彼はこう言うと、巨体を揺すぶりながらパスカルのデスクの前まで行き、座って手紙を書いた。
『編集長殿、
先日の晩、D邸において持ち上がった騒動を目撃した人間として、重要な点に関し訂正を報告いたしたく存じます。カードが余分に滑り込まされていたことは明白な事実でありますが、それがX氏による行為であったか否かは証明されておりません。何となれば、誰もその現場を見た者はおらぬからです。状況は同氏にとり不利に見えることは確かでありますが、私は自らの名誉をもって同氏を信じる者であります。
トリゴー男爵』
この間、フェライユール夫人と息子は目で相談をし合っていた。二人の抱いた印象は同じであった。この紳士は敵である筈はない、と。男爵が自分の書いた手紙を読み上げたとき、パスカルは言った。
「貴方様にはどのように感謝しても伝えきれないほど感謝しております。しかし、貴方様が真実私のためを思ってくださるならば、どうかその手紙はお出しにならないで下さい。貴方様にはご迷惑をかけることになるでしょうし、どのみち私が自分の職業を続けられなくなることは避けられません……私はむしろしばらく忘れられる方が有難いのです……」
「さようでござるか……ご心中はお察し申す……貴殿は自分で犯人を探し出したいのじゃな。それまでは相手に警戒させたくないと……。いