宮部みゆきの『ソロモンの偽証』文庫本全6巻、読了しました。
ようやく、という感じ。
この映画をDVDで見たのが今年の3月。
その時のレポはこちら(2022年3月12日の日記)。
それから何となく原作も読んでみようかなと思い立ち図書館で、借りては返し借りては返しを繰り返し、やっと文庫本で6巻全部を読み終えました。
ほんとに面白かった。
一気に、という風にはいかなかったけど、読み応えがありました。
当たり前だけど、映画には描かれていない登場人物それぞれの背景や心の動きなども丁寧に描かれていて、宮部さんの文章力にグイグイ引き込まれました。予めストーリーを知っていたので最後のどんでん返しにはそれほどビックリはしなかったけれど、途中の緊張感やハラハラドキドキと読後の爽快感は映画と同様、ほんとに楽しめました。
何より、中学生の自殺という扱ったテーマの重要性や深刻さ、そしてそれを取り巻く大人たちやマスコミの視点など、当事者と外部の人の心のずれなども丁寧に描かれていて、フィクションなのにまるでノンフィクションのように心に迫ってくるものがありました。
ここからはネタバレありで、内容のことに触れてみたいと思います。
この物語は第一部「事件」、第二部「決意」、第三部「法廷」と分かれています。
中学2年生のクリスマスの終業式の早朝、雪の中から同級生の遺体が発見される、という始まりはもちろん映画と同じ。柏木卓也という同級生の死は一旦は屋上からの飛び降り自だ殺と断定されたが、それが実は他殺だという告発状が届いてから事態は一変し、学校、警察、テレビのワイドショーを賑わす事件へと発展していく。
主人公の藤野涼子は3年生の夏休み、中学2年生の時に起きたこの事件の真相を明らかにすべく学校内裁判を思い立ち、真相究明に乗り出す、というストーリー。
物語の場面は、主人公だけでなく登場人物それぞれの視点から描かれ、そこから見える景色、心の動き、気づき、など、どんどん変わっていくのがとっても面白かった。
これは映画ではなかなかできない手法だと思います。
ただ一人、描かれないのは「柏木卓也」の視点。
映画では、大出俊次ら3人組から三宅樹理がイジメを受けているのに助けられない藤野涼子に、
「口先だけの偽善者だ」と柏木卓也が罵るシーンも出てきますが、それは原作にはもともとありません。
柏木卓也がどんな人物で何を考えていたのかは、柏木視点では一切描かれていません。
辛いことがあると「もう死んでしまいたい」と短絡的に思いがちな10代の心。
「死んだら何も言えない」
「死んだらダメだよ」
作者はこんなメッセージを込めてるのかな、とも思いました。
子どもの頃から病弱で人生を達観していた柏木卓也は「人生を無意味」だと感じていて、死に対して強い興味がありました。一方でアル中の父が酔った勢いで奮った暴力で母が死に、その罪の意識で病院で自殺した父を両親に持つ神原和彦は死を背負いながらも養父母の元、明るく前向きに生きていました。
人にはそれぞれその人にしかわからない事情や悩みや苦しみがあります。
人生ってそれぞれが自分の十字架(運命)を自分の背負い方で背負って生きていくものです。
神原に「アル中の人殺しの子供の人生に、前向きに生きて行く価値なんかあるもんか」と罵った柏木。
病弱で両親から腫れ物にさわるように扱われていた柏木には、自分には理解できないその人なりの十字架とその受け止め方があることに気づけなかったのかもしれません。
学校内裁判で大出の弁護人を務めた神原の助手の野田健一が、世の中の何もかもが嫌になり、特に自分の両親が憎くなって手にかけようとしたことを、神原に打ち明けようとしたシーンがあります。
「今まで黙っていたんだけど、、」
その時に神原が「今まで黙ってたことなら、今も言わなくていいよ」とそっと遮るシーン。
「そういう種類の話は、黙ったまんまにして方がいいんだ。しゃべっちゃおうと思うのは気の迷いなんだ」
中学生くらいの時って悩みや本音を打ち明けるのが友だちだって思っているフシがありますね。
確かに悩みを共有することで深いところまでつながりを感じることができるのかもしれない。
だけど一方で、悩みや本音を打ち明けなくてもそばにいてあげられる友だち関係もある。
人生には黙っていた方がいいこともある。
自分の十字架を人にまで背負わせる必要はない。
友だちでいるために何もかもを知らなくてもいいのでしょう。
人は生きていればやがて必ず死にます。
死ぬまで自分の十字架を背負って、生きている幸せを感じながら自分の意思でちゃんと生きたいものです。
そして思う存分生き切った先に「人生の意味」が見いだせたら本望だなと思います。
中学生のお子さんをお持ちの方や実際に中学生の皆さんにも一度は読んでみて欲しい作品。
「作家生活25年の集大成にして、現代ミステリーの最高峰」と紹介されています。
興味を持たれた方は、ぜひご一読下さい。