十年以上も彼は自分の娘を探そうとは全くしませんでした。それぐらい敵を恐れていたのです。が、そういう時期を過ぎ、例の夫がどうやら捜索を諦めたらしいと確信を持つようになってようやく彼の方で捜索を始めました。長い時間が掛かり困難な仕事でしたが、ついに見つけ出すことに成功し、その子のもとに辿り着きました。一種の民間人のスパイみたいな怪しげな男の力を借りたのです。フォルチュナという名前の」
男爵は激しく興味を惹かれた様子だったが、すぐにそれを圧し止めて言った。
「それは……奇妙な名前の男ですな」
「姓もそうですが、名もイジドールというのですからね! ああ、この男はさも優しそうに猫を被っていますが、危険な悪党でね。最悪の種類のならず者です。どう見たって徒刑場送りがふさわしい男で……こいつがどういう事情でそういういかがわしい仕事をするようになったか、それは私にも分からないのですがね。確かなことは、この男がパリの街中で白昼堂々とブルス広場で仕事を行っていることです」
この姓名、住所を男爵は忘れないようにしかと頭に刻み付けた。その間にも相手は話を続けていた。
「しかし、あのお気の毒な伯爵はついていませんでした。夫の方はいつかな手を緩めようとしない、伯爵は息をひそめるように生きていた。と、そこへ今度は妻の方が攻撃を始めたのです。この女というのは、私の知る限りではどうしようもなく神経に障る女で、それを聞けば世の女全体を憎悪したくなるような女だったようです。彼女は自分が道に外れる行為をすることになったのは伯爵の所為であり、そのために自分の人生と幸福が破壊されたと言って、どんな野蛮人でも考え付かないような残虐の極みで彼を痛めつけたのでした……。伯爵が決して自分の娘を手元に置かないこと、養女にするなどとは努々考えてはならぬ、と言い張ったのです。そんな軽はずみをすれば、自分の夫が遅かれ早かれ嗅ぎつけるであろうからと。そして伯爵が無視するそぶりを見せると、そんなことをすれば夫にすべてを告白する、と宣言したのです」
「ド・シャルース伯爵という方は辛抱強い方と見えますな」と男爵はせせら笑った。
ド・ヴァロルセイ氏は小さく皮肉な口笛を吹いた。
「貴殿が思われるほどでもないですよ」と彼は言った。「伯爵がそれに従ったのは、何か彼の明かしたがらない秘密の理由があったようです。何か大きな不名誉が背後にあったとしても私は驚きませんね。とにかく、伯爵はこの恐ろしい女から逃れるため、ありとあらゆることをしました。9.30