アストラゼネカ社(AZ社)のワクチンをどう使うかという問題が議論になっている。英国では2000万回の接種で79人に血栓が発症し、うち19人が死亡したと報告されている。単純計算して100万人接種して4人に血栓が起き、1人が死ぬ確率となる。デンマーク、ノルウェー、アイスランドはAZ社のワクチン接種の中止に及んだ。厚労省が二の足を踏むのも無理のないところだろう。韓国では4月7日時点で3例の血栓症例が出ている。このとき1回目接種完了者は115万人で、うち75%がAZ社のワクチンだった。このため、韓国では30歳未満を除外する措置に出ている。100万人接種して4人血栓1人死亡となると、後遺症を含めて政府が蒙る国家賠償責任のリスクは小さくない。2000万人に打つと20人が死亡する。今回は最初から英医薬品・医療製品規制庁(MHRA)が公式に数字を発表しているのだから、訴訟を起こされたとき、厚労省が頬被りして逃げることはできない。ファイザー社を9700万人分(年内)、モデルナを2500万人分(9月中)、すでに確保している厚労省としては、AZ社製の使用をなるべく先送りしたいのが本音だろう。
AZ社のワクチン接種の問題に関心が向かうのは、運悪くと言うべきか、自分自身の属性セグメントが、年齢的にも、時期的にも、性別的にも、ちょうどAZ社製の標的にされそうな心配があるからである。普通に考えて、ワクチンを選択できる権利があれば、誰でもファイザー社製やモデルナ社製の接種を要望するだろう。7月以降、厚労省がAZ社のワクチン使用を60歳以上に設定した場合は、60歳から64歳までが対象になり、その年齢帯に属する890万人がモルモット的に狙い撃ちされる結果になる(統計は10年前だが)。うち男性が434万人。ファイザー製とモデルナ製の確保数の合計が1億2200万人分で、日本の総人口1億2550万人に350万人足りない。というブラックジョーク的な勘定になる。この年齢帯434万人の男たちは戦々恐々だろう。御用学者で業界代理人の森内浩幸が、21日のモーニングショーでAZ社製は高齢者施設用に回すべきと言っていて、要するに、リスクの高いワクチンは高齢者施設で使ってしまえと冷酷な本音を吐露している。が、この男は、施設に入っている高齢者はすでにファイザー製でカバーされているという基本的事実を忘れているのだろうか。間抜けな提言に笑ってしまった。
自分が厚労省の医系技官だったらどうするか、どうしたいかというと、ファイザー製とモデルナ製の供給を追加し、AZ社製の接種は後回しにして、途上国支援などの方途に回す。その理由は、国家賠償訴訟のリスクを避けるためもあるけれど、もう一点、将来的な公衆衛生行政と国民健康管理のオペレーションの観点から、なるべく統一的で均質的な、国民的接種の方が具合がいいからだ。公共政策の論理と実務からはその方がいい。ワクチンの仕様がバラバラだと、接種後の国民の生理的身体もバラバラになる。現時点で、ファイザー製もモデルナ製もAZ製も、コロナウィルスに効果があることは分かっている。だが、それは現時点のことで、1年後、2年後、5年後の接種後の身体がどうなるかは分からない。ワクチンの不具合は、全く予想していない別系統の異常で発現するかもしれず、そのとき、不具合が派生する原因がなるべく少ない方がよく、医学的管理が簡素で一意的に済む方が政府としていい。公衆衛生(感染症対策)は、やはり国家が国民に正面から責任を持つもので、自由主義(リバタリアニズム)より社会主義(コミュニタリアニズム)の方が政策思想として馴染むものだ。
おそらく、厚労省の医系技官はそうした考え方に傾くだろう。その一方で、メッセンジャーRNAとウィルスベクターと、二つの方式を日本人に試して効能や影響を比較研究したいという誘惑もあるだろう。だが、決めるのは新自由主義者で東京五輪開催ハングリーの菅義偉だ。菅義偉とその邪なブレーンだ。彼らの動機はワクチン接種のスピードアップであり、6月中7月中の日本のワクチン接種率を、五輪開催強行を正当化できる水準まで上げることである。その論理と動機からは、自民党PTから上がっているような、そして玉川徹が自民党をエンドースして扇動しているような、企業で自由接種するパイプラインにAZ社製を集中投入せよ、年齢関係なしに手を挙げた者に打つ民間接種の場でAZ社製を使え、という政策になるかもしれない。菅義偉とその周辺の頭の中は、6月7月の接種のボリュームを可能なかぎり膨らます方策にフォーカスしていて、あらゆる資源をその目的のために国家総動員するという、短期的で一面的で遮眼革視野的な発想しかない。年齢関係なしに希望者にAZ社製を打つ案が実現すると、自己責任の前提ができ、国家賠償を恐れる厚労省にとっても都合がいい一面はある。
ひょっとしたらAZ社製ワクチンを割り当てられる被験者になるかもしれないと思ったとき、接種後の生理的身体(の変化)という概念(懸念)を思い至った。ワクチンは、いま目の前で燃えている火を消すための緊急手段だ。だが、その強力な消化剤の使用が、のちのち人体や環境にどのような影響を及ぼすかは判然とせず、100%の安全は誰も保証できず確信できない。特にメッセンジャーRNAは初めての試みで、経験知のない新しい科学技術である。何が身体の中で起きるか分からない。玉川徹が、ワクチンを打て、どにかく打て、何でもいいから早く打て、ワクチンを増やして増やして増やしまくれ、自民党の言うとおりにせよと吠えて扇動するほどに、テレビの前の私は逆の不安と懐疑の意識が強くなる。最近の報道で、米国で徐々に接種の進捗速度が鈍り、特にトランプ支持の保守層を中心にワクチン拒絶派の牢固な岩盤があり、新政権が進める前向きなコロナ対策の阻害要因になっているという説明があった。それを見て、相変わらず無知と非科学の「呪術の園」をやっているなあとバカにしていたけれど、少しずつ見方が変わってきた。本当に自分の身体と健康を守るということはどういうことか。
ワクチンを投与した身体は、免疫体質が何らか変化することだろう。果たして10年後も20年後も無害であり、何も悪い影響が残らないと言えるだろうか。ヒトの免疫メカニズムは謎だらけで、未だ解き明かされてないことが多い。われわれの世代は何も無かったのに、子どもたちの世代は多くがアレルギー疾患に悩んでいる。われわれの世代の子ども時代の、高度成長期の食品に原因があり、有害な添加物や甘味料や化学調味料を多く摂取したせいだとか、農薬や化学肥料を使いすぎた結果であるとする説を聞く。それを否定できる根拠や確信はなく、いったい身体の中で何が起きたのか、親から受け継いだ遺伝子の配列や形質がどう生化学的に変容したのか、不安になって狼狽するだけだ。狼狽しながら誰もが年をとっている。平均寿命まで20年あると考えたとき、そして今回のワクチン行政の基準の中で、ワクチンをどう接種するかは思案する問題だ。このまま3か月4か月経てば、玉川徹と菅義偉が接種政治に狂奔して接種率を上げ、米国の現在と同程度の準安全環境になる可能性がある。であれば、その市中空間はウィルスの流行が収まった状態であり、ワクチン未接種者でも安心して歩ける環境ということになる。
玉川徹が21日の番組で証言したところの、自分は2年連続してインフルエンザ・ワクチンを接種したが、2年ともインフルエンザに罹ったという体験談も、簡単に聞き流せない情報だ。ワクチンとは何なのだろう。ひょっとしたら、毎年流行して猛威を奮うインフルエンザも、マスクと手洗いを徹底し、三密を注意警戒し、旅行や会食の機会を削減し排除すれば、ワクチンなしで凌げるのではあるまいか。国が推進して定着させたインフルエンザ・ワクチンは、医者と製薬業界を不断に儲けさせるもので、接種不要な国民も多いのではないか。横市の御用学者がこのタイミングで発表した中和抗体の話も、官邸差配によるワクチン・プロモーションのプロパガンダの臭気を強く感じる。御用学者の話では、ワクチンでできた抗体も1年間量が持続すると言う。本当だろうか。責任を持てる発表なのか。ファイザー社の治験では、2回目の接種から半年後までの有効性が91%という結果だった。ファイザーは半年間をコミットし、横市は1年間をコミットしている。横市の話は信用してよいのだろうか。接種をアクセラレーションするための意図的な発表の疑念を拭えず、また、コロナ・ワクチン接種を毎年の国民的行事として習慣定着させ、ボロ儲けの装置にしようとする資本と利権官僚の思惑が透けて見える。
いずれにせよ、6月末になり、東京五輪が強行突入か中止か決まった後には、もう今のようなワクチン狂騒曲は消えているだろう。東京五輪があるから、菅義偉は「ワクチン、ワクチン」と騒いでいるのであり、菅義偉の差配で菅マスコミが毎日毎日「ワクチン、ワクチン」と連呼しているのである。東京五輪が中止になれば、菅義偉の政治的敗北であり、ワクチン接種のスピードなどどうでもよくなる。五輪開催突入に持ち込んでもそれは同じで、目的を達成したのだから手段のワクチンなどどうでもよくなる。7月になれば、誰もワクチンについて関心を持たなくなる。マスコミから話題が消える。ワクチンの在庫は十分で、接種体制も出来上がって回っているから、時間が経てば100%近い接種率が達成される。運の悪い年齢位置に属してしまった私は、慌てず静かに様子見しようと思っている。菅義偉と玉川徹には振り回されない。
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