マダガスカルのカラスは真っ黒ではないことをご存じだろうか。胸の一部が白く、紳士が蝶ネクタイをしているように見える。それにフランス人が「おしゃれなカラス」と云う名前を付けた。非常に残念だが写真がない。アンタナナリブの郊外で何度か見かけたことがあったが、直ぐに飛び去ってしまい、とても写真に撮れる状態ではなかった。日本のような図々しさはなく、恥らっているようにも見えた。
マダガスカル人は、種族を問わず可笑しな人種であるとつくづく思うことがある。真っ黒なカラスしかいない日本を、また太陽が南にある日本を可笑しな国だと彼等は思っている。ラチラカ大統領が疲弊しきった経済を立て直すために敢えて社会主義国家にしたことは前にも述べたが、国民の誰もが自分たちの国は資本主義国家であり、自由主義国家だと信じている。暇そうにしていたボーイたちにそんな話をしたら、「えっ、共産主義?どこの国がですか?」と全員が首をかしげた。「お前さんたちの国がだよ、このマダガスカルがだよ」と云ったことがある。彼等は信じられない顔をしていた。ラチラカさんが頭を痛めるわけだ。
マダガスカルは地理的にも、歴史的にもアフリカに所属する。我々にとっては当たり前のことであるのだが、彼等は「マダガスカルはアジア、日本からは一番遠いアジア」であると信じきっている。日本と同じアジアの一員であると主張している。これほどに親日的であることは涙が出るほど嬉しい。
以前にも少しご紹介した、通産省の商事部貿易課のアンセルメ・ジャオリズィキー課長がコルベール・ホテルに私を訪ねてきた。「トマシナからお帰りだと伺いましたので。今日はお暇でしょう?」とニコニコしながら云った。地域産業を盛り立てるための産業振興会館のようなものがあるから、そこにご案内したいと云うのである。通産省の管轄だから、これも公用だとウィンクをした。
ホテルの玄関を出た途端、私を見た大勢の子供の乞食が周りに群がってきた。容易には前に進めないぐらいだ。アンセルメは子供たちに一喝した。やっと通れるようになった。「貴方はあの子供たちの誰かに、小銭をあげたでしょう。それを見ていた連中は貴方が出て来るのを見張っていたのです。やるから来るのです、やらなければ近寄りません」。以後はその忠告に従うことにした。
タクシーに乗り込むと、若いメリナの運転手は私の方を見ながらマダガスカル語で話し始めた。「マンザ・べ」以外は何も理解出来なかった。アンセルメの方を向くと、彼はにやにや笑いながら説明してくれた。『俺のカミさんを買ってくれないか?結婚してまだ6か月だ。すごい美人だ(マンザ・べ)。博打の借りを返さなければならいんだ。よかったら、これから俺の家に行って、実物を見てくれ』と云ったのだそうだ。私が「今回は遠慮するよ」と断ると、非常にがっかりした様子だったが、何故かホッとしたようにも感じられた。それからは機嫌よく目的地まで行き、余分なチップをせびることもなく「ミソートラ」(ありがとう)と云って走り去った。
アンセルメは、マダガスカル人同士では大きな博打などしない、恐らく不法滞在の中国人にでも引き込まれたのではないかと顔をしかめていた。
アンセルメ・ジャオリズィキー課長。この写真では冴えないが、事務所にいるときはスーツを着てネクタイをきちんと締めている。サカラバ族(アフリカ系)で、ルーツは南部の西海岸である。アンタナリブ大学出身で、政府機関には多くの友人がいる。奥さんはメリナ族である。
一見おっかなそうではあるが、非常に大人しく、奥さんには頭が上がらない様子。マダガスカルに滞在中は全てのことに便宜を図ってくれ、まるで私の社員、いや子分のようにさえ振舞ってくれていた。
産業振興会館のようなものと聞いていたので、ビルの中にあると考えていたが、野っ原に掘立小屋とテント張りの店があるだけだった。木の家具や工芸品もあったが、圧倒的に多かったのは丁寧な刺繍が施された衣類、それにテーブル・クロスとナプキンのセットだった。
木彫りのお面を見つけた。中学からの友人が趣味で集めているので、買おうとしたらアンセルメに止められた。「古く見せているだけです。本当は新しいものです」。通産省の売上を邪魔してよかったのだろうか?
