オレンジな日々

広島在住のシンガーソングライター&ピアニスト
三輪真理(マリ)のブログです。
音楽大好きな日常を綴っています。

タイム・リミット

2018-06-30 | 

高校3年生の頃、国語の授業で小説を書くことになりました。
お題は、ある決まったフレーズを使って好きなテーマで小説を書くこと。 
クラス全員が小説を書いてそれを全員で回し読みして、一番人気があった小説がトップページを飾ることができました。
そして私の小説は何と幸運なことにそのトップを飾ることに!!
最近、断捨離しようと思い出の箱をひっくり返していたらその文集が出てきたので、記念にここにも紹介しておこうと思います。

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『タイム・リミット』     下津真理

え・・・・・?
ぼくは、思わず目をこすった。学校の帰り道、ぼくは幻のような夢を見た。それとも夢のような幻を見たというべきなのだろうか。

中間考査の悲惨な答案を入れた鞄がやけに重く、足取りもそれに劣らず重かった。いつものように、宮本商店の角を曲がって、空き地の前を歩いていたぼくの目の前に彼女は現れた。現れたと言っても塀の後ろから飛び出してきたんじゃなくて、そう、まるで煙かなんかの中から出てきたように、何もない所から突然すっと出現したのだ。水色のワンピースを揺らしてにっこりと笑った彼女、その彼女の顔を見て、ぼくはまた目をこすった。似てる、誰かに・・・ぼっ、ぼくにだ。驚愕の色を隠しきれないぼくに、彼女はゆっくりと声をかけた。

 「初めまして。坂下まこと君。」

耳の奥から聞こえるような声に、やっとぼくは我に返って、

 「はっ、初めまし・・て・・・・いっ、一体、君は誰なんだ!?どっからきたの、それよりどうしてぼくの名前・・・宇宙人?幽霊?ぼくに何の用なんだ?」

自分でもあきれ返るほど、興奮して言った。そんなぼくに、彼女はちょっと驚いて、そしてクスッと笑って話し出した。

 「私、坂下まこと。この世界と別の次元からきたの。明日からのあなたになるために。」
 「なんだって・・・?」
 「私は、あなたになるの。ううん違うな、あなたは私になるの。」
 「???」


彼女の不思議な言葉に息を詰まらせているぼくに、彼女が話したことはこうだ。
日本には人口が増えすぎた。何とか弊害なく人口を減らしたい。そう考えた科学者と医師たちは、人間を生まれる直前に、異次元へ飛ばしてしまうことを考えた。親に分からないように・・・。
そこで目をつけられたのが、一卵性、二卵性双生児だ。生まれる直前に一人飛ばしても、親に前もって一人だと言っておけば、ばれることもない。
ところが、生まれる直前に異次元へ飛ばされた子は、ある期間すると、この次元へ戻ってくるのだそうだ。そこで、先に生まれていた子と交替するというのだ。
手っ取り早くいうと、彼女とぼくとは双子で、その交替までの期間が、ぼくらの場合は18年で・・・で明日がぼくの18才の誕生日なんだ。

 「という訳で、今日があなたのタイム・リミットなの。今日限りであなたはこの世界に存在しなくなるわ。18年間ご苦労さま。」

あっけにとられていたぼくは、やっとのことで言った。

 「ご苦労さまって、そんな馬鹿な話、あってたまるか!18年で交替!?そんなチリ紙交換みたいに、勝手に換えられてたまるもんか。それに、もし仮にその話が本当だとしても不公平じゃないか。ぼくの方だけ18年しかないなんて。」
 
 「不公平?」

彼女は笑って言った。

 「だってあなた、あなた自分の、いや明日からの私の人生が、何年あるって言える?私がもし20才で死んだら、あなたの方が長くこの世にいたことになるじゃない。」
 「そんな・・・・。」
 「だけどぼくには家族がいるんだぜ。友達だって。あいつらはどうなるんだ。君がぼくだなんて誰が信じるもんか。まさかあいつらまで交替じゃないんだろ?第一、ぼくと君は、いくら顔が似てたって、男と女だぜ。」
 「ふふっ。あなたは現代医学の進歩を知らないのね。彼らは今夜のうちにあなたと関わりを持つ全ての人々を洗脳して、あなたの記憶を私の記憶にすり換えるわ。もちろん私も、今日のことは忘れてしまうけど。そして、あなたは、この世界のどこにも・・・人の心の中にさえ存在しなくなるのよ。」

これは夢だ。夢でなければ錯覚だろう。錯覚でなければ、夢以外にあり得ない。こんなことが本当にあってたまるか。ぼくがこの世に存在しなくなる!?「『時間切れ(タイム・リミット)』だ!?そんな馬鹿な話、誰が信じるもんか。「坂下まこと」はぼくだぞ!18年間生きて、悩んできたのはこのぼくなんだ。
昨日も、今日も、明日だってそうだ。今日までの18年間は、いや明日からも、ぼくの人生はぼくのものだぞ。でなけりゃ何の為に生きたんだ!?もういい加減にしてくれ。やめてくれ、やめてくれ、やめろーーー!

