つぼみな日々

いろんな花の蕾をもっていたい。たくさんの花を咲かせたい。
言葉を紡ぎたい私のブログです。

モヒートのミントを

2012-07-30 22:46:51 | 日記
人生初めてのスキー場は、真っ白な景色では全然なくて、色とりどりで空間が鳴っている山だった。
遠くから見ると急斜面にカラフルなテントが無数に立てられていて、全部が滑り流れてしまうのではないかという気がした。

大きな山が渋滞するほど、こんなにこんなにたくさんの人で埋め尽くされているのに、私たちはどうして「フジロック」という言葉さえも正しく知らなかったのだろう。
こんなにこんなにたくさんの人がいるのに、どうして私に教えてくれなかったのだろう。
いや、もしかすると耳にしていたのかもしれない。
自分が興味のないものというのは記憶から淘汰されているだけのことかもしれない。
新しい物事にはフラットでありたいし、柔軟でありたいし、色んなことに触れたいと思うけれど、興味のあるものを中心に入ってくる耳というのは悪くはない。

当日に調達した真っピンクのスーツケースは思いのほかいい色で、会場には持っていかないけれど、フジロックの会場に相応しいと思った。
ここでは、どんなにカラフルだって目立てない。
もし目立ちたいのであれば、炎天下の山で上半身だけでも裸でいることだ。

果てしない東京のお祭りの人混みが、山の上で起こっている。
川があって、バスがあって、リュックやら大荷物を背負って、帽子をかぶって、みんなでぞろぞろと行く。
なんだか戦争中の疎開が浮かんでしまった。
ぞろぞろと向かう先は、自分の心を揺さぶってくれる悦楽の場所だけれども。

音楽が好きだ、ロックが好きだ、と完全なる認識を始めてからも、フジロックに来るアーティストのことはほとんどと言っていいほどわからない。
私が自分から見たかったのは、サカナクションと渋さ知らズオーケストラくらいだ。
だから周りの音楽好きな人に何を聴いてきたらいいか、何をしてきたらいいかを聞いて、だいぶ忠実にそれをこなしてきた。
あとは、移動中に聞こえてくるいいなと思う方へ行けばいい。

場に流されて、あれもいいねこれもいいね、とは言えなくなってしまった私は、音が正なのか負なのかがやけに気になって、負のものをあまり体に入れたくなかった。
正負とは、簡単に行ってしまえば、前向きさや明るさや陽気さの方が強い音楽か、それとも憂いや嘆きや批判、やるせなさの方が強い音楽か、ということ。
完全に私の中の表現なので、それが人によって違う風に聞こえるかはわからない。
ただ、今の私は正の音楽がほしい。

ちなみに、渋さ知らズオーケストラは正、星野源も正、RADIOHEADは負、井上陽水も負、サカナクションはゼロ、JUSTICEもゼロ。
またちなみに、ブルーハーツもハイロウズもクロマニヨンズも正。

サカナクションのライブで私は初めてモッシュを体験した。
熱気という露天風呂に、頭のてっぺんまですっぽりと入ってしまっているような感覚で、手を高く伸ばすと日が落ちてすっかり冷えた山の空気に触れることができる。
息苦しいとか、物理的にぎゅうぎゅうとか、人の吐く息とか湿り気とか、それでも前方から発射される音とそのうねりで、意識と無意識を繰り返す。

人は熱い。
気熱と体熱。
混沌と混乱と狂熱。

熱狂することは自分にはないだろうと思っていた。
なんだこういうの好きなんだと、あっさりと思う。

ただ、サカナクションの曲は私の中の魂を揺さぶるものでないことも分かった。
彼らは青いことをしているのではない、彼らはデザインをしている。
今後ライブも行きたいし、今後も聴くけれど、今の私にはたぶん心地の良い止まりのBGM。

ロックをたくさん見た、聞いた。
青い表現も、熱い表現も、気取った表現も、楽しい表現も色々あった。
それでもどうにも、私はブルーハーツが好きで、ハイロウズが好きで、ヒロトが好きで、マーシーが好きだ。
予定通り、ドラゴンドラの中では、ドラゴンドラの中でなくても少し、ブルーハーツもハイロウズもiPodから聞いた。
私の隣にも、いつでもヒロトの声を聴きたがってる人がいた。

その彼女は日曜日には東京に帰らなければならず、私は彼女を出口まで見届けて、その後一人フジロックをした。
とりあえず酔っておこうと、私は一人になってまた一杯飲んだ。
日曜日はジャズロックのような音楽ばかりで、最後も「NEW COOL COLLECTIVE」、そして「渋さ知らズオーケストラ」
NEW COOL COLLECTIVEの後の待ち時間、私は柵に持たれて胡坐の状態で少し寝た。

渋さ知らズオーケストラはもう本当に最高だった。
彼らの精神と、彼らのポップでキッチュなパフォーマンスには、強さと優しさがあった。
最後に不破大輔さんが散々素敵な音を浴びせたあと、「負けない、だめかもしれないけど、絶対負けない」と突然言って会場を去って行った。
不意に泣いてしまった。

「自分の好きなように声を出していいんだよ。出したい音を出していいんだよ。音楽なんて簡単だーーー」

足は酷く筋肉痛だし、まさに燃え尽きて凪状態だし、単純に寝不足ゆえに眠い。
でも、私はフジロックを彼女と経験できて本当に良かった。
いつも言うけど、私の友達はみんな、強くて優しくて、心がきれいだ。
そんな人たちと、共感を爆発へと転化することができるのは、たぶん人生の中での最上級の喜びのひとつなのではないかと思う。

興奮と悦楽と爆発のために、労力を使う。
好きとは言え労力と面倒はいろいろあるけれども、労力のその先の興奮と悦楽と爆発を見たい。


また新しいことをするかもしれない。
今のところ、私の肌に合うかが珍しく全くもって分からないのだが、やってみたいことではある。

世界は私のために回っているわけではない。
でも、私の世界は私を中心に回っている。

導火線に火がついたのはいつだったろうか
中学生の頃か生まれる前か
爆発付前の火薬のような
レコードが好きだった