高校3年生の頃、国語の授業で小説を書くことになりました。
お題は、ある決まったフレーズを使って好きなテーマで小説を書くこと。
クラス全員が小説を書いてそれを全員で回し読みして、一番人気があった小説がトップページを飾ることができました。
そして私の小説は何と幸運なことにそのトップを飾ることに!!
最近、断捨離しようと思い出の箱をひっくり返していたらその文集が出てきたので、記念にここにも紹介しておこうと思います。
------------------------
『タイム・リミット』 下津真理
え・・・・・?
ぼくは、思わず目をこすった。学校の帰り道、ぼくは幻のような夢を見た。それとも夢のような幻を見たというべきなのだろうか。
中間考査の悲惨な答案を入れた鞄がやけに重く、足取りもそれに劣らず重かった。いつものように、宮本商店の角を曲がって、空き地の前を歩いていたぼくの目の前に彼女は現れた。現れたと言っても塀の後ろから飛び出してきたんじゃなくて、そう、まるで煙かなんかの中から出てきたように、何もない所から突然すっと出現したのだ。水色のワンピースを揺らしてにっこりと笑った彼女、その彼女の顔を見て、ぼくはまた目をこすった。似てる、誰かに・・・ぼっ、ぼくにだ。驚愕の色を隠しきれないぼくに、彼女はゆっくりと声をかけた。
「初めまして。坂下まこと君。」
耳の奥から聞こえるような声に、やっとぼくは我に返って、
「はっ、初めまし・・て・・・・いっ、一体、君は誰なんだ!?どっからきたの、それよりどうしてぼくの名前・・・宇宙人?幽霊?ぼくに何の用なんだ?」
自分でもあきれ返るほど、興奮して言った。そんなぼくに、彼女はちょっと驚いて、そしてクスッと笑って話し出した。
「私、坂下まこと。この世界と別の次元からきたの。明日からのあなたになるために。」
「なんだって・・・?」
「私は、あなたになるの。ううん違うな、あなたは私になるの。」
「???」
彼女の不思議な言葉に息を詰まらせているぼくに、彼女が話したことはこうだ。
日本には人口が増えすぎた。何とか弊害なく人口を減らしたい。そう考えた科学者と医師たちは、人間を生まれる直前に、異次元へ飛ばしてしまうことを考えた。親に分からないように・・・。
そこで目をつけられたのが、一卵性、二卵性双生児だ。生まれる直前に一人飛ばしても、親に前もって一人だと言っておけば、ばれることもない。
ところが、生まれる直前に異次元へ飛ばされた子は、ある期間すると、この次元へ戻ってくるのだそうだ。そこで、先に生まれていた子と交替するというのだ。
手っ取り早くいうと、彼女とぼくとは双子で、その交替までの期間が、ぼくらの場合は18年で・・・で明日がぼくの18才の誕生日なんだ。
「という訳で、今日があなたのタイム・リミットなの。今日限りであなたはこの世界に存在しなくなるわ。18年間ご苦労さま。」
あっけにとられていたぼくは、やっとのことで言った。
「ご苦労さまって、そんな馬鹿な話、あってたまるか!18年で交替!?そんなチリ紙交換みたいに、勝手に換えられてたまるもんか。それに、もし仮にその話が本当だとしても不公平じゃないか。ぼくの方だけ18年しかないなんて。」
「不公平?」
彼女は笑って言った。
「だってあなた、あなた自分の、いや明日からの私の人生が、何年あるって言える?私がもし20才で死んだら、あなたの方が長くこの世にいたことになるじゃない。」
「そんな・・・・。」
「だけどぼくには家族がいるんだぜ。友達だって。あいつらはどうなるんだ。君がぼくだなんて誰が信じるもんか。まさかあいつらまで交替じゃないんだろ?第一、ぼくと君は、いくら顔が似てたって、男と女だぜ。」
「ふふっ。あなたは現代医学の進歩を知らないのね。彼らは今夜のうちにあなたと関わりを持つ全ての人々を洗脳して、あなたの記憶を私の記憶にすり換えるわ。もちろん私も、今日のことは忘れてしまうけど。そして、あなたは、この世界のどこにも・・・人の心の中にさえ存在しなくなるのよ。」
これは夢だ。夢でなければ錯覚だろう。錯覚でなければ、夢以外にあり得ない。こんなことが本当にあってたまるか。ぼくがこの世に存在しなくなる!?「『時間切れ(タイム・リミット)』だ!?そんな馬鹿な話、誰が信じるもんか。「坂下まこと」はぼくだぞ!18年間生きて、悩んできたのはこのぼくなんだ。
昨日も、今日も、明日だってそうだ。今日までの18年間は、いや明日からも、ぼくの人生はぼくのものだぞ。でなけりゃ何の為に生きたんだ!?もういい加減にしてくれ。やめてくれ、やめてくれ、やめろーーー!
「やめてー。」
私は飛び起きた。家中に響きわたる大声。
「どうしたの。まこと。」
お母さんが慌てて階段を駆け上がってきた。
「おかしな夢見ちゃった。」
ぼそっと言った私に、あきれ顔でお母さんが言った。
「何ぐずぐずしてるのよ。早くしないと遅刻よ。」
「姉貴!!ぼく行くよ。誕生日のプレゼント、『みゆき』の5巻で本当にいいんだね。」
大声で叫んで弟が出て言った。時計は8時1分。ぎょっ、本当に遅刻だ!大急ぎで着替えて顔を洗い、ジミーの鏡にニッと笑って、トーストとコーヒーを一口ずつ頰ばった。
そうだ!今日は18才の誕生日。今日から18才か。何となくくすぐったい。何もかもが新鮮な気がする。
「行ってきまあす!」
(おわり)
--------------------------
高校3年生。多感な時期に書いた私の処女作。
というか、後にも先にも小説なんて書いたのはこの時限りでしたけどね。
「ぼくは幻のような夢を見た。それとも夢のような幻を見たというべきなのだろうか。」
という教科書のSF小説の文章を使って、という課題だったこともあり、想像力を自由に膨らませて書いたのを思い出します。
いつかまた機会があれば小説も書いてみようかな、とも思っています。
そんな時間あるかな(笑)
よかったら感想など聞かせてくださいね。