VI
ウィルキー氏に彼の出生の秘密を教えるだけでは十分ではない。更に、それを有効な手段として用いるにはどうすればよいかを教え込むことが必要であった。ド・コラルト子爵の表現を借りるとこういうことであり、彼はそれを入念に実行したのであった。しかもふんだんに注意事項を盛り込んだところをみると、彼が自分のクライエントの洞察力にあまり信頼を置いていないことが明らかだった。
「マダム・ダルジュレは全く油断できない相手だ」と彼は考えていた。「このアホの若造を手玉に取るぐらい朝飯前だろう。前もって注意しておかなかったら、こいつは一芝居打たれて訳も分からぬまま放り出されるのがオチだ」
というわけで彼はウィルキー氏に前もってあれこれと教え込み、五百万フラン以上の財産を相続するべき人間に仕立て上げようとした。これこれのことをし、こういう風に言い、このように返答すべし。涙に対しては警戒すること、上流階級の御大層なやり方に気後れしてはならぬ、状況に応じ、斯く斯くの態度を取り、……云々。
子爵は一時間たっぷり諸注意と忠告を与えたのでウィルキー氏は大いに気分を害した。自分があまりに子ども扱いされていると感じ憤慨して、自分は何も知らない愚か者なんかじゃない、自分だって他の人間と同じように状況に応じてうまく対処し、見事に切り抜けてみせるのだと抗議した。
しかし、これを受けてもド・コラルト氏は一向にやめようとせず先を続けた。やがてあらゆる場合に言及し、言い忘れたことは一つもないと確信すると、ついに立ち上がった。
「これで全部だ」と彼は言ったが、それでもまだ不安そうだった。「計画は私が立てた。実行するのは君だ。くれぐれも冷静に。さもないとこの勝負は負けだ」
相手は自信たっぷりに立ち上がった。
「たとえ負けることになったとしても、それは僕がヘマしたからとは言わせない」と彼は語気強く答えた。
「大事なのは時を移さず行動することだ」
「その点はご心配なく……」
「それに、いいね、何が起ころうとも、私の名前は決して出さないこと。さもないと……」
「ああ、分かってる、分かってる」
「それじゃ、何か分かったら……」
「すぐに知らせるから」
「その場所は社交クラブだ、いいね?」
「わかった……気を揉む必要はないよ。もうこっちの懐に入ったも同然さ……」
「そうだといいね」 1.30