何回目かのマダガスカル出張から帰った翌々日、モーリシャス航空の東京支店のお嬢さんから電話があった。「また、ファーストクラスで帰って来たでしょう。図々しいわよ」とのっけから云われた。彼女が客に対する礼儀を失していたわけではない。それだけ親しくなったとお考え頂きたい。確かにモーリシャスからクアラルンプールまではファーストクラスで帰ってきた。而し、これは私が望んでこうなったわけではない。ツーリストクラスの予約を乗客の収容人員以上に受けてしまい(オーバーブック状態)、仕方なく何人かをビジネスクラスに移す。そうすると、ビジネスクラスからはみ出してしまう乗客が出る。その客をファーストクラスに移すのである。この場合、それが私だっただけのことである。大勢いるビジネス客の中からどのように選別するかは定かではないが、私は何回かこの幸運に恵まれた。恐らく、私が持っていたモーリシャス航空の「プラス・カード」の番号が「TYO 002」(東京2番)になっていたからであろう。東京支店のお嬢さんが「新しく出来たモーリシャス航空のカードをお送りします。2番になっていますが、うちの支店長が1番を取ってしまったんです。済みません」と笑いながら云っていたことがあった。クアラルンプールとモーリシャスの間、及び香港とモーリシャスとの間の飛行時間は10時間もある。それも夜行便である。乗り継ぎ、乗り継ぎの連続の中の夜行の10時間は非常にきつい。それでこの分だけをビジネスクラスにしたのである。本来はこのようなことは出来ないが、全行程を日本の航空会社で発券できないのが幸いした。然も、その料金の差はごく僅かであった。現在の料金体系と違い、当時は一般的にツーリストクラスの正規の航空運賃の4倍から6倍がファーストクラスの運賃であり、その中間がビジネスクラスの運賃であるとお考え頂きたい。
私の場合、友人の旅行会社を通して航空券を買っていたのでかなり安く買えた。それに僅かの上乗せで中間だけをビジネスクラスの航空券を買えたのである。初めてファーストクラスに乗ったのはクアラルンプールとモーリシャスの間であった。モーリシャス航空の搭乗ゲートには二人の空港職員がいた。ゲートを通り抜けようとしたら、私の手から搭乗券を取り上げ「これが貴方の新しい搭乗券です」と別の搭乗券を渡された。見ると「First Class」と書かれていた。怪訝な顔をすると、「それでいいのです。楽しいフライトを!」と云うと、そのお嬢さんは手を振って引き上げていった。
ツーリストクラスの乗客より先に搭乗し、席に着くと直ぐに飲物のサービスがあるのはビジネスクラスと同じだが、一人あたりの座席の広さが違う。前の席の所に置いてあったフットレスト(足乗せ)を取るには一旦立ち上って取りに行くほどだった。食事がすごかった。オードブルは生ハムかキャビアを客の好みで選ばせ、メインディッシュがステーキの場合は「〇〇様、お肉の焼き具合は如何致しますか?」と、座席の横にひざまずいて聞かれた。食器は全て陶器で、ナイフとフォークは銀製であった。
マダガスカル編の6で少し触れたが、マナカラは宝石の街として特に名高い。だが、我々は宝石を買いにマナカラを訪れたわけではない。マナカラの山にはパリサンダーの他にも床柱に適した銘木が多くあるのである。山から切り出した材は、海岸通りを使ってトマシナまで何の苦も無く運べる。マダガスカル国内の輸送費が、西海岸から買うより格段に安くつくのである。輸送費も重要であるが、フリッチにしてからトマシナに到着するまでの日数が少なくて済むのは、私にとって非常な経済的効果である。
昨夜は遅くまで業者と協議を重ねたが、我々の考えているほど簡単ではないことが判明した。山からマナカラの街まではトラックが通れるほどの道路はなく、人力を主体にした少量ずつの運送方法しかないことが致命的であった。それでも業者は取引に意欲を見せた。而し、人力主体の運送方法には問題がありすぎる。業者が持ってきたサンプルは、私がこれまでに見たどの木よりも美しい木目を持っていた。紫檀の一種であることは想像出来たが、学術名は不明であった。ただ、パリサンダーよりは紫の部分の色が濃く、中には黒に近い色を持ったサンプルもあった。パリサンダーより、ずっと高値で新木場に売り込める自信はあった。フォー・ドーファンの山中から運び出すことを考えれば、比較にならぬほどの容易さではあったが、解決しなければならぬ問題が多く残った。一番の問題は、材の太さと長さを我々の要求を満たすとなると、フリッチの一本当たりが非常な重量になる事であった。山の中では、機材を使っても大変に危険を伴う作業になる。人力が主体では、作業員に重篤な怪我、或いは最悪の事態を引き起こす事だってあり得る。結論は先送りになった。


