「物言わぬ死体」もそのうち再開するつもりですが、ソーンダイク博士の家に住み込みで働いているポルトン---小さな大司教みたいな人、とジャーディーンに言われていた人物---が語り手となっている中編があるので、それを先に訳していくことにします。幼いとき両親を失い、おばさんに引き取られた少年ポルトンは天性の時計職人、ところが・・・。100年ちょっと前のイギリスの労働者階級の暮らしが描写され、ディッケンズを髣髴とさせます。軽妙さが売り、と本人は思っているようですが、ときに受けを狙ってすべるところなど、「物言わぬ」と似た雰囲気もあり。本邦初訳(多分)なのが訳者としては楽しいところ。
いずれにせよ、作者自身、大いに楽しみながら書いているということは強く感じます。それが訳出できれば、と念じつつ・・・。
余計なことですが、気づいた点をちょっと書きます。
1 第一部で「スネイル」と訳されている単語が、第二部では「カタツムリ」になっていて、これは「カタツムリ」で統一した方がよろしいのでは? (余計なお世話で申し訳ありません…)
2 第二部p56「1936年4月3日(the 3 of April 1936)」は第二部p63では「4月30日(the 30th of April)」となっていて、あとの方(第二部p128)で火事の後で叔父さんが死んだ、というのが正しい順番だとわかります。なので、最初のは原文(私はGutenberg Australiaを参照しました)は”30th”の後方脱落なのでは?と思いました。三日なら”3rd”のはずなので、電子テキストにする時か、元々の印刷時に脱落が生じたのでしょう。
3 ソーンダイク博士は1870年生まれだと作者フリーマンは書いています。1936年なら66歳… シリーズ探偵は歳を取らないのでしょうね。なおポルトンはみんなこの作品が出版される前は、ソーンダイク博士より年かさだと思っていたようです。(初登場時“The Red Thumb Mark”(1907)には”a small, elderly man”とある。
1)アハッ、気づかれてしまいましたか。「スネイル」がその方面の用語として使われているようなので、そうしましたが、第二部でジャーヴィスが「それって本物のカタツムリじゃないよね?」とボケをかますところで、ここは「カタツムリ」じゃないと、ということになりまして…。検索して一括変換すれば簡単な話なのですが(実際、手元の原稿ではそうしているのですが)アマゾンに押し出して(心太のイメージ)しまった後はなかなか大変です。
2)これは気づきませんでした。ここの日付の齟齬は大きな問題ですね。ありがとうございます。
3)主要な登場人物の年齢は作者自身、フラフラするところがあるようですね。中年から書き始めて、何年も経つのにちっとも老人にならない、とか。やはり仰るようにシリーズ探偵は年を取らないのですね。
貴重なご指摘、本当にありがとうございました。
弾十六様のような読者がいらして下さって本当に私は幸せ者です。
ソーンダイクものはもう終わり、かな、と自分では思っています。非常な多作家で未邦訳のものもかなりありそうですが、二作品とも全くの偶然で見つけたもので、割合面白い二作品に当たったな、と思っています。まぁ無理して見つけようとしない方がいいかも。弾十六様からご覧になって、これなんかどう?ってもの、何かあります?
せっかく何か面白いのを提案せよ!という御下命を頂いたのですが、思いつきません。
馬車が街を走り回っている時代が好きです。小説の筋も大事ですが、時代を感じさせるエピソードが豊富な作品が良いですよね。(だからポルトンの子供時代が描かれている第一部がとても面白かったです… 妹はその後どうなったんでしょうね)
いろいろ調べたネタを一つ思い出しました。dutch clockなんですが、ディケンズ関係のWebに、ドイツ製の安い(けどメカ的にはしっかりした)木製時計だ、とありました。Deutsche=Dutchのようです。(中越亜理紗「Dickens の小説における時間と時計 Oliver Twist、Hard Times、Great Expectations に関する考察」)
Dutch clockですか。庶民にも手の届く価格の、それでいて立派なしっかりした造りの時計ですね。なるほど、Dickensの世界を彷彿とさせます。Dickens…夏休みなどに好んで読んでいた時期もあったっけ……。さすがにこのクラスの超有名人だとすべて邦訳されてるんでしょうね。
英語と仏語を取っかえ引っ替えやる、というのは結構楽しい経験でした。
長いことお付き合いいただき、有難うございました。