《再雇用拒否撤回2次訴訟第9回口頭弁論(2011/9/12)陳述》<2>
◎ 準備書面(11)-国際人権法違反-について
第1 はじめに
1 準備書面(11)は、自由権規約18条や子どもの権利条約等の国際人権法違反を主張するものです。
2 日本は、国際協調主義を採用し、条約を誠実に解釈・履行する国際義務を負っています。よって、両条約の解釈にあたっては、条約の文言だけでなく、条約に基づいて設置された国連の自由権規約委員会や、子どもの権利委員会によって、これまで蓄積されてきた条約解釈についても、これを誠実に受けとめる義務があります。
第2 自由権規約18条違反
1 自由権規約18条1項は、思想・良心・宗教の自由を保障しています。国旗国歌についての思想・良心が、18条の保障する思想・良心に含まれることは、自由権規約委員会が、1996年ザンビアの政府報告に対して示した総括所見からも明らかです。
すなわち、委員会は、「締約国の学校に入学する条件として、国歌を歌い国旗に敬礼することを求めることは、不合理な要求であり、規約18条に合致しない」とし、ザンビアの生徒に対する国旗・国歌の強制を18条違反と認定しました。
自由権規約委員会が、生徒の思想・良心の内容の検討や比較考量を行うことなく、端的に国旗・国歌の強制は「不合理」であり、18条に違反するとしている点は、アメリカで確立された判例法理である「強制禁止」テストと共通します。
すなわち、納税の義務や兵役の義務と異なり、国旗・国歌の強制には政府に強制可能な利益が認められず、また憲法上の根拠もないことから、「強制」がある限り違憲であると考えるのが国際基準なのです。
2 次に、自由権規約18条2項は「自ら選択する宗教又は信念を有する自由を侵害するおそれのある強制」を禁止しています。
自由権規約委員会は、これは、「いかなる制限も許容しない」という絶対的保障の規定であるとし、この絶対的に禁止される強制の例として、刑事罰の使用や脅迫などと並んで、「雇用を得る権利」の制限を挙げています。
本件で、原告らは不起立の事実のみをもって採用拒否されており、被告は、雇用剥奪の脅しによって、原告の信念に反する起立・斉唱を強制しています。このような措置が18条2項で禁止される強制に当たることは明らかです。
3 次に、18条3項は、「宗教又は信念を表明する自由」について、法律による制約が許容される要件を規定しますが、自由権規約委員会は、この規定を厳格に解釈し、18条3項の範囲内の制約と言えるためには、可能な限りの代替措置を要するとの見解を示しています。
すなわち、委員会は、2006年、韓国で良心的兵役拒否が認められなかった個人通報事案において、「韓国政府は代替措置によりいかなる不利益が生じるかを示しておらず、また、徴兵制度の土台を損なうことなく不公正・不公平のない代替措置を講じることは可能であり、現に広く行われている」として、18条3項違反を認定しました。
兵役制度の維持という国家に「極めて強い利益」がある目的のためですら、代替措置が必要であり、これを講じていない場合には国の側で代替措置を講じた場合の不利益を立証する必要があるというのです。まして、「極めて強い利益」があるとは言えない国旗国歌の強制については、なおさらのこと、代替措置がなければ、18条3項で許容される制約であるとは言えません。
本件で、原告らは卒業式を混乱させる意図を有しておらず、結果としても混乱が生じたという事実はありません。また、原告らの不起立が、卒業式の参加者にそれまでにない不快感を呼び起こしたとも考えられません。よって、真摯な理由に基づく教職員に対して起立・斉唱を免除し代替措置を講じることは容易であり、これを講じた場合の不利益は何ら存在しません。
したがって、本件で、代替措置を設けないことは、18条3項に明白に違反します。
第3 子どもの権利条約違反
1 次に、子どもの権利条約違反について述べます。ここで強調したいのは、生徒への強制の実態です。
教師が起立・斉唱を強制される中で、生徒が自由な判断など出来ません。
都教委は、生徒に対する*内心の自由の説明も禁止し、卒業式で生徒の不起立が多かったクラスの教員らを処分し、さらに、都教委の指導により、卒業式の司会進行表には「起立しない生徒に注意を促す」との記載がなされています。
その結果、生徒にも起立斉唱の強制が及んでいるのは明らかであり、むしろ10.23通達の真のターゲットは生徒です。
2 子どもの権利条約14条は、児童の思想・良心・宗教の自由を保障しています。
先のザンビアの生徒に対する国旗・国歌の強制が、自由権規約委員会により、思想・良心の自由侵害とされたことからも、本件生徒への強制の実態が、子どもの権利条約14条に違反することは明らかです。
