彼は自分の振る舞い、喋る内容などを自分で十分意識していたであろうか? 後に彼は、そうではなかったと語った。このときの彼は一種の幻覚の世界にいるような感じで、まるで亜酸化窒素を吸い込んだときのような状態に近かった。
夜食の時間はすぐ終わった。
「さぁバカラに戻ろう!」とゲームの休止を決めた先ほどの紳士が叫んだ。「貴重な時間をここで無駄にしたぞ!」
パスカルも他の全員と一緒に立ち上がった。部屋から部屋を抜けてサロンに急ぐ際、彼はドア近くで二人の青年の間に挟まれた。
「じゃ、そういうことで決まりだな」と片方の青年が言った。
「そうそう。僕に任せておけ。処刑は僕がやるから」
パスカルの全身の血が心臓に押し寄せた。
「処刑って誰のだ? もちろん俺の、に決まっている。一体どういう意味なんだろう?」
緑のクロスの周りにはプレーヤーが全員場所を替えて座っていた---ツキの流れを変えるため、ということだった---それでパスカルはフェルナンの右隣りではなく、正面に座り、二人の同年配の青年に挟まれる格好になった。そのうちの一人は先ほど処刑という言葉を口にした者であった。
パスカルに親が回ってきたとき、全員の目は彼にくぎ付けになっていた。彼は二百ルイと宣言し、負けた。テーブルの周りにはせせら笑いのようなものが広がり、最も負けの込んでいた一人が小声で言った。
「あの紳士をあんまりじろじろ見るんじゃないよ……ツキを失っちまうから」
この皮肉な言葉は、平手打ちのように気持ちを傷つける口調で発されたため、パスカルの頭の中で稲妻のように鳴り響いた。彼はついにある疑いを、不正直な人間ならとうの昔に感じていたであろうあの疑いを持つに至った。しかしそれは、立派な男の理解の中には入り得ないような中傷であった。立ち上がって、それはどういう意味かと詰問してやろうか、という考えが浮かんだが、彼は自分の置かれた状況に押しつぶされそうになっており、茫然としていた。耳の奥で鐘が鳴り響いているようで、心臓が鼓動を止め、みぞおちには赤く燃えた鉄があるかのようだった。
ゲームは続いていたが、波乱はなかった。賭け金の増減は僅かだった。勝つにしても負けるにしても、叫び声が上がることはなかった。
パスカルには全注目が集まっていた。彼は熱に浮かされたように息を切らし、目に苦悶の色を浮かべながら、カードの動きを追っていた。次々と親が入れ替わり、やがて彼のもとに親の番がやってくる……。
ついに彼が親になったとき、重い沈黙が支配した。なにやら脅迫に満ちた不吉な沈黙だった。女性たちやゲームに参加しない人々が近づいて来て、明らかな不安の色を浮かべながらテーブルの上に屈みこんだ。10.31