何の出っ張りもないぬらりと光る一見ただの箱だ。
ボタンの存在もわかりにくい。
よく見るとボタンに説明が書かれている。
この字もまた小さい。
私は顔を近づけて、やっと読むことが出来た。
「電源」
ああ、これはメインスイッチだ。
いつも電源ONはリモコンを使う。
本体ボタンを使って電源をONにしたことは、これまで無かった。
私は何故電源が勝手に入るのか分かった。
電源が勝手に入る謎、それは…
私が寝ながらこのボタンを押している。
寝相の悪い私は片手を飛び出させてたまま寝返りを打つ癖がある。
これか…
では妻のスマホの電源が勝手に入るのは何故か…
私はその夜、妻の布団、妻の位置、スマホの位置を見た。
妻は翌日の着替えを頭の上に用意して眠る。
畳まれた服の上に電源が着られたスマホが置かれている。
深夜、私はローリング寝相によりハードディスクに電源が入ったのを自覚した。
寝ぼけ眼で主電源のパイロットランプを眺めた。
推理が正しかった事に少し満足感を覚えた。
ふと妻を見た。
夫婦はやっぱり似るのだな。
妻が片手を頭上にのばしながらごろごろと寝返りを繰り返す様を。
そしてミラクルも見た。
ちょうど、
ちょうどスマホの電源ボタンの上で寝返りの回転が逆になる様を。
人差し指はしっかりと確実に電源ボタンを長押し、電源が入った後、指紋認証もされていたのだった。
ハードディスクもスマホも置き場所を変えたら問題は解決だな。
そう思って頻尿気味の私はトイレに向かった。