綺麗な刺繍のブラウスを娘たちに買って帰ったが、彼女らには着て貰えず、全て家内の家庭着になってしまった。
ご存じのように木綿は綿花から紡ぐが、マダガスカルの木綿は Cotton Tree,即ち綿の木の実で紡ぐ。実が10センチほどに育つとアケビのように割れる。その実の中にはフワフワの綿のような白い繊維が詰っている。それを取出して木綿にするのである。肌触りがよく、非常に丈夫である。
ラミルソン・ラジャオベリナご夫妻(ともにメリナ族)。末っ子のアンリ君。彼の上に10歳と15歳の兄がいる。奥さんのアリスがアンセルメの奥さんの友人である。
ラジャオベリナ夫妻にドライブに誘われた。途中で微笑ましい若いカップルに出会った。
川での洗濯が終ると、適当な所に衣類を広げ、恐らくは亭主の悪口を云い合いながら洗濯物が乾くのを待っている。のんびりしたものだ。
アンタナナリブで唯一の美術館。
アリス・ラジャオベリナさんに、この絵をどう思うかと聞かれたが、返事に困ってしまった。
マダガスカル人は、種族を問わず可笑しな人種であるとつくづく思うことがある。真っ黒なカラスしかいない日本を、また太陽が南にある日本を可笑しな国だと彼等は思っている。ラチラカ大統領が疲弊しきった経済を立て直すために敢えて社会主義国家にしたことは前にも述べたが、国民の誰もが自分たちの国は資本主義国家であり、自由主義国家だと信じている。暇そうにしていたボーイたちにそんな話をしたら、「えっ、共産主義?どこの国がですか?」と全員が首をかしげた。「お前さんたちの国がだよ、このマダガスカルがだよ」と云ったことがある。彼等は信じられない顔をしていた。ラチラカさんが頭を痛めるわけだ。
マダガスカルは地理的にも、歴史的にもアフリカに所属する。我々にとっては当たり前のことであるのだが、彼等は「マダガスカルはアジア、日本からは一番遠いアジア」であると信じきっている。日本と同じアジアの一員であると主張している。これほどに親日的であることは涙が出るほど嬉しい。
以前にも少しご紹介した、通産省の商事部貿易課のアンセルメ・ジャオリズィキー課長がコルベール・ホテルに私を訪ねてきた。「トマシナからお帰りだと伺いましたので。今日はお暇でしょう?」とニコニコしながら云った。地域産業を盛り立てるための産業振興会館のようなものがあるから、そこにご案内したいと云うのである。通産省の管轄だから、これも公用だとウィンクをした。
ホテルの玄関を出た途端、私を見た大勢の子供の乞食が周りに群がってきた。容易には前に進めないぐらいだ。アンセルメは子供たちに一喝した。やっと通れるようになった。「貴方はあの子供たちの誰かに、小銭をあげたでしょう。それを見ていた連中は貴方が出て来るのを見張っていたのです。やるから来るのです、やらなければ近寄りません」。以後はその忠告に従うことにした。
タクシーに乗り込むと、若いメリナの運転手は私の方を見ながらマダガスカル語で話し始めた。「マンザ・べ」以外は何も理解出来なかった。アンセルメの方を向くと、彼はにやにや笑いながら説明してくれた。『俺のカミさんを買ってくれないか?結婚してまだ6か月だ。すごい美人だ(マンザ・べ)。博打の借りを返さなければならいんだ。よかったら、これから俺の家に行って、実物を見てくれ』と云ったのだそうだ。私が「今回は遠慮するよ」と断ると、非常にがっかりした様子だったが、何故かホッとしたようにも感じられた。それからは機嫌よく目的地まで行き、余分なチップをせびることもなく「ミソートラ」(ありがとう)と云って走り去った。
アンセルメは、マダガスカル人同士では大きな博打などしない、恐らく不法滞在の中国人にでも引き込まれたのではないかと顔をしかめていた。
アンセルメ・ジャオリズィキー課長。この写真では冴えないが、事務所にいるときはスーツを着てネクタイをきちんと締めている。サカラバ族(アフリカ系)で、ルーツは南部の西海岸である。アンタナリブ大学出身で、政府機関には多くの友人がいる。奥さんはメリナ族である。
一見おっかなそうではあるが、非常に大人しく、奥さんには頭が上がらない様子。マダガスカルに滞在中は全てのことに便宜を図ってくれ、まるで私の社員、いや子分のようにさえ振舞ってくれていた。
産業振興会館のようなものと聞いていたので、ビルの中にあると考えていたが、野っ原に掘立小屋とテント張りの店があるだけだった。木の家具や工芸品もあったが、圧倒的に多かったのは丁寧な刺繍が施された衣類、それにテーブル・クロスとナプキンのセットだった。
木彫りのお面を見つけた。中学からの友人が趣味で集めているので、買おうとしたらアンセルメに止められた。「古く見せているだけです。本当は新しいものです」。通産省の売上を邪魔してよかったのだろうか?
綺麗な刺繍のブラウスを娘たちに買って帰ったが、彼女らには着て貰えず、全て家内の家庭着になってしまった。
ご存じのように木綿は綿花から紡ぐが、マダガスカルの木綿は Cotton Tree,即ち綿の木の実で紡ぐ。実が10センチほどに育つとアケビのように割れる。その実の中にはフワフワの綿のような白い繊維が詰っている。それを取出して木綿にするのである。肌触りがよく、非常に丈夫である。
ラミルソン・ラジャオベリナご夫妻(ともにメリナ族)。末っ子のアンリ君。彼の上に10歳と15歳の兄がいる。奥さんのアリスがアンセルメの奥さんの友人である。
ラジャオベリナ夫妻にドライブに誘われた。途中で微笑ましい若いカップルに出会った。
川での洗濯が終ると、適当な所に衣類を広げ、恐らくは亭主の悪口を云い合いながら洗濯物が乾くのを待っている。のんびりしたものだ。
アンタナナリブで唯一の美術館。
アリス・ラジャオベリナさんに、この絵をどう思うかと聞かれたが、返事に困ってしまった。