マルグリット嬢は新聞を手に取り、驚きと訝りの表情を宿しながら、ゆっくりと新聞を広げた。まず彼女をハッとさせたのは、第一面の二十行ほどが赤鉛筆で囲まれていたことだった。彼女は読んだ。
『かつての社交界の綺羅星マダムD邸において大スキャンダル発生……』
それはパスカルが名誉を剥奪されたカードゲームでの事件を報じる驚くべき記事だった。そしてマルグリット嬢が疑いを持ち得ないように、この記事を送りつけてきた卑怯者は記事に出ているイニシャルの横に鉛筆で人物名を書き添えていた。すなわち、ダルジュレ、パスカル・フェライユール、フェルナン・ド・コラルト、ロシュコート、と。
かくの如き卑劣な念押しにも拘わらず、マルグリット嬢は最初何のことか分からず、事の重大さも認識しなかったので記事を何度も、ついには四度も読み返した。しかしついに恐ろしい真相が彼女の中で破裂し、新聞を取り落とすと、顔は死人のように真っ青になった。彼女は息も絶え絶えに茫然となり、棍棒で殴られたかのようにぐったり壁に寄り掛かった。そのただならぬ様子に判事は椅子から跳び上がるように立ち上がった。
「今度は何事です?」
彼女は答えようとしたが言葉が出てこなかったので、震える指で新聞を指さし、締め付けられるような声を出した。
「あ、あそこ……」
一読した判事は了解した。これまでの人生で多くの悲惨さを目にし、不幸に遭った見知らぬ人々の打ち明け話を聞いてきた彼だったが、マルグリット嬢を執拗に痛めつける運命の苛酷さに愕然としていた。判事は今にも卒倒しそうな彼女に近づき、肘掛け椅子まで彼女を支えて連れて来た。彼女は椅子に倒れ込んだ。
「可哀想に!」と彼は呟いた。「貴女が心に選んだ青年、その人のために貴女はひたすら我慢をしてきたのに……その青年がパスカル・フェライユールなのですね?」
「そうです」
「その人は弁護士なのですね?」
「はい、申したとおりです」
「住所はウルム通りで間違いはないのですか?」
「はい」
老判事は悲し気に首を振った。
「それでは、間違いなく彼ですね」彼は言った。「私も彼を知っているのですよ。良い青年です。立派な人間だと私は思っていました。ほんの昨日だったら、『彼なら貴女にふさわしい青年だ』と言ったでしょう。彼の一つの汚点もない名声は羨望を覚えるほどでしたよ……それが今はこんなことになって。ゲームに夢中になったあまり……不正をするとは!」5.29