一昨日のことだ、よく聞け。婿が私に会いに来て、十万エキュ出せと言うんだ。私が断ると、もし金を渡さなければ娘がどこかの大根役者に宛てて書いた手紙を公表するといって脅したのだ!私は恐ろしくなって金を渡した。そしたらその晩のうちに、これは彼ら二人の仕組んだ狂言だと知ったんだ。動かぬ証拠もある。婿はここを出てすぐうちへは帰らずに、その良い知らせを妻に伝えようと電報を打ったのだ。ところが喜びのあまり、住所を間違え、電報が届けられたのはここだった。私が電報を開封してみるとこう書いてあった。『愛する君、やったよ!パパはまんまと引っかかった。金を出してくれたよ!』 とな。奴はあつかましくもそんな文面を書き、署名までして係の者に渡したんだ。妻宛てのつもりで……」
パスカルは呆気に取られていた……。自分は何かとんでもない白昼夢を見ているのか、それともこれは本当のことか、判じかねていた。というのも彼は、人が羨むような豪勢な外観を持つ屋敷の奥で繰り広げられる愛憎劇というものがあることを知らなかったからだ。
少なくとも、と彼は思った。男爵夫人は打ちのめされ、今にも夫の前に跪く物音が聞こえるだろうと……。全くそうではなかった! この『手ごわい女性』は屈服するどころか、敢然と反撃に出た。
「あなたのやっていることとどこが違うっていうの?」と彼女は叫んだ。「あなたはそうやっていい気になって彼を非難するけれど、そのあなたは何、ヨーロッパ中の賭博場に名前を轟かせてい……」
「黙れ、あばずれ、黙れ!」男と爵は遮った。が、すぐに自制心を取り戻し、続けた。
「確かにそのとおりだ」それから悲痛な皮肉を込めて繰り返した。「私は……賭け事をする。人からは、あのでぶの男爵、カードを手から離すことがない、へんてこな奴と言われている。しかしお前には分かるだろう。私は賭け事なんか大嫌いで虫唾が走るほどだということを。ただ、ゲームをしていると、忘れさせてくれるときがあるんだ。俺には忘れたいことがある、ということは分かるな? 最初は酒で紛らせようと思った。しかし酒を飲んでも心が冷え冷えとするばかり、酔う代わりに胸がむかつくだけだった。というわけでカードに捌け口を求めた。賭け金は馬鹿にならぬし、自分の財産には有害な傾向を持つが、自分の不幸を忘れられるんでな!」
男爵夫人は、鋼鉄のバネが弛むときのような乾いたせせら笑いをし、わざとらしく同情するような口調で言った。
「それはお気の毒に! もう一つ忘れるためにしていることがおありでしょ。ゲームをしていないときは必ずリア・ダルジュレとかいう女の方のところにいるってこと。とても綺麗な方ね。ときどきブーローニュでお見掛けしましたわよ……」
「滅多なことを言うな!」と男爵は叫んだ。「お気の毒なご婦人を侮辱するな。お前なんかよりずっと立派な人だ……」8.30