相手を見定めたと思ったのか、最初に口を開いたのは侯爵だった。
「つまるところ」この問題から解放されたいと思い、やや威嚇的な口調で彼は言った。「もうすっかり腹は決まっておる、というわけか。拒絶は最終的なものか?」
「さい…しゅう…てき、です!」
「私の説明を聞くまでもない、と?」
「時間の無駄です」
この辛辣な返答を聞くと、ド・ヴァロルセイ氏は拳骨を固め思い切りデスク殴りつけたので、上に載っていた書類が三、四枚床に落ちた。彼の怒りはもはや見せかけではなかった……。
「何を画策しておるのだ!」彼は怒鳴った。「一体何が出来ると思っている? 誰のためにこのわしを裏切るのだ? どれだけの金のためだ? どんな計略だ? ……用心するがいい……わしは自分の身を守ってみせる、神の名にかけて! おお、そうとも……しくじれば脳天をぶち抜く覚悟の出来ている男は危険なものだ……。わしがド・シャルースの金を手にするのをもし邪魔だてすれば、お前に不幸が起きることになるぞ……」
フォルチュナ氏の顔からさっと血の気が引いたが、彼は威厳のある表情を変えなかった。
「私を威嚇なさるのは間違っておられます」と彼は言い返した。「私を怖がらせることはできません……。もし私が貴方様と敵対する気があるなら、お貸しした四万フランの返還請求をすればよいことです。金は戻っては来ないでしょうが、貴方様の嘘で固めた財政状態がたちまち明るみに出ます……。それに貴方様はお忘れかもしれませんが、貴方の手で署名された契約書の写しを私は所有しております。それをマルグリット嬢の手に渡るようにすることなどわけはありません。そうすれば、貴方様の金への執着度がどれぐらいのものか、はっきり見せられますね……。では、私たちの関係はこれまでといたしましょう。お互い、それぞれの道を歩んでお互いのことはもう忘れると……。もし貴方様が成功なさるようなことがあれば、私に金を返してくださいませ」
勝利は、遺産という掘り出し物を誰がうまく手中に収めるかにかかっていた。フォルチュナ氏は遠ざかる客を眺めながら自尊心を内に感じていた。身分の高い客の方は辱められ、怒りに顔を蒼白にしていた……。
「なんという悪党だ、あの侯爵は」と彼は独り言ちた。「あの気の毒なマルグリット嬢に教えてやりたいものだ……あの悪党がこんなに怖くなければ……」8.29