「この調子じゃ今夜はここに泊まりだな」とシュパンは思っていた。
彼の不機嫌ももっともだった。もう深夜の一時だった。彼の周囲の椅子とテーブルは片付けられ、お引き取りを願われていたのだ……。
どこのカフェも閉められ、閂の掛けられる音、鎧戸の内側から下ろす掛け金の音があちこちから聞こえていた。歩道の上では腕まくりをし、首の周りにナプキンを巻いたウェイターたちが手足を延ばし伸びをしては、比較的綺麗になった空気を美味しそうに吸い込んでいた。ブールヴァールは閑散としていた。男たちは小さな集団を作って遠ざかって行き、店々の前を女たちの影が滑るように動いていた。街の巡査たちが取締りの言葉を口にしながら巡回していた。カフェバーから出るにはもう小さな通用口しか開いておらず、そこから最後まで粘った客たちが出てくるのだった。彼らはおしまいにする前に必ず一口小さなグラスで飲んで締めくくると言ってきかない客なのである。
ウィルキーたち一行が出て来たのも、この種類の戸口であった。彼らの姿が見えると、シュパンは喜びの言葉をムニャムニャと呟いた。これでようやく家に帰れる、と彼は思った。例の男を彼の家の門まで『尾行』し、番地を確かめたら、自分の家に帰る……。しかし彼の喜びはすぐに消えた。ウィルキーの提案により、彼らは夜食を取りに行くことにしたのだ。ド・コラルトだけがちょっと異議を唱えたが、結局皆に引き摺られていった。2.17