「この手紙を届けるためですよ!」
給仕たちは肩をすくめた。
「そんなの、うっちゃっておきなよ」と彼らは言った。「わざわざ届けてやるこたねぇよ……」
こういう反応をシュパンは予想していた。
「それがですね」と彼は言った。「中にお金が入ってるようなんですよ」
彼は封筒の口を少し開けて中の札を見せた。
その途端、給仕たちにとって状況が変わった。
「そうなりゃ話は別だ」と、金が入っているのを見た途端、一人が言った。「届けなくちゃな……しかし、わざわざ家まで行くのも大変だぜ……ここに預けておきなよ、カウンターに。そしたらその人が次に来たとき渡してあげられるよ……」
シュパンの背筋に冷たいものが走った。彼の札が失われて行く図が見えたのだ。
「それはちょっとどうかな」と彼は叫んだ。「おいらのめっけた掘り出し物をここに置いとくなんて! それは金輪際御免だね。まっとうな報酬を誰が貰えるかってことなんで……。子爵様と言えば気前が良いと決まってる。おいらの手に二十フランは握らせてくれるでしょうよ……だからその人の住所を知りたいんで」
この異議申し立ては給仕たちに納得できる性質のものだった。彼らはこの若者の言うことは尤もだと思ったのだが、ド・コラルト氏の住所は知らなかったし、それを知る方法もなかった。
「ひょっとしたら」と一人が言った。「制服組の門番なら知ってるかも……」
門番が呼ばれ、彼は一度ド・コラルト邸まで外套を取りに行ったことがある、と言った。
「番地までは忘れちまったが」と彼は言った。「ダンジュー通りだったことだけは確かに覚えている。ヴィル・レヴェック通りとの曲がり角の近くだったような……」
この情報はその地点をピンポイントするには大して役立たないものだったが、生粋のパリっ子の血が流れているヴィクトール・シュパンにはこれで十分だった。
「大いに恩に着ます、旦那」と彼は門番に言った。「それだけ教えて貰えば、生まれつき目の見えない人間だったらまっすぐド・コラルトさんちに行き着くことは出来ないかもしれないけど、おいらなら目も見えるし舌もあるんで……もしお礼を貰ったら一杯奢りますんで待っててください……」
「で、もしお前さんがその人を見つけられなかったら」と給仕たちが付け加えた。「その金を持ってここへ戻ってきな。俺たちが返しておくからさ」
「もちろんでさぁ!」とシュパンは答えた。彼の発音では「ちろんでさ!」と聞こえた。「それじゃまた後で、旦那方……」
そして彼は大股で走り去った。9.29
給仕たちは肩をすくめた。
「そんなの、うっちゃっておきなよ」と彼らは言った。「わざわざ届けてやるこたねぇよ……」
こういう反応をシュパンは予想していた。
「それがですね」と彼は言った。「中にお金が入ってるようなんですよ」
彼は封筒の口を少し開けて中の札を見せた。
その途端、給仕たちにとって状況が変わった。
「そうなりゃ話は別だ」と、金が入っているのを見た途端、一人が言った。「届けなくちゃな……しかし、わざわざ家まで行くのも大変だぜ……ここに預けておきなよ、カウンターに。そしたらその人が次に来たとき渡してあげられるよ……」
シュパンの背筋に冷たいものが走った。彼の札が失われて行く図が見えたのだ。
「それはちょっとどうかな」と彼は叫んだ。「おいらのめっけた掘り出し物をここに置いとくなんて! それは金輪際御免だね。まっとうな報酬を誰が貰えるかってことなんで……。子爵様と言えば気前が良いと決まってる。おいらの手に二十フランは握らせてくれるでしょうよ……だからその人の住所を知りたいんで」
この異議申し立ては給仕たちに納得できる性質のものだった。彼らはこの若者の言うことは尤もだと思ったのだが、ド・コラルト氏の住所は知らなかったし、それを知る方法もなかった。
「ひょっとしたら」と一人が言った。「制服組の門番なら知ってるかも……」
門番が呼ばれ、彼は一度ド・コラルト邸まで外套を取りに行ったことがある、と言った。
「番地までは忘れちまったが」と彼は言った。「ダンジュー通りだったことだけは確かに覚えている。ヴィル・レヴェック通りとの曲がり角の近くだったような……」
この情報はその地点をピンポイントするには大して役立たないものだったが、生粋のパリっ子の血が流れているヴィクトール・シュパンにはこれで十分だった。
「大いに恩に着ます、旦那」と彼は門番に言った。「それだけ教えて貰えば、生まれつき目の見えない人間だったらまっすぐド・コラルトさんちに行き着くことは出来ないかもしれないけど、おいらなら目も見えるし舌もあるんで……もしお礼を貰ったら一杯奢りますんで待っててください……」
「で、もしお前さんがその人を見つけられなかったら」と給仕たちが付け加えた。「その金を持ってここへ戻ってきな。俺たちが返しておくからさ」
「もちろんでさぁ!」とシュパンは答えた。彼の発音では「ちろんでさ!」と聞こえた。「それじゃまた後で、旦那方……」
そして彼は大股で走り去った。9.29