また、都立高校には、外国人生徒も相当数おり、中でも、中国、韓国・朝鮮出身の生徒が多くを占めます。
これら外国人生徒の文化的アイデンティティに何らの配慮も代替措置も講ずることなく、事実上、彼らにとっては外国の国旗国歌であり、出身国によっては強い抵抗感を持つ可能性のある日の丸君が代に対し、起立斉唱を強制しているのです。
このような実態は、生徒の思想・良心・宗教の自由を侵害するとともに、「子ども自身の文化的アイデンティティ」の保障を定めた子どもの権利条約29条、30条にも著しく違反しているといえます。
3 次に、子どもの権利条約12条、13条は、児童の意見表明権、表現の自由を保障するとともに、それらの前提となる知る権利を保障しています。
被告は、国旗国歌の画一的な強制に反対する教師を教壇から排除し、内心の自由の説明も禁じ、教師が生徒に「国旗国歌については様々な考え方がある」と教える機会を奪いました。これは、生徒らの知る権利を侵害し、適切な情報を得ることを前提とする意見表明権も表現の自由も侵害しています。
4 また、10.23通達以前は、学校ごとに生徒が生徒会や実行委員会を通じて「自由な意見表明」を実践し、対面式の卒業式や壇上に卒業制作を飾るなどの創意工夫に充ちた卒業式を行ってきました。しかし、通達以後は、画一的な国旗国歌の強制により、生徒らの創意工夫の余地はなくなっています。
さらに、都教委は、生徒会主催での「国旗・国歌についての討論会」をも問題視し、主催した学校長等に対し「厳重注意」を行うなど、生徒らの自由な意見表明の場を奪いました。これらの措置が生徒の意見表明権を侵害していることは明らかです。
5 被告は、学習指導要領の国旗国歌条項を実施することが生徒の学習権を保障することであると主張しますが、生徒の知る権利や意見表明権を侵害する方法による画一的な強制が、学習権を保障することにはならないのは明白です。
6 原告らは、以上のような子どもの権利条約に違反する生徒の権利侵害に荷担したくないという真摯な理由から、本件職務命令に従うことができませんでした。
本件職務命令は、子どもの権利条約に違反する点で、「明白かつ重大な蝦疵」がありますから、これに従う義務はありません。よって、職務命令違反を理由とした本件採用拒否は違法であるのです。
◎ 準備書面(11)-国際人権法違反-について
代理人弁護士 村山志穂
第1 はじめに
1 準備書面(11)は、自由権規約18条や子どもの権利条約等の国際人権法違反を主張するものです。
2 日本は、国際協調主義を採用し、条約を誠実に解釈・履行する国際義務を負っています。よって、両条約の解釈にあたっては、条約の文言だけでなく、条約に基づいて設置された国連の自由権規約委員会や、子どもの権利委員会によって、これまで蓄積されてきた条約解釈についても、これを誠実に受けとめる義務があります。
第2 自由権規約18条違反
1 自由権規約18条1項は、思想・良心・宗教の自由を保障しています。国旗国歌についての思想・良心が、18条の保障する思想・良心に含まれることは、自由権規約委員会が、1996年ザンビアの政府報告に対して示した総括所見からも明らかです。
すなわち、委員会は、「締約国の学校に入学する条件として、国歌を歌い国旗に敬礼することを求めることは、不合理な要求であり、規約18条に合致しない」とし、ザンビアの生徒に対する国旗・国歌の強制を18条違反と認定しました。
自由権規約委員会が、生徒の思想・良心の内容の検討や比較考量を行うことなく、端的に国旗・国歌の強制は「不合理」であり、18条に違反するとしている点は、アメリカで確立された判例法理である「強制禁止」テストと共通します。
すなわち、納税の義務や兵役の義務と異なり、国旗・国歌の強制には政府に強制可能な利益が認められず、また憲法上の根拠もないことから、「強制」がある限り違憲であると考えるのが国際基準なのです。
2 次に、自由権規約18条2項は「自ら選択する宗教又は信念を有する自由を侵害するおそれのある強制」を禁止しています。
自由権規約委員会は、これは、「いかなる制限も許容しない」という絶対的保障の規定であるとし、この絶対的に禁止される強制の例として、刑事罰の使用や脅迫などと並んで、「雇用を得る権利」の制限を挙げています。
本件で、原告らは不起立の事実のみをもって採用拒否されており、被告は、雇用剥奪の脅しによって、原告の信念に反する起立・斉唱を強制しています。このような措置が18条2項で禁止される強制に当たることは明らかです。
3 次に、18条3項は、「宗教又は信念を表明する自由」について、法律による制約が許容される要件を規定しますが、自由権規約委員会は、この規定を厳格に解釈し、18条3項の範囲内の制約と言えるためには、可能な限りの代替措置を要するとの見解を示しています。