 「やめてー。」

私は飛び起きた。家中に響きわたる大声。

 「どうしたの。まこと。」

お母さんが慌てて階段を駆け上がってきた。
 
 「おかしな夢見ちゃった。」

ぼそっと言った私に、あきれ顔でお母さんが言った。

 「何ぐずぐずしてるのよ。早くしないと遅刻よ。」

 「姉貴!!ぼく行くよ。誕生日のプレゼント、『みゆき』の5巻で本当にいいんだね。」

大声で叫んで弟が出て言った。時計は8時1分。ぎょっ、本当に遅刻だ!大急ぎで着替えて顔を洗い、ジミーの鏡にニッと笑って、トーストとコーヒーを一口ずつ頰ばった。
そうだ!今日は18才の誕生日。今日から18才か。何となくくすぐったい。何もかもが新鮮な気がする。

 「行ってきまあす!」

             (おわり)

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高校3年生。多感な時期に書いた私の処女作。
というか、後にも先にも小説なんて書いたのはこの時限りでしたけどね。
「ぼくは幻のような夢を見た。それとも夢のような幻を見たというべきなのだろうか。」
という教科書のSF小説の文章を使って、という課題だったこともあり、想像力を自由に膨らませて書いたのを思い出します。


いつかまた機会があれば小説も書いてみようかな、とも思っています。
そんな時間あるかな(笑)
よかったら感想など聞かせてくださいね。



映画『羊と鋼の森』(ネタバレあり)

2018-06-27 | おすすめ映画

映画『羊と鋼の森』を観に行ってきました。
2016年に本屋大賞受賞した宮下奈都の小説の映画化作品。
まずは映画『羊と鋼の森』公式サイトよりストーリーの紹介です。


【転載開始】

「羊」の毛で作られたハンマーが、
「鋼」の弦をたたく。
 ピアノの音が生まれる。
 生み出された音は、
「森」の匂いがした―


将来の夢を持っていなかった主人公・外村(山﨑賢人)は、 高校でピアノ調律師・板鳥(三浦友和)に出会う。
彼が調律したその音に、 生まれ故郷と同じ森の匂いを感じた外村は、 調律の世界に魅せられ、果てしなく深く遠い森のような その世界に、足を踏み入れる。
ときに迷いながらも、先輩調律師・柳(鈴木亮平)や ピアノに関わる多くの人に支えられ、磨かれて、 外村は調律師として、人として、逞しく成長していく。
そして、ピアニストの姉妹・ 和音(上白石萌音)由仁(上白石萌歌)との出会いが、 【才能】に悩む外村の人生を変えることに―。


【転載終了】


映画は期待した以上に良かったです。
監督は橋本光二郎監督。
「1つの音から森の映像が広がる」。小説では文章で書かれた情景を実際にピアノの鍵盤の映像から森の映像にシフトさせていく描写、板鳥の調律を聞いている外村の背景に木々の影が流れる描写、心を閉ざしてピアノから遠ざかっていた和音が外村の調律したピアノを弾いていくうちに海の底から目覚めて水上に上がっていく描写、言葉を映像と音に変えるという映画のこだわり、監督の映画に込めた思いが随所に現れていました。


ピアノ調律師を扱った映画でとっても印象的だったのは2012年に観た『ピアノマニア』(2012年8月3日の日記)。
こちらは実際の調律師を追いかけたドキュメンタリーでしたが、「羊と鋼・・」の方は小説。
その映画化に当たって俳優さんたちは実際の調律師さんの指導を受けて何ヶ月も特訓があったそう。
それも大変な話ですね。


ピアニスト役の上白石姉妹はこれまたやったことのないピアノを何ヶ月も特訓したそうです。
連弾のシーンなんて本当にお見事でした。
もちろん、音声やアップのシーンは多少の吹き替えはあったと思いますが、それでも何の違和感もなく映画に入り込めました。
映画って本当にすごいですね。


