エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

1-VI-13

2021-02-04 10:29:05 | 地獄の生活

「考えとしては結構だがね」と門番のブリジョー氏はぶつぶつ言った。「実際上手くいくかどうか……」

「どうでもいいさ! 先のこた分からんからな。さしあたり、俺はロクな目に遭わないのさ。せっかく旦那を俺流のやり方に慣らしてきて、たっぷり貰うつもりだったのに……それが突然おじゃんだ。また新規まき直しせにゃならん」

 ブリジョー氏の方ではこのような悟りの心境には達していなかったようだ。外套を着ながら彼は呻くように言った。

「ああ、お前さんは困るとはどういうことか、分かってないと見えるね、カジミール。お前さんは自分の首の心配さえしてりゃいいんだろ。ところが俺には、護らなきゃいけない家具があるのさ。もし俺が二部屋の住まいを見つけられなきゃ、家具の一部を売らなきゃならねぇ……なんてぇ巡り合わせだぁ!」

そう言っている間にも彼は支度を整え、出て行った。カジミール氏の方は、再び上がっていく気にもなれず、門番小屋の前を行ったり来たりし始めた。およそ三十回ほども往復すると、じれったくなり始めたが、ちょうどそのとき半開きになっている外の門の隙間から、生き生きしたこすっからそうな顔が見えた。まるでイタチが自分の巣穴から出る前に辺りを見回している、といった格好だ。

「おんや!ヴィクトール・シュパンじゃないか」と前に進みながら彼は言った。「ちょっと外で話そう……」

通りに出ると彼は言った。

「お前、ちょうど良いときに来たぞ。終わっちまった。一巻の終わりだ」

シュパンは飛び上った。

「てことは、おいらたちの取り決めで決まり、ですね?」彼は元気よく言った。「ほら、葬式の話ですよ。おいらたちの手数料の取り決めですよ」

「それはどうだかな。つまり、俺の一存で決められるかどうか、分からんのだよ……。ま、とにかく、三時頃、また来な」

「わっかりやした。来ますよ。ですが……競争相手にゃ用心してくだせえよ」

しかしカジミール氏は他の事を考えていた。

「で、フォルチュナ氏の方はどうなった?」と彼は聞いた。

「だから、おいらの言ったとおりっすよ! 昨夜手酷いパンチを受けて……。まともに顔面にバシッと一発。ところが夜のうちに湿布を貼ると、今朝はましになって……。あんたに伝言をしろって命令するまでに回復したっすよ。正午から一時までの間、あんたを待ってるって。あんたの知ってる例の場所で……」

「ううむ、難しいかもしれんが行けたら行くよ……。ああ、そうだ。俺は彼に例の手紙を見せてやるよ。発作の原因となった手紙だ。伯爵が一旦は細かくちぎって捨てたものを後で集めて復元しようとしたやつを。俺は更に七、八片、伯爵もお嬢様も見つけられなかったものまで持っている。全く妙ちきりんなことさ!」

シュパンは彼をうっとりするような目つきで見た。「凄いっすねぇ!金持ちになったら、あんたみたいな素晴らしい下男を雇えるんすねぇ!」

相手は苦笑をした。それから慌てて言った。

「急げ!あそこに見えるのはブリジョーだ。治安判事を連れて戻ってきたぜ」2.4

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1-VI-12

2021-02-01 10:29:47 | 地獄の生活

もしも貴重品がなくなったとしたら、疑われるのは誰です? 毎度同じことですが、可哀想な召使です……。そうですとも、罪を被せられるのはいつも私ら使用人です。鞄の中まで調べられ、何も見つからなくても、どっちみち刑務所に送り込まれる……ところが、その間に分捕り品を持ってドロンを決め込む他の人間たちがいるってわけで……。そいつぁ御免だね、リゼット、って奴ですよ(リゼットは当時の喜劇でよく使われた抜け目のない女中の名前らしい)。警察が来るまで誰もここを動かぬ方がよろしいかと」

マダム・レオンは怒りのあまり口角に泡を溜めていた。

「上等じゃないの!」彼女は遮って言った。「ド・シャルース伯爵の親しいお友達の方にお知らせするわ、将軍を……」

「はん!誰があんたのいう将軍なんか……」

「無作法者!」

ここでマルグリット嬢が割って入った。次第に激しさを増してきたこの破廉恥な言い争いが、茫然としていた彼女を現実に引き戻したのだ。徹夜させられた鬱憤をぶちまけているかのような下男の無礼な態度に、彼女の顔は赤くなり、こわばった足どりで一歩前に踏み出した。

「お前は忘れているようね」はっきりした口調で彼女は言った。「死者が安置されている部屋の中では声を荒げてはならないことを!」

この言葉は大層威厳のある口調で言われたので、カジミール氏もぺしゃんこになった。彼女は指を一本持ち上げ、ドアを指し示し、冷たく言った。

「治安判事をお連れしなさい……。判事と一緒でない限り、ここに足を踏み入れてはなりません」

カジミール氏は頭を下げ、口の中でむにゃむにゃと謝罪を呟きながら出て行った。

「まぁやっぱり一番分別のあるのは彼女だろうな……」と彼は独り言ちた。「ああ、そうだ、封印をするんだ。ああ、そうだ、そうだ!」

門番小屋に入ると、ブリジョー氏は起きたところだった。妻が徹夜で起きている間、彼はたっぷりと眠ったのだった。

「急げ!」とカジミール氏は彼に言った。「早く着替えて治安判事を呼びに行くんだ……そうしなくちゃならないんだ……なにもかもきちんとやることになったからな。俺はお嬢様にしっかり活を入れてきてやったぜ」

門番は愕然とした。

「なんてぇこった!」彼は口の中で言った。「また厄介事が起きちまったな……」

「それは俺の言いたい台詞だ。こんな目に遭うのはこれで二度目だぜ。こうなりゃ、あいつの言うことを聞いときゃよかった、って気になるぜ。俺の知ってるシュパンて若造だ。いろんな仕事に首を突っ込んでいて、よく頭が回るんだ。『あっしがどっかの家事使用人になるとすれば、雇われる前に生命保険てやつに入って貰うようにしときやすね』とそいつは言うんだ。そしたら主人が死んだ暁には、ちょいとした金を手に入れられるってもんだ、とね。さぁブリジョー親爺、着替えるんだ」2.1

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