彼はすぐさま歩道に飛び降り、フォルチュナ氏を手助けして馬車の中に座らせ、その後自分も乗り込んだ。
「ラ・ブルス広場二十七番地へ!」と御者に一声掛けると、馬車は走り出した。
あんなにも喜びに満ち自信満々だったフォルチュナ氏がかくも絶望に打ちひしがれている様子を見るのは実に痛ましい限りであった。
「ああ何もかも終わりだ……」と彼は呻いた。「金を奪われ、身ぐるみ剥がれ、破滅だ……確実な案件だったのに……不幸は俺だけにやって来る……誰か他の奴に出し抜かれた……他の奴がお宝をそっくり手にする……ああ、そいつが誰か分かっておれば、くそ、分かってさえおれば!」
「ち、ちょっと待ってくださいよ、ボス」とシュパンが遮った。「あっしが知ってます、そいつを!」
フォルチュナ氏は身体をびくっと震わせた。
「そんな馬鹿な!」
「いや、そうなんすよ、ボス。性質の悪い男で、ド・コラルト子爵と呼ばせている野郎です……」
フォルチュナ氏の口から洩れたのは叫び声というよりは咆哮に近かった。彼ほどの事情通であれば、一条の光ですべてを見通すことが出来るのだ。
「そうか、そういうことだったのか、分かったぞ!……そうだ、お前の言うとおりだ、ヴィクトール。あの男、コラルトに間違いない。ヴァロルセイに悪い考えを吹き込んだ張本人……ヴァロルセイの命を受け、卑劣な策略を使ってマルグリット嬢の恋人に濡れ衣を着せた下劣漢……あのゲームが行われたのはマダム・ダルジュレの館だった……してみるとコラルトはあの男を知っていたんだ、彼の秘密を知り……俺の先回りをしたんだ」
彼はしばらく瞑想していたが、さっきとは打って変わった調子で言った。
「私がこの目でシャルースの富を見ることは決してないであろう。私の四万フランは炎に包まれている。だが、見ておれ!燃え尽きる前に、もう一仕事させてみせる! ……ああ、コラルトとヴァロルセイが結託して私を破滅させようというのだな。だが待て!そういうことであれば、私はマルグリット嬢の側に回ろう。それから将来をふいにされたあの気の毒な男の……。ああ彼らはまだ私を知らぬ、フォルチュナを!……今や私は無実の彼らの側に立つのだから、あの悪党どもが彼らを打ち負かさないようにしなければならぬ。悪党どもに見破られないようにせねばならぬ。私はこれからは善をなすのだ、そういうめぐり合わせになったからには。しかも報酬は求めぬ!」
シュパンはうっとりとして聞いていた。彼の復讐がこれから始まろうとしているのだ。
「ボス、実はですね」と彼は言った。「俺、コラルトに関して面白いことを知ってるんです。まず、あいつは結婚してます。妻はどっかでタバコ屋をやっている筈です。アニエール通りの近くで。突き止めますよ、見ててください……」
馬車が突然停まったので、彼はここで言葉を切った。ラ・ブルス広場に着いたのだ。フォルチュナ氏はシュパンに馬車代を払うよう命じ、自分は階段を二段飛ばしで駆け上がっていった。早く作戦を練らんとして急いでいたのだ。
彼の留守中に伝令が一通の手紙を持ってきたとのことで、ドードラン夫人が彼にその手紙を手渡した。彼は封を切り、読んだ。
『私は故ド・シャルース伯爵の庇護を受けていた者です……あなた様にお会いしてお話したいことがあります……明後日、火曜日、三時から四時の間に伺いますので、その間御在宅下さるようお願いいたします。取り急ぎ、マルグリット』4.17