「まぁ、そうですわ!」と彼女は叫んだ。「私って何て馬鹿だったんでしょう! そんなこと、考え付きませんでした。あぁ、なんという悪辣な女でしょう! それなのに問いただして白状させることも出来ないなんて!真実を突き止めた後でも、以前と同じように彼女に接しなければならないなんて、なんと呪われた状況でしょう!」
治安判事は自分の任務から気を逸らされるようなことはなかった。
「ド・フォンデージ夫人のことに話を戻しましょう。そのやり取りの内容をまとめてみると、こういうことですかな。夫人は貴女が世間に出て行くのを極端に恐れている。それは愛情のためか? いや、そうではない。では何故か? それを探らねばなりません。次に、貴女が彼女の家に行くか、あるいは修道院に入るか、どちらでも良いと考えているようだ」
「どちらかというと修道院に入れたがっているようです……」
「ということですか! ではそこから得られる結論は? フォンデージ夫妻は何がなんでも貴女の身柄を抑えて息子と結婚させようというのではなさそうだ。ということは、彼らには確信があるということですな。消えた大金を盗んだのは貴女ではない、という揺るがぬ確信が……。では貴女に聞きますが、その確信はどこから来たものだと思いますか? 彼らがその金の在処を知っているか、あるいは……」
「ああ、判事様!お金を盗んだのはあの人たちだということですわ!」
治安判事は黙っていた。指輪の宝石を内側に回した---ただでは済まない気配だ、と彼の書記官なら言うところであろう---。彼は表情を外に表さない精神力の持ち主であったが、内心激しい感情が渦巻いていることは誰の目にも明らかであった。
「さて、そうですね、お嬢さん」と彼は言った。「そう、私もそう確信していますよ。ド・フォンデージ夫妻は貴女がド・シャルース氏の書き物机の中に見た何百万フランかを手中にした、と。その金を私たちは二度と目にすることはないでしょう。彼らがいかなる悪辣さと驚くべき業を用いて、それをやりおおせたものか? それは私には分かりません。確かなことは、彼らがそれを手にしているということです。さもなくば、論理は論理でなくなる」
彼はしばらく考え込んでいた。深く寄せられた眉が彼の思考の深さを物語っていた。それから彼はゆっくりと口を開いた。
「貴女に私の考えをすべて明かしているということは、お嬢さん、貴女は殆ど子供と言っていいほどの若い娘さんですが、貴女には私の敬意と信頼の証をさしあげているということです。これまでそれに値すると私が思った人間はほんの僅かでしたが。言いたいことはつまり、私が間違っていることもあり得るということ、そして司法官も三度確かめた後、確証を得ない限り、何人にも有罪宣告は出来ないということです。私がたった今貴女に言ったことを、マルグリットさん、貴女は忘れなければなりません」6.26