エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

芥川のガボリオ評

2017-11-10 14:54:37 | ガボリオ評
芥川龍之介 「一人一語」文芸春秋 1925 4月号


僕は探偵小説では最も古いガボリオに最も親しみを持っている。ガボリオの名探偵ルコックはシャァロック・ホオムズやアルセエヌ・リュパンのように人間離れのしたところを持っていない。のみならずガボリオの描いた巴里は近代の探偵小説家の描いた都会---たとえばマッカレエの紐育などよりも余程風流に出来上がっている。ガボリオは僕にはポオよりも好い。勿論評判のルヴェエルよりも好い。因に言う。名探偵中ではルコックのほかにポオのデュパンも嫌いではない。が、ソオンダイクやケネデイイになると、---殊にケネデイイの莫迦さ加減は殆ど神聖に達している。あんな主人公は描こうとしても、到底人間業には描けるものではない。

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コナン・ドイルのガボリオ評

2017-11-10 14:45:02 | ガボリオ評

以下は「ファイルナンバー113:ルコックの恋」の「訳者あとがき」の一部。

「緋色の研究」の中で、ワトソンがホームズと探偵談義をする箇所がある。
「君を見ているとエドガー・アラン・ポーのデュパンを思い出すよ」と言われ、ホームズは「それは僕のことを褒めて言っているつもりなんだろうが、僕に言わせりゃデュパンなんて大した人間じゃないね。十五分も黙っていた挙句、うがった言葉で連れの思考の中に割り込んでくるなんて、これ見よがしで薄っぺらだ」とにべもない。
 「ガボリオの小説に出てくるルコックは君の思い描く探偵像に合うかい?」と尋ねられるとホームズは、「ルコックはどうしようもないドジだね。彼の良いところはただ一つ、馬力があることだけさ」とバッサリ斬り捨てる。更に、ホームズなら二十四時間でやってのけることにルコックは六カ月もかかっている、探偵とはこうあってはならない、という反面教師の見本みたいなもの、とまで言う。
 しかしその後で、語り手であるワトソンは、自分のお気に入りの名探偵二人をこのようにこきおろされて憤然とした、と述べている。コナン・ドイル自身、そうした両方の気持ちを抱いていたと想像される。
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