日経が、日本の発電技術会社J-Powerの水素活用の具体的なモデルを示す豪州プロジェクトについて紹介していた。そこでは水素を、豪州の褐炭からとるというプロジェクトを進めているという。全面的な水素社会はあり得ないだろうが、特殊な分野では、有効なエネルギーかも。
以下、日恵の記事から:::::::::::::::::::::::::::::
CO₂削減が喫緊のエネルギー問題として叫ばれる昨今、持続可能な社会の実現に向けて、クリーンなエネルギー開発の需要が高まっている。国内外で安定した電力を供給するJ-POWERで技術開発を担う取締役常務執行役員の笹津浩司氏は、「エネルギーを不断に提供しなければいけない中で、必要なものは冷静かつ柔軟な発想です。日本ではとくに2つの視点で考えなくてはなりません」と強調する。
1つが、エネルギーミックスの重要性だ。日本には水力、風力などの再生可能エネルギーが豊富にあるが、発電量の変動が大きいのもあり、それだけでは安定供給が困難である。そのため、需要とのミスマッチを補完するエネルギーの確保が必要となる。
もう1つが、CO₂フリー電源の必要性だ。エネルギーの安定供給を実現するために化石電源は必要だが、化石資源をただ燃やすのではなく、高度な技術を使い「よりクリーンなエネルギー」としていかなければならない。
J-POWERは、2つの視点から長年にわたり技術開発に取り組んできた。その中でも、期待が高まっているのが「水素」だ。水素は、燃やしてもCO₂を排出しないクリーンエネルギーだが、一般的に水素の製造や運搬などの技術は開発の途上にある。
しかしエネルギー史に新たなページを刻む水素プロジェクトの実証実験が、今まさに進行している。「日豪水素サプライチェーン構築実証事業(以下、HESC※1プロジェクト)」である。
HESCプロジェクトでは、豪州の未利用褐炭から水素を製造し、液化して船で日本へ運ぶといった、生産、輸送、貯蔵を含む一連の水素サプライチェーンの確立を目指している。J-POWERの他、複数企業がコンソーシアムを組んで取り組んでいる。
その中でもJ-POWERは、褐炭から水素を製造する肝要な役割を担っている。2020年内に水素の製造を始める計画だ。「原料となる褐炭は、石炭の中でも低品位なもので水分量が多く、従来は現地の発電で限定的にしか利用されていませんでした。しかし水素原料に利用することで、安価で安定した水素供給を実現し、水素利用の拡大に貢献できると考えています。また実証試験では、水素製造の安定性を確認するだけでなく、どの地層の褐炭が水素原料として適しているかなどを検証していきます」と笹津氏は語る。
※1 HESC:Hydrogen Energy Supply Chain
HESCプロジェクトでは、豪州ビクトリア州ラトロブバレーの褐炭を水素の原料とする。膨大な資源がある炭鉱(左)は、浅い所に石炭があるので露天掘りができ採炭費用もかさまない。現在、褐炭ガス化炉・水素製造試験設備(右)の建設・試運転を進めている
(写真提供:HySTRA)
長年培われてきた高効率な石炭火力発電技術が要に
HESCプロジェクトにおいてJ-POWERが不可欠な存在だったのは、同社が1990年代から石炭ガス化技術の研究開発に取り組んでいたからだ。
石炭ガス化とは、石炭に酸素と熱を加えて蒸し焼きにして水素などの燃料ガスを生成するものだ。J-POWERはこの燃料ガスを用いたガスタービンコンバインドサイクル発電による究極の高効率発電技術を追求してきた。16年度からは商用化を目指し、NEDO※2の助成を受け中国電力と共同で設けた「大崎クールジェン」にて大規模な実証試験が行われている。
実証試験は3段階からなっている。①石炭ガス化による燃料ガスを用いた高効率発電②発電の過程で発生するCO₂の分離・回収③燃料電池との組み合わせ、だ。
「高効率発電を維持したまま、CO₂の安定的な分離・回収を行い、CO₂をほとんど排出しない石炭火力発電の実現を目指していきます。この石炭ガス化技術がHESCプロジェクトでの水素製造の肝になっています」と笹津氏は力を込める。CO₂の分離・回収技術も組み合わせれば、CO₂フリー水素製造の可能性も広がる。
※2 NEDO:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
水素だけでなく炭素の幅広い活用にも道を開く
「水素を蓄エネルギーとして活用できる大規模な水素供給体制が整えば、再生可能エネルギーを補完するエネルギーにもなるでしょう。今後HESCプロジェクトよりもさらにスケールを拡大して、大崎クールジェンの実証試験と同規模なら1日170トンの水素製造も可能になると見込んでいます」と笹津氏は展望を語る。
しかも分離・回収されたCO₂は、作物の成長を促進させたり、炭素(C)資源として建材や化学製品に活用する検証も始まっている。「カーボンリサイクル」という考え方だ。「CO₂を単に廃棄物として扱うのではなく、リサイクルエコノミーとして使っていくことが今後は重要になります」と笹津氏。
J-POWERが目指すCO₂フリー水素製造イメージ
CO₂を排出しない水素エネルギーの活用では、回収したCO₂を農業用として利用したり、炭素(C)資源として工業用に利用するなど「炭素の有効活用」という重要な側面を持っている
最後に笹津氏はこう締めくくる。「高効率な発電を目的に研究を始めた石炭ガス化技術も、当時から多用途展開の可能性があると考えていました。水素製造はその可能性の一つです。水素だけにとどまらず、我々の技術をより多くの分野で活用することで、国内外の持続的な発展に貢献したいと考えております」。
J-POWERの未来への取り組みは、水素社会の実現を加速するだけでなく、発電の領域にとどまらない貢献をもたらすものになるだろう。