とある日の夕方、小学六年生のひろし君はいつものように下校していた。
「ひろし君、ひろし君」
ひろし君は声の出所を探すが人影は無い。舌打ちをしながらひろし君は大きめの声で諭した。
「いいから出てきなよ博士」
校門横の二宮きんじろうの顔がひろし君にゆっくり向いた。そして瞬きしながら口を開いた。
「なんじゃ今日は機嫌が悪いのう」
ひろし君はぎょっと目を見開いた。
「きんじろうがしゃべった」
「そりゃしゃべるよ。この像はひろし君が入学してからずっとワシが常勤にのみやとして働いとったんじゃから」
「常勤にのみや?」
「そうじゃ。知らんかったのか。全国の銅像は人が演じとるんじゃ。下校時間がすぎるとはりぼての二宮に交換して家に帰るんじゃ。次の日は夜が明ける前にタイムカードを押してからここに立つんじゃ。今日はひろし君が最後の生徒じゃから声をかけたぞ」
博士は台座に格納されていた張りぼての像を今は何も無い台座の上に置いた。
「ところで何をカリカリしておるんじゃ」博士はねずみ色のメイクを落としながらひろし君に聞いた。
「漢字テストでいい点がとれなかったんだ」ひろし君は石ころを軽く蹴ったあとに答えた。
「勉強はしたんかい」
「ううん、してない」
「それならば点数が悪くて当たり前じゃろう」
「勉強しなくていい点が取りたいんだ」ひろし君は力説した。
「勉強しなくていい点が取りたいんじゃな。そんな簡単な事で悩んでおったのか」
「簡単な事?」
「そうじゃ」
「もしかしてペンが問題をスキャンして、自動で答えを書き込んでくれるような全自動天才ペンとかなの?」
博士は首を大きく振った。
「いいや。それぐらいのペンならちょちょいと作れる。もっとスマートな奴じゃ。ひろし君は先日ワシが発明した光学迷彩の風呂敷を覚えとるか」
「うん覚えてるよ表と裏を間違えて羽織ると自分の姿が投影されるやつでしょう」
「そうじゃ。ちなみにその表裏問題はすでに解決ずみじゃ。表には大きな字で表と書いたから大丈夫じゃ。まあ、表という字が結果、空中に浮く感じにはなるがいたしかたない。まあ、それはいいんじゃ、その光学迷彩風呂敷をワシがかぶるじゃろ」
「うん」
「ひろし君が教室に入るときにすぐ後ろからワシがついて行く」
「うん」
「テストが始まったら、ワシがひろし君に後ろから覆い被さる」
「うん」
「あとは二人羽織でワシが答えをかいて行くから安心してテストを受けるが良い。ただし、ワシはおしっこが近いから二十分くらいしかその場にはおれん。その時教室のドアが閉まっておるのなら、怪奇現象よろしく誰もいないはずなのにドアが開いて退席するがそれでも良いか」
「だめだよ。ペン型の奴でいいよ」
「ペン型で本当に良いのか」
「そっちの方がずっといいよ」
「そうか、なら金型からおこしてチップを開発して、ネットにつなげるのは危険だから、ハードディスクの情報をやりくりして応用から答えをみちびく仕様にして…。そうじゃな、五億円ほどくれたらちょちょいと作ってやるぞ。二人羽織ならワシの日当プラスアルファとワシの予定が合えばいつでもやってやるぞ」
ひろし君は伏し目がちになってつぶやいた。
「僕、やっぱり勉強するよ」
「ひろし君、ひろし君」
ひろし君は声の出所を探すが人影は無い。舌打ちをしながらひろし君は大きめの声で諭した。
「いいから出てきなよ博士」
校門横の二宮きんじろうの顔がひろし君にゆっくり向いた。そして瞬きしながら口を開いた。
「なんじゃ今日は機嫌が悪いのう」
ひろし君はぎょっと目を見開いた。
「きんじろうがしゃべった」
「そりゃしゃべるよ。この像はひろし君が入学してからずっとワシが常勤にのみやとして働いとったんじゃから」
「常勤にのみや?」
「そうじゃ。知らんかったのか。全国の銅像は人が演じとるんじゃ。下校時間がすぎるとはりぼての二宮に交換して家に帰るんじゃ。次の日は夜が明ける前にタイムカードを押してからここに立つんじゃ。今日はひろし君が最後の生徒じゃから声をかけたぞ」
博士は台座に格納されていた張りぼての像を今は何も無い台座の上に置いた。
「ところで何をカリカリしておるんじゃ」博士はねずみ色のメイクを落としながらひろし君に聞いた。
「漢字テストでいい点がとれなかったんだ」ひろし君は石ころを軽く蹴ったあとに答えた。
「勉強はしたんかい」
「ううん、してない」
「それならば点数が悪くて当たり前じゃろう」
「勉強しなくていい点が取りたいんだ」ひろし君は力説した。
「勉強しなくていい点が取りたいんじゃな。そんな簡単な事で悩んでおったのか」
「簡単な事?」
「そうじゃ」
「もしかしてペンが問題をスキャンして、自動で答えを書き込んでくれるような全自動天才ペンとかなの?」
博士は首を大きく振った。
「いいや。それぐらいのペンならちょちょいと作れる。もっとスマートな奴じゃ。ひろし君は先日ワシが発明した光学迷彩の風呂敷を覚えとるか」
「うん覚えてるよ表と裏を間違えて羽織ると自分の姿が投影されるやつでしょう」
「そうじゃ。ちなみにその表裏問題はすでに解決ずみじゃ。表には大きな字で表と書いたから大丈夫じゃ。まあ、表という字が結果、空中に浮く感じにはなるがいたしかたない。まあ、それはいいんじゃ、その光学迷彩風呂敷をワシがかぶるじゃろ」
「うん」
「ひろし君が教室に入るときにすぐ後ろからワシがついて行く」
「うん」
「テストが始まったら、ワシがひろし君に後ろから覆い被さる」
「うん」
「あとは二人羽織でワシが答えをかいて行くから安心してテストを受けるが良い。ただし、ワシはおしっこが近いから二十分くらいしかその場にはおれん。その時教室のドアが閉まっておるのなら、怪奇現象よろしく誰もいないはずなのにドアが開いて退席するがそれでも良いか」
「だめだよ。ペン型の奴でいいよ」
「ペン型で本当に良いのか」
「そっちの方がずっといいよ」
「そうか、なら金型からおこしてチップを開発して、ネットにつなげるのは危険だから、ハードディスクの情報をやりくりして応用から答えをみちびく仕様にして…。そうじゃな、五億円ほどくれたらちょちょいと作ってやるぞ。二人羽織ならワシの日当プラスアルファとワシの予定が合えばいつでもやってやるぞ」
ひろし君は伏し目がちになってつぶやいた。
「僕、やっぱり勉強するよ」