北海道の旭川の森の美しさや雪景色の美しさも素晴らしかった。
極寒の地での撮影はスタッフさんも俳優さんたちもさぞかし大変だったことと思います。
それにしても日本の森って本当に本当に美しいですね。
この自然を大事にしていきたいって改めて思えます。
そしてピアノの音がとっても印象的なサントラは、83年生まれの作編曲家でシンガーソングライターの世武裕子さん。
森の梢の音や風の音、ピアノがホールに響く音、などなど、音声さんや録音さんの技術も素晴らしかった。


そして最後に特記しておきたいシーンは、調律師となった外村が目標とする調律師・板鳥に「どんな音を目指していますか」と問うシーン。板鳥はそこで詩人・原民喜の言葉を引用し答えます。

 

「明るく静かに澄んで懐しい文体、
 少しは甘えてゐるやうでありながら、
 きびしく深いものを湛へてゐる文体、
 夢のやうに美しいが現実のやうにたしかな文体」
(随筆「沙漠の花」より)


 

外村は「もう一度お願いします」と板鳥に乞うて、急いで手帳にこの言葉を書き留めますが、この文章は原作の宮下さん自身が感銘を受け、自分が目指しているのはこういう文章だと手帳に書き留めていたものだったそうです。
宮下さんの小説はほとんどデビュー当時の2007年の『スコーレNo.4』を文庫本で読んだっきりでしたが、自分が目指すものに向かって、コツコツと書き続けて、本屋大賞を受賞するような作品を書き上げるようになられたんだなって感慨深く思いました。原作もぜひ読んでみたいと思います。


私もコツコツと頑張ろう。
いい映画に出会えて良かったです。




こちらの、監督と出演者さんたちの制作秘話も興味深いです。





 






6月になりました。

2018-06-14 | アルバム『星をカバンに詰め込んで』関連

6月に入りました。
色とりどりの紫陽花の花が目に美しい季節です。
6月に入ってから予定が満載で目まぐるしい毎日でした。


そんな中、先週の火曜日、飼ってたインコの「キウイ」が虹の橋を渡り天国へと旅立ちました。
4羽の中でいちばん愛らしいメスのインコでした。オスのナップルとラブラブで毎日仲良しの姿を見させてもらってたんですが、メガバクテリアという病気にかかっていることがわかり、それから2週間目のことでした。


人も動物もいつかこの世での命は尽きます。
でも魂は永遠で、肉体が無くなっても残ると言います。
天使みたいに可愛らしかったキウイは、きっと本物の天使になって仲良しのナップルの側や空を自由に行き来しながら、キュウキュウというあの鈴を転がすような可愛らしい鳴き声を聞かせてくれていることでしょう。


Peppermint Leafのセカンドアルバムに収録の「六月の雨」という曲は、若くして亡くなった友人の死をきっかけに書いた曲です。この時期に降る霧雨のような細かい雨を小糠雨(こぬかあめ)というそうですが、そんな雨の日に広島のバイパスを走っている時にできた曲でした。


同じ時代を過ごした大切な仲間がこの世からいなくなると本当にやりきれない気持ちになるものですが、その人のことを自分が忘れずに覚えていれば、自分が生きている限りは自分の中にその人が生き続けていく気がしています。
そういう友人や家族がいる私には、まだまだやらなくてはいけないことがたくさん。
そしてそれが毎日を生きていく原動力にもなっています。
まだまだ頑張るよ!!





「君が最初に言った言葉、そして最後に言った言葉、
 ずっと忘れずにいたいから ずっと覚えていたいから」

(「六月の雨」/ Peppemrint Leaf 『星をカバンに詰め込んで』収録曲 )


7月と8月のライブが決まりました。
よかったら見に来てくださいね。



G.A.P LIVE TOUR 2018
日時:2018年7月14日(土)18:00〜

出演:Peppermint Leaf 
    三輪真理(Vo&Pf)、石井聡至(Cho&Dr)、岩藤洋(Cho&Ba)
   G.A.P(from 神戸)
場所:LIVE Cafe Jive
  (広島市中区薬研堀2-13 tel 082-246-2949)
料金:前売り2500円、当日3000円(飲食別)



Peppermint Leaf  Live in Yatsushiro 2018
日時:2018年8月26日(日)13:30〜

出演:Peppermint Leaf 
   三輪真理(Vo&Pf)、石井聡至(Cho&Dr)、岩藤洋(Cho&Ba)
場所:Music Restaurant Bar Z
  (熊本県八代市本町1丁目2-24 スカイツリービル2F tel 0965-32-1787)
料金:2500円(ワンドリンク付き)