佐伯周子がシューベルト4手のための幻想曲D940 の第1パートを弾いている。近日ベルリンで現地在住ピアニストと共演するからである。聴いていて、驚いたことがある。
幻想曲D940 のダイナミクスレンジが ピアノソナタ第21番D960 より大きい
のである。(D960 も弾くので練習している)
練習している
ベーレンライター新シューベルト全集は「548小節」「568小節」に fffz(フォルティッティッシモツァート)ありで、fff が最大の D960 よりダイナミクスレンジが大きい
好きな曲なので、CDでも頻度高く聴くが、ベーレンライター新シューベルト全集楽譜通りに弾いている演奏は聴いたことが皆無であった。
ブライトコプフ旧シューベルト全集では sff(スフォルティッシモ)になっており、後継楽譜も旧シューベルト全集を見習ってしまった
D960 fff > D940 sff
このダイナミクスレンジで、CD は作成されたモノがほとんど全てである。
ベーレンライター新シューベルト全集ピアノ連弾第3巻 BA5563 = 2013年刊行
ピアノソロが 2003年刊行なので、遅れること10年。普及が進まない訳である。
幻想曲D940 は、原資料として「シューベルト死直後出版のディアベリ社楽譜」「出版用左ページがセカンド・右ページがファーストの自筆譜」
ディアベリ社初版楽譜
SCHUBERT online
出版用左ページがセカンド・右ページがファーストの自筆譜
SCHUBERT online
どちらも最終ページが対象小節である。「548小節」は、
出版用左ページがセカンド・右ページがファーストの自筆譜では、「セカンドはfffz ファーストはffz」になっており、ベーレンライター新シューベルト全集では「ファーストに 1つ f 追加」
である。校訂者=リッチャウア が追加したことがはっきり理解できるように、「1つの f だけ書体が 角ゴシック体」になっている。
シューベルト全ピアノ曲で fffz があるのは、D940 & D959 の2曲のみ。D940出版時=1829年には「fffz の曲は出版されていなかった」
がディアベリ社が「fffz 不採用」の一因であろう。D959 出版は9年後の1838年である。
出版用左ページがセカンド・右ページがファーストの自筆譜は ブライトコプフ旧シューベルト全集刊行時には、既に知られていたのだが、初版出版楽譜だけを元に作成されたのである
ブライトコプフ旧シューベルト全集は、同じ出版社刊行の「旧モーツァルト全集」「旧ハイドン全集」に比べて遥かに良い楽譜だが、D940 に関しては良くなかった。
「シューベルト ピアノ曲」は初版改竄が凄まじいことは有名。即興曲第3番作品90/3 D899/3 は 変ト長調 → ト長調 に改竄が最も有名。(舞曲を除く)大半の曲は ブライトコプフ旧シューベルト全集発刊時に訂正された曲が多い。即興曲D899/3 も自筆譜通り 変ト長調 で出版されている。
4手連弾曲で最人気曲=幻想曲D940 がベーレンライター新シューベルト全集で初めて「シューベルト自筆譜通りに出版」は、殆ど知られていない