すなわち、委員会は、2006年、韓国で良心的兵役拒否が認められなかった個人通報事案において、「韓国政府は代替措置によりいかなる不利益が生じるかを示しておらず、また、徴兵制度の土台を損なうことなく不公正・不公平のない代替措置を講じることは可能であり、現に広く行われている」として、18条3項違反を認定しました。
兵役制度の維持という国家に「極めて強い利益」がある目的のためですら、代替措置が必要であり、これを講じていない場合には国の側で代替措置を講じた場合の不利益を立証する必要があるというのです。まして、「極めて強い利益」があるとは言えない国旗国歌の強制については、なおさらのこと、代替措置がなければ、18条3項で許容される制約であるとは言えません。
本件で、原告らは卒業式を混乱させる意図を有しておらず、結果としても混乱が生じたという事実はありません。また、原告らの不起立が、卒業式の参加者にそれまでにない不快感を呼び起こしたとも考えられません。よって、真摯な理由に基づく教職員に対して起立・斉唱を免除し代替措置を講じることは容易であり、これを講じた場合の不利益は何ら存在しません。
したがって、本件で、代替措置を設けないことは、18条3項に明白に違反します。
第3 子どもの権利条約違反
1 次に、子どもの権利条約違反について述べます。ここで強調したいのは、生徒への強制の実態です。
教師が起立・斉唱を強制される中で、生徒が自由な判断など出来ません。
都教委は、生徒に対する*内心の自由の説明も禁止し、卒業式で生徒の不起立が多かったクラスの教員らを処分し、さらに、都教委の指導により、卒業式の司会進行表には「起立しない生徒に注意を促す」との記載がなされています。
その結果、生徒にも起立斉唱の強制が及んでいるのは明らかであり、むしろ10.23通達の真のターゲットは生徒です。
2 子どもの権利条約14条は、児童の思想・良心・宗教の自由を保障しています。
先のザンビアの生徒に対する国旗・国歌の強制が、自由権規約委員会により、思想・良心の自由侵害とされたことからも、本件生徒への強制の実態が、子どもの権利条約14条に違反することは明らかです。
また、都立高校には、外国人生徒も相当数おり、中でも、中国、韓国・朝鮮出身の生徒が多くを占めます。
これら外国人生徒の文化的アイデンティティに何らの配慮も代替措置も講ずることなく、事実上、彼らにとっては外国の国旗国歌であり、出身国によっては強い抵抗感を持つ可能性のある日の丸君が代に対し、起立斉唱を強制しているのです。
このような実態は、生徒の思想・良心・宗教の自由を侵害するとともに、「子ども自身の文化的アイデンティティ」の保障を定めた子どもの権利条約29条、30条にも著しく違反しているといえます。
3 次に、子どもの権利条約12条、13条は、児童の意見表明権、表現の自由を保障するとともに、それらの前提となる知る権利を保障しています。
被告は、国旗国歌の画一的な強制に反対する教師を教壇から排除し、内心の自由の説明も禁じ、教師が生徒に「国旗国歌については様々な考え方がある」と教える機会を奪いました。これは、生徒らの知る権利を侵害し、適切な情報を得ることを前提とする意見表明権も表現の自由も侵害しています。
4 また、10.23通達以前は、学校ごとに生徒が生徒会や実行委員会を通じて「自由な意見表明」を実践し、対面式の卒業式や壇上に卒業制作を飾るなどの創意工夫に充ちた卒業式を行ってきました。しかし、通達以後は、画一的な国旗国歌の強制により、生徒らの創意工夫の余地はなくなっています。
さらに、都教委は、生徒会主催での「国旗・国歌についての討論会」をも問題視し、主催した学校長等に対し「厳重注意」を行うなど、生徒らの自由な意見表明の場を奪いました。これらの措置が生徒の意見表明権を侵害していることは明らかです。
5 被告は、学習指導要領の国旗国歌条項を実施することが生徒の学習権を保障することであると主張しますが、生徒の知る権利や意見表明権を侵害する方法による画一的な強制が、学習権を保障することにはならないのは明白です。
6 原告らは、以上のような子どもの権利条約に違反する生徒の権利侵害に荷担したくないという真摯な理由から、本件職務命令に従うことができませんでした。
本件職務命令は、子どもの権利条約に違反する点で、「明白かつ重大な蝦疵」がありますから、これに従う義務はありません。よって、職務命令違反を理由とした本件採用拒否は違法であるのです。
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