昨日号に掲載した基準と照合して、
シューベルト「ピアノソロ幻想曲」と通称されている2曲を評価する
2曲どちらも「自筆譜あり」で作曲年も、ほぼ特定できている。まずは、旧シューベルト全集でも出版されていた 『通称:ハ長調幻想曲 D605』から。
ピアノソロ曲 ハ長調 D605 アナリーゼ
特徴は次の通り
- 自筆楽譜の紙質から 1821-1823年作曲とほぼ特定されている
- 146小節 までしか楽譜が遺っていない
- テンポ設定には変化がある
- 調性変化もある
- 全曲構成は「変奏曲」である!
この曲には「第1主題に対比できる第2主題」が全く存在しない。全曲が「第1主題の変奏曲」である。この形式は『変奏曲』である。
「減7の和音」のオクターブ下降進行での開始は、ショパンの「バラード第1番 ト短調 作品23」を予感させるが、第3小節~第4小節で呈示される主題を延々と変奏する。
第52小節で、「初めてテンポ指定表示され Allegro moderato」になるが、その前のフレーズから大きくテンポを動かす(例えば冒頭部を Adagio とか Molto allegro にすると、曲の流れが壊れる。
第115小節の「Andantino」も全く同じで、「Moderato → Andantino」は最も差の少ないテンポ移動であり、「テンポが変わった」とは思えない。
●ハ長調 → ロ短調 → ロ長調
で曲は中断されているが、このまま「ハ長調に復帰」すれば『変奏曲』である。既にベートーヴェンが 『32の変奏曲 ハ短調』 で大きく転調する変奏曲は開発した後である。シューベルトが「ベートーヴェン:32の変奏曲」を深く研究していたことは、「ピアノソナタ第19番 ハ短調 D958」で立証されている。
拠って、
D605 は 幻想曲 では無い、と断定できる
この曲は、変奏曲である。
次に「ピアノソロ曲 ハ短調 D2E」を。
ピアノソロ曲 ハ短調 D2E アナリーゼ
この曲は聴いて頂ければ、誰でもわかると思うが「モーツァルト:幻想曲 ハ短調 K475」をそのまま下敷きに作曲された曲である。一時期「連弾曲」との情報が流出し、「ピアノソロ曲」と認識していない ピアニスト & 学者 が多い。現在販売している楽譜では、新シューベルト全集「ピアノ小品集I」しか楽譜が出ていないのも誤解を広げている1因かも。
まず曲の特徴を。
- 作曲年は1811年と特定できている
- 91小節で完結した作品である
- 拍子指示は 一貫して 3/4 である
- テンポ指示は Largo → Andantino → Allegro → Largo で、巾が大きい
- 時間的には 第3楽章(Allegro)が短いが、「4楽章構成の幻想曲」と考えるのが妥当
である。
手本にした「モーツァルト:幻想曲 ハ短調 K475」と比較すると、【拍子が変わらないのが不満】であるが、
シューベルト 14才の作品なので、理解不足はやむを得ない
と考えるのが妥当。 モーツァルトの幻想曲 K475 を「多楽章曲」と感じるか、否か、は人それぞれだろうが、
シューベルトは「モーツァルト:ハ短調幻想曲 K475」を多楽章曲として習得した
ことは明らかである。
D2E は 幻想曲 である、と断定できる