ホテルの窓とベランダからはこのような景色が見渡せた。

フィアナランツィオに向かう山道に入ると、直ぐにこのような景色に出会った。

マダガスカルで初めてみる暗い感じの村だった。人の姿も見かける事もなかった。非常に重い空気を感じた。だが、ジルス・ベドは全く何も感じている様子はなかった。

山に向かう道を住人が道をふさいでいた。追い越すにも細い道ではどうすることも出来ない。


周囲が開けた場所に出ると、心も開けてくる。多少でも植林の跡が見られたのは嬉しかった。


後部座席にベド家の使用人を乗せてきた理由が理解出来た。村の作業員に協力し、邪魔な倒木の処理に当らせた。この時期はまだ雨季が終っていないので、山道ではこのような個所がいくつもあるようだ。

周囲が開けると、心も浮き浮きとしてくる。

盗伐材。既に手作業での製材までしてあった。ジルス・ベドもこれほど大量の盗伐は見たことがないと云っていた。誰に売るのであろうか。

盗伐したものはこのように隠しておくのだそうだ。枯れ枝をどけると、その下に切り倒したばかりの丸太があった。


マダガスカル編の6でご紹介した砂金の道。バケツに掬って持って帰りたかった。
私の場合、友人の旅行会社を通して航空券を買っていたのでかなり安く買えた。それに僅かの上乗せで中間だけをビジネスクラスの航空券を買えたのである。初めてファーストクラスに乗ったのはクアラルンプールとモーリシャスの間であった。モーリシャス航空の搭乗ゲートには二人の空港職員がいた。ゲートを通り抜けようとしたら、私の手から搭乗券を取り上げ「これが貴方の新しい搭乗券です」と別の搭乗券を渡された。見ると「First Class」と書かれていた。怪訝な顔をすると、「それでいいのです。楽しいフライトを!」と云うと、そのお嬢さんは手を振って引き上げていった。
ツーリストクラスの乗客より先に搭乗し、席に着くと直ぐに飲物のサービスがあるのはビジネスクラスと同じだが、一人あたりの座席の広さが違う。前の席の所に置いてあったフットレスト(足乗せ)を取るには一旦立ち上って取りに行くほどだった。食事がすごかった。オードブルは生ハムかキャビアを客の好みで選ばせ、メインディッシュがステーキの場合は「〇〇様、お肉の焼き具合は如何致しますか?」と、座席の横にひざまずいて聞かれた。食器は全て陶器で、ナイフとフォークは銀製であった。
マダガスカル編の6で少し触れたが、マナカラは宝石の街として特に名高い。だが、我々は宝石を買いにマナカラを訪れたわけではない。マナカラの山にはパリサンダーの他にも床柱に適した銘木が多くあるのである。山から切り出した材は、海岸通りを使ってトマシナまで何の苦も無く運べる。マダガスカル国内の輸送費が、西海岸から買うより格段に安くつくのである。輸送費も重要であるが、フリッチにしてからトマシナに到着するまでの日数が少なくて済むのは、私にとって非常な経済的効果である。
昨夜は遅くまで業者と協議を重ねたが、我々の考えているほど簡単ではないことが判明した。山からマナカラの街まではトラックが通れるほどの道路はなく、人力を主体にした少量ずつの運送方法しかないことが致命的であった。それでも業者は取引に意欲を見せた。而し、人力主体の運送方法には問題がありすぎる。業者が持ってきたサンプルは、私がこれまでに見たどの木よりも美しい木目を持っていた。紫檀の一種であることは想像出来たが、学術名は不明であった。ただ、パリサンダーよりは紫の部分の色が濃く、中には黒に近い色を持ったサンプルもあった。パリサンダーより、ずっと高値で新木場に売り込める自信はあった。フォー・ドーファンの山中から運び出すことを考えれば、比較にならぬほどの容易さではあったが、解決しなければならぬ問題が多く残った。一番の問題は、材の太さと長さを我々の要求を満たすとなると、フリッチの一本当たりが非常な重量になる事であった。山の中では、機材を使っても大変に危険を伴う作業になる。人力が主体では、作業員に重篤な怪我、或いは最悪の事態を引き起こす事だってあり得る。結論は先送りになった。


ホテルの窓とベランダからはこのような景色が見渡せた。

フィアナランツィオに向かう山道に入ると、直ぐにこのような景色に出会った。

マダガスカルで初めてみる暗い感じの村だった。人の姿も見かける事もなかった。非常に重い空気を感じた。だが、ジルス・ベドは全く何も感じている様子はなかった。

山に向かう道を住人が道をふさいでいた。追い越すにも細い道ではどうすることも出来ない。


周囲が開けた場所に出ると、心も開けてくる。多少でも植林の跡が見られたのは嬉しかった。


後部座席にベド家の使用人を乗せてきた理由が理解出来た。村の作業員に協力し、邪魔な倒木の処理に当らせた。この時期はまだ雨季が終っていないので、山道ではこのような個所がいくつもあるようだ。

周囲が開けると、心も浮き浮きとしてくる。

盗伐材。既に手作業での製材までしてあった。ジルス・ベドもこれほど大量の盗伐は見たことがないと云っていた。誰に売るのであろうか。

盗伐したものはこのように隠しておくのだそうだ。枯れ枝をどけると、その下に切り倒したばかりの丸太があった。


マダガスカル編の6でご紹介した砂金の道。バケツに掬って持って帰りたかった。