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お百度詣り  ( その4 )

2009-08-06 08:12:58 | ある被爆者の 記憶
私たちがこの祖父贔屓になると、父はよい顔をしなかった。
 「 なにが貧乏士族が。」
 何度かそう言って、私たちの心に水を差した。
 母方の山路なる姓が、維新の転換期に、お家に功ありとして、お殿様より頂戴したものであるということに及ぶと、
 「 時代が変わろうとする時に、苗字を頂いたと有難がる。お殿様もお殿様なら、家来も家来、時代遅れも甚しい。そうなふうだから、あの時代に、こんな京都に一番近くいながら、誰一人として、維新の時に人物を出せなかった。」
 まるで、学校の歴史の先生が、歴史の汚点を説明する時のように、わざと、侮蔑の語調を強めた。母は争わなかった。決して、それが正論であるからと思っているわけではなく、父の母方に対するひがみからだと信じており、いわば弱者に対する情けとして、口をつぐんでいたのである。
 しかし、母は、父は憐れな天涯の孤児だと、子どもたちにはこっそり言った。そして、父の父、与三次だけが与次兵衛を名告っていないことをその引き合いに出した。どういう意味か、よく分からなかったが、表立って、両親の愛を受けることが出来なかった境遇であったことが言いたかったのであろう。天涯の孤児にしては、ある程度の教養を持ち、特に能書家であることが、母の言を鵜呑みに出来ないところであったが、父の前では何も抗弁しない母が、そっと私たちに洩らした、折角の腹癒せかと思えば、却って、母をいたわって聞き流していた。それでも、内心には、家の持つ秘密めいた歴史が重くのしかかっていることを直感していた。
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