日経のビジネス雑誌、日経xTrendが『世界初の「MaaS法」の衝撃 フランスが1兆円超えの大型投資』と言う記事を載せていた。システム発想の弱い日本人も、これからは頭をシステム的発想に切り替えないと益々後れを取ってしまう。日本政府も遅ればせながら、2020年の通常国会に「MaaS関連法案」が提出される見込み。
目的は、
1.交通の空白地域をなくし、すべての市民へ自家用車に代わる移動サービスを提供
2.移動に必要となるあらゆる情報に利用者がアクセスできる様にし、異なる交通手段を連携、ワンパッケージで経路や運賃などの提供
3.2050年には陸上交通のカーボンニュートラルを実現、2030年までに温暖化ガスの排出量を37.5%削減、2040年までに化石燃料自動車の販売を禁止する
と言うもの。
2019年12月、フランス国会で11月に可決された世界初の「MaaS法」の詳細が公開された。22年までに約1兆6200億円(134億ユーロ)の大型投資が実行される注目の政策転換だが、いまだ日本ではほとんど報道されていない。この知られざるフランスMaaS法の中身を、計量計画研究所理事の牧村和彦氏がいち早く読み解いた。
モビリティ法(LOM)は、19年春に一度国会で議論され、19年11月18日に国民議会で最終的に可決。そして、12月26日、注目のMaaS法の詳細が公式ジャーナルに掲載された。その中身は、18年~22年の期間(5年)で約1兆6200億円(134億ユーロ)という大規模な予算であり、交通投資の4分の3を地域の公共交通や新たな移動サービスの推進事業が占めるという政策の大転換が示されている。では、その具体的な中身は、どんなものか。
国家を挙げて「移動権」を保証
今回可決されたモビリティ法は、自動車を保有していない何百万人ものフランス国民への対応、環境汚染や気候変動の緊急事態への対応、フランス国鉄(SNCF)が運行するTGVなどの都市間高速鉄道への過度な投資が日常の交通ニーズに影響を及ぼしていることへの対応、世界的に巻き起こる移動サービス革命への対応などから、大きく3つの柱を掲げている。
2.新しいモビリティサービスを促進し、すべてのフランス国民の移動を可能にする点
3.より環境に優しい交通への移行を推進する点
この3つの指針を受け、モビリティ法では具体的には下記の5つの内容で構成されている。MaaSおよび新しい移動サービスに関する具体的な政策は、Point1~3で述べられており、それぞれの要点を解説していく。なお、原文はフランス語となるが、詳細は環境政策やエネルギー・交通などを所管する フランスの 環境連帯移行省(Ministère de la Transition écologique et solidaire)のホームページで公開されている。
Point 2/新しいモビリティサービス(MaaS)の成長の促進
Point 3/環境に配慮した交通への移行の実現
Point 4/日常の交通手段への投資
Point 5/交通の適切な機能の確保
【Point 1】すべての地域のすべての市民へ移動サービスを提供
モビリティ法(LOM)では、「交通の空白地域をなくし、自家用車に代わる代替交通手段の保証を提案する」としており、国家として国民の移動権を担保する姿勢が力強く述べられている。その実効性を確保するため、都市共同体あるいはコミューンの共同体が主体となり、モビリティプランの作成および実施することとしている点が特徴的だ。
これは、従来の鉄道やトラム(路面電車)、バスに加えて、オンデマンド交通やシェアリングサービス(カーシェアリングや自転車シェアリング)、自動運転バスなどの新しい移動サービスの実施を推進するための枠組みだ。モビリティプランは、都市のスプロール化(無秩序な拡大)や大気汚染、生物多様性の保全といった課題に対処する計画とし、これまでの都市交通戦略(PDU)に置き換わるものとしている。
マルチモーダルな将来交通ビジョンの中に、自動運転バスやカーシェアリング、自転車シェアリングなどの新しいモビリティサービスも取り入れ、将来交通ビジョンとMaaSや自動運転サービスが一体として計画されている点、法的な担保や財源がしっかり確保されていて実効性が伴う点など、「日本版MaaS」の推進に歩み出した日本にとっても示唆に富む内容だ。
【Point 2】新しいモビリティサービス(MaaS)の成長の促進
モビリティ法(LOM)では、19年12月から遅くとも21年より、移動サービスに関するデータの活用を支援し、ユーザーがアプリなどを通してワンクリックで100%の移動情報にアクセスできるようにするとしている。つまり、世界で初めて国家としてMaaSを推進することを打ち出した法律だ。
例えば、トラムやバスなどの時刻表、新しい移動サービスであるカーシェアリングの料金や満空状態といった利用に関する情報など、移動に必要となるあらゆる情報に利用者がアクセスできるようにし、異なる交通手段を連携、ワンパッケージで経路や運賃などの提供を促していくことを目指している。障がい者に対しても移動に関する情報がオープン化され、移動支援のサービスが強化された「ユニバーサルMaaS」の発想が盛り込まれている点も見逃せない(同伴者の運賃などの優遇策もある)。
また、自動車の乗車効率を向上するため、相乗り政策を推進すること(例えば、高速道路での相乗り専用車線の導入)や、20~22年までに公道での自動運転バスの走行を許可し、自動運転を推進することが述べられている(今後16の実証を進める)。
一方で、電動キックボードなどのワンウェイ型の移動サービスに対しては、自治体での事前承認や運賃体系を規定するなど、規制強化の内容となっている。
フランスは地域交通の計画や経営は行政機関が主体となって行っているものの、個別の交通機関の運営や管理は民間企業が中心となっている。また、新しい移動サービスの多くは民間企業が担う。これらの民間企業に対してもMaaS推進のためにオープンデータ化を進めていく姿勢は、日本でも学ぶ点が多くあるだろう。
【Point 3】環境に配慮した交通への移行の実現
モビリティ法(LOM)では、従来の交通機関をクリーンモビリティへ移行し、同時に環境汚染の少ない交通機関の開発を支援、自家用車についてもクリーンな車両への転換を促進する。具体的な数値目標としては、2050年には陸上交通のカーボンニュートラルを実現、2030年までに温暖化ガスの排出量を37.5%削減、2040年までに化石燃料自動車の販売を禁止するとしている。また、自転車の利用を促進し、2024年までに利用率を現状の3%から9%へと3倍に引き上げることを目指し、電気自動車(EV)の充電スポットを2022年までに5倍に増加、バイオガス車両の開発、EVや水素自動車などをタクシーや公共の車両に普及させていく内容も盛り込まれた。
加えて、日常の通勤における移動に対して、テレワークや自転車通勤、相乗りを促進していくこととし、従業員50人以上の企業に対して通勤交通手段の協議が必須の条件として盛り込まれている点も注目だ。フランスでは日本と類似の企業による通勤手当が導入されており、1人当たり年間400ユーロ(約4万8500円)を上限に、税や社会保障の免除対象とする制度がある。モビリティ法では、企業の通勤手当について、従来の鉄道やバスなどの公共交通運賃への税控除に加えて、新しい移動サービスも税控除の対象とした点が画期的だ。新しい移動サービス分で、1人当たり年間200ユーロ(約2万4300円)が上限となる。
日本でもモビリティ・マネジメントの一環として、国が企業に働きかけるエコ通勤政策を行っているものの、全国の企業を対象とし、新しい移動サービスも含む柔軟な対応となっている点は、大いに参考になる取り組みだろう。
また、世界的にはロンドンやバルセロナなどで環境負荷の低い交通モード以外の流入を制限する「低排出ゾーン」の設定が進んでいる。同じようにフランスにおいても、今回のモビリティ法で低排出ゾーンの導入を促進することが盛り込まれた(15の自治体が導入に向けて検討中)。
日本でもMaaS関連法案を提出へ
このように今回可決されたフランスのモビリティ法(LOM)は、非常に画期的な内容だ。地域の様々な人々の移動を保証し、そのために地方が主導で計画から実行までを担える権限と財源が与えられていること。これらを促進する手段として、自動運転バスをはじめとした新しい移動サービスの導入を支援するとともに、企業が支給する通勤手当の税控除の対象となる交通手段を拡充し、かつ、既存の交通手段と新しい移動サービスを統合したMaaSを強力に推進するという総合的な交通パッケージとなっている。今後この法律が施行され、5年後にはフランスは移動分野において大きな変革を遂げていることは確実だろう。
また、モビリティ法(LOM)では、2023~2027年の5年間で、さらに143億ユーロ(約1兆7350億円)の予算増も盛り込まれており、今後10年間の政策継続を保証する内容となっている点も見逃せない。気候変動への対応は待ったなしであり、国家としてイノベーションを起こし、MaaSを全国に推進していくという力強いメッセージが込められたフランスのモビリティ法は、日本でも参考にすべきものだ。
というのも、目下、日本では2020年の通常国会に「MaaS関連法案」が提出される見込み。このMaaS関連法案自体は、これまで複数の公共交通事業者が運賃の届け出を行う場合、個別に手続きをする必要があったが、これを一括・共同で行えるようにすることなどを盛り込んだ画期的なものだ。先行したフランスはモビリティ法(LOM)によって自国の産業を守り、育成しながら、グローバル企業とのバランスを取る巧みな戦略を貫こうとしている。日本もグローバルな視点を持ちながら、ローカルなアクションがさらに活発となる、より踏み込んだ取り組みが今後は求められる。
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