ニューズウィークが『2度目のロックダウンで米企業10兆ドルの「債務爆弾」が破裂する』と報じていたが、2020年4月~6月の亜米利加のGDP,30%以上ダウンということ。それにコロナの感染状況、激しさを増すばかりで、2度目のロックダウンは不可避であろう。そうなると、米国企業は社債をすでに10兆ドル以上発行しておりそれを償還できなくなる。アメリカ企業の多くが2度目のロックダウンで消えてゆくのが続出するであろうということで、2008年のリーマンショックどころの騒ぎではなくなう。
米証券市場はまだ新型コロナ第2波を織り込んでいないが時間の問題か(ニューヨーク証券取引所) Lucas Jackson-REUTERS
<コロナ前から過剰債務が懸念されていた米企業。FRBと米政府が行った巨額支援策も借金体質に拍車をかけた。今や資金繰りはパンク寸前だ>
IMFは今年1月、新型コロナウイルスのパンデミックが始まる前から警告を発していた。アメリカをはじめ主要な経済大国は、世界経済の減速に対して十分な備えができていないと──。
この半年間にアメリカで起きたこと、つまりコロナ禍による大量失業と相次ぐ企業倒産を振り返ると、その崩壊の規模とスピードは「減速」などという言葉ではとても言い尽くせない。
しかもパンデミックはもう1つの爆弾をアメリカ経済に投げつけようとしている。その爆弾とは、米企業の抱える膨大な債務だ。
アメリカ経済は長年、借金に支えられてきた。1980年代以降、政府と企業、消費者の抱える債務残高はGDPの2倍を上回ってきた。2008年の金融危機後に金利が記録的に低下したため、債務はさらに大幅に膨れ上がった。
米企業の社債発行残高は10兆ドルを超え、アメリカの2019年のGDP21.5兆ドルの半分近くに上っている。提携による融資や中小企業向け融資など、他の形態の債務も加えると、企業の債務残高はなんと17兆ドルに上ると、フィナンシャル・タイムズは今月伝えた。
FRBがテコ入れしても
「債務の増加により、経済がますます不安定になり、アメリカはコロナ危機のようなショックに弱い体質になっていた」と、ニューヨークのアデルフィ大学のロバート・ゴールドバーグ准教授(専門は金融学、経済学)は本誌に語った。
それでなくても膨大だった米企業の債務はここ数カ月、「100年に1度の危機」でさらに大きく膨れ上がった。
3月には州や市当局がロックダウン(都市封鎖)を発令。社債市場は事実上取引停止の状態に陥り、新たな社債の発行、特に非投資適格級債(ジャンク債)の発行による資金調達はほぼ不可能になった。
債券市場を活性化するため、FRB(米連邦準備理事会)は社債市場への介入を宣言。流動性を改善するため、7500億ドルの社債を購入した。
加えて中小企業に対する支援を開始、6000億ドルの融資枠を設けて、資金調達が困難な中堅・中小企業の支援に乗り出した。企業の倒産を防ぐこの施策で、債務はさらに積み上がった。
FRBの支援策は、主に投資適格級の債券市場のテコ入れを狙ったものだが、この介入によりここ数カ月ジャンク債の発行が「急増している」と、マサチューセッツ州のベントリー大学のデービッド・ガリー教授(経済学)は本誌に話した。
短期的に資金調達ができても、「いま多額の債務を抱えている企業が、長期的に生き残れる保証はない。旅行・レジャー産業はなおさらだ」
米旅行協会は今週、旅行業界のリーダー14人の連名で、ドナルド・トランプ米大統領と議会に書簡を提出。苦境にあえぐ旅行部門を再生させるため、新型コロナウイルスの検査体制を拡充するよう求めた。
同協会は、コロナの直撃を受けた旅行業界の損失により、2020年の米GDPは前年に比べ1.2兆ドル減る恐れがあると警告した。資金繰りに苦しみ、デフォルト(債務不履行)に陥りかねない企業は、旅行会社だけではない。
「デフォルトの波が広がれば、信用スプレッド(信用力の低い債券に上乗せされる金利)が広がって、(格付けの低い)企業の資金調達コストはさらに上昇する」と、ガリーは言う。
「そうなるとさらに企業の倒産が相次ぎ、失業も増えて、大量倒産・大量失業に陥りかねない。景気の冷え込みが長引けば、それに応じてデフォルトも増えるだろう。特に信用力の低い企業は資金を調達できなくなる」
国際金融協会(IIF)によると、デフォルトに陥った世界の非金融企業の発行済み社債の総額は、額面で今年第2四半期に史上最高の940億ドルに上り、その4分の3を米企業が占める。
V字回復はなし
デフォルトの嵐がいつまで続くかは、パンデミックの収束時期にかかっていると、IIFのエムレ・ティフティク研究ディレクターは本誌に話した。「収益の改善が見込めない状況ではなおのこと、企業が過剰の借り入れを長く続けることは不可能だ」
「債務が増え続ければ、多くの企業は今後の危機に対して今以上に脆弱になり、新規の設備投資は大幅に減り、中長期的には生産性の向上と成長が阻まれるだろう」
ユタ大学デービッド・エクルズ経営大学院のジョナサン・ブロガード教授(金融学)も今後何カ月かデフォルトが増え続けるとみている。
「大いに期待されたV字回復は起きそうもない。多くの製品とサービスの需要が低下している状況では、(デフォルトの)急増は驚くに当たらない。COVID-19が猛威を振るい、感染拡大が長引けば、それに応じてデフォルト件数も増え続けるだろう」と、ブロガードは本誌に語った。
「再び大規模な経済活動の停止が必要になれば、各国政府と中央銀行は、大量倒産を防ぐために、これまでに講じてきた支援策を延長せざるを得ない」
パンデミックで収益が激減し、運転資金が枯渇した企業は、社債をどんどん発行してきた。今年に入ってからの投資適格級の社債発行額は、既に2019年の1年分を上回っている。
だが発行ペースは鈍化している。金融情報サービスのリフィニティブによると、7月初め以降に米企業が債券市場で調達した資金は2590億ドル。6月の5290億ドルの半分にも満たない。
ロンドン大学ロイヤル・ホロウェイ校のジェフ・フランク教授(経済学)は、今の危機を供給サイドの危機とみている。にもかかわらず米政府とFRBはとっさの対応として需要喚起策に走り、「甚だしい過剰投資」を助長してきたという。
成人1人当たり1200ドルの給付金や、従業員を雇用し続ける中小企業に支払われる給与補償の返済免除、FRBのジャンク債購入などだ。
「政府とFRBはパンデミックの初期段階で持てる手段を使い尽くした。FRBのバランスシートは既に4兆ドルから7兆ドルに膨張している。金融危機の全体を通じて増えた額に匹敵する大幅な膨張だ」と、フランクは言う。
腰を据えた支援策を
法律サービス会社エピックによれば、1月から6月までに連邦破産法11条の適用を申請した米企業は3604社で、年率にして26%増加した。資金繰りに苦しみつつ、何とか期限までに債務を返済しようとしている企業はその何十倍、何百倍にも上るだろう。
こうした未曾有の危機では、何百万人ものアメリカ人の生活は借り入れの期間が長いか短いかにかかっている。この状況では、民間の貸し手は個人向けにも企業向けにも融資しようとしない。既存の融資や信用供与枠も契約によっては借り換えが可能だろうが、新しく貸そうとはしないだろう。
「理にかなった政策は、資金を必要としている人や企業を助けることだ。民間の与信が事実上止まっている間、資金さえあれば将来的に成長できる会社が、つなぎ融資で資金不足を乗り越えられるようにすることだ」と、フランクは言う。「ただし、今回の資金不足は数カ月単位ではなく何年も続く可能性がある。短い融資では意味がない」
政府とFRBによる直接融資が最善の方法だと、フランクは言う。各企業への家賃支援も欠かせない。
「FRBが中小企業向けに開始した支援制度は、民間の銀行も融資に加わって一定のリスクを負う設計だが、報告によれば、この条件のせいでほとんど融資が行われていない」という。
FRBはまた、企業や地方自治体などより幅広い経済を対象とした2兆3000億ドル規模の緊急資金供給策を発表。ジャンク債についても買い入れを行うことを決定した。7月28日にはスティーブン・ムニューシン財務長官が、企業や地方自治体、個人を対象とした融資の期限を、当初の9月30日から年末まで延長すると発表した。
だがフランクは、FRBによるジャンク債の買い入れが市場経済にひずみをもたらしていると指摘する。「問題は、今はリスクが計算できない点にある」
新型コロナウイルスの感染再拡大がどのような結果を招くかは未知数で、現在の株式市場と社債市場はまだ「第2波」の影響を織り込んでいない。
デービッド・ガリーは、もしも2度目のロックダウンに追い込まれれば、「多額の負債を抱える企業のキャッシュフローに壊滅的なダメージを与えるだろう」と語った。「数十、場合によっては数百もの企業が利払いの繰り延べや免除を求めたり、あるいは債務不履行(デフォルト)に陥る可能性もある」