「グルルー夫妻が言うには、見習いのマルグリット嬢が、彼らの言葉を借りると『お偉方に貰われて行った』後は、彼女とは会っていないとのことだった……でも、それは嘘ね。少なくとも一度は彼女に会っている。彼女が二万フランを彼らのところへ持って行った日にね。そのお金が彼らの財源なのよ……。あの人たち、そのことを吹聴したりはしなかったけど……」
「ああマルグリット、心優しいマルグリット!」
そう呟いた後、彼は大きな声で尋ねた。
「でも、お母さん、そんな細かいことまでどこで知ったんですか?」
「グルルー夫妻に引き取られる前にマルグリット嬢が育った孤児院でよ……そこでも、聞いたのは彼女を褒めそやす言葉ばかりだったわ。修道院長様が仰るには、『あれほど生まれつきの才能に恵まれ、気立てが良く、利発な子供は見たことがありません』と。もしも欠点を挙げるとすれば、年に似合わぬ無口さ、そしてプライドでしょうか。それはときに強烈な傲慢さという側面を持つものですからね、と……。それでも彼女は、製本屋の親方を忘れなかった以上に、孤児院のことを忘れなかったのです。修道院長は一度彼女から二万五千フランを受け取ったことがおありだそうよ。それにまだ一年も経たない前のことだけど、十万フランが孤児院に寄付され、その金利が毎年孤児院の経営を助ける筈だと……」
パスカルは勝ち誇っていた。
「これで分かったでしょう、お母さん、どうです! 僕が彼女を愛する理由が!」
しかしフェライユール夫人は答えなかった。重苦しい不安がパスカルを捕らえた……。
「お母さん、黙っていますね」と彼は言った。「何故です? 僕がマルグリットを妻にすることが許されるその幸せな日、お母さんは僕たちの結婚に反対なさるつもりですか?」
「いいえ、パスカル、私が聞き知ったことのどれを取っても、私にその権利は与えられないわ」
「権利ですって! ああ、お母さん、あなたは理不尽だ!」
「理不尽ですって、私が! 私は聞いてきたことをすべてお前に包み隠さず話したじゃありませんか。お前を激怒させることが分かっていても、なにもかも!」
「それはそのとおりです。でも……」
フェライユール夫人は悲し気に首を振った。
「考えてみて頂戴」と彼女は息子を遮って言った。「お前が自分の生涯の伴侶として、婚外子として世のしきたりの埒外で生まれた娘を選ぶのを見るのが、私にとってどんなに辛いことか! お前があのトリゴー男爵夫人のような女の娘と結婚するのだと思うとき、私が不安な気持ちなるのがお前に分かる? 彼女の母親は彼女を自分の子供と認知することも、その存在を認めることすら出来なかった。既婚の身だったからよ」
「でも、お母さん、それが彼女の罪ですか?」4.27
「ああマルグリット、心優しいマルグリット!」
そう呟いた後、彼は大きな声で尋ねた。
「でも、お母さん、そんな細かいことまでどこで知ったんですか?」
「グルルー夫妻に引き取られる前にマルグリット嬢が育った孤児院でよ……そこでも、聞いたのは彼女を褒めそやす言葉ばかりだったわ。修道院長様が仰るには、『あれほど生まれつきの才能に恵まれ、気立てが良く、利発な子供は見たことがありません』と。もしも欠点を挙げるとすれば、年に似合わぬ無口さ、そしてプライドでしょうか。それはときに強烈な傲慢さという側面を持つものですからね、と……。それでも彼女は、製本屋の親方を忘れなかった以上に、孤児院のことを忘れなかったのです。修道院長は一度彼女から二万五千フランを受け取ったことがおありだそうよ。それにまだ一年も経たない前のことだけど、十万フランが孤児院に寄付され、その金利が毎年孤児院の経営を助ける筈だと……」
パスカルは勝ち誇っていた。
「これで分かったでしょう、お母さん、どうです! 僕が彼女を愛する理由が!」
しかしフェライユール夫人は答えなかった。重苦しい不安がパスカルを捕らえた……。
「お母さん、黙っていますね」と彼は言った。「何故です? 僕がマルグリットを妻にすることが許されるその幸せな日、お母さんは僕たちの結婚に反対なさるつもりですか?」
「いいえ、パスカル、私が聞き知ったことのどれを取っても、私にその権利は与えられないわ」
「権利ですって! ああ、お母さん、あなたは理不尽だ!」
「理不尽ですって、私が! 私は聞いてきたことをすべてお前に包み隠さず話したじゃありませんか。お前を激怒させることが分かっていても、なにもかも!」
「それはそのとおりです。でも……」
フェライユール夫人は悲し気に首を振った。
「考えてみて頂戴」と彼女は息子を遮って言った。「お前が自分の生涯の伴侶として、婚外子として世のしきたりの埒外で生まれた娘を選ぶのを見るのが、私にとってどんなに辛いことか! お前があのトリゴー男爵夫人のような女の娘と結婚するのだと思うとき、私が不安な気持ちなるのがお前に分かる? 彼女の母親は彼女を自分の子供と認知することも、その存在を認めることすら出来なかった。既婚の身だったからよ」
「でも、お母さん、それが彼女の罪ですか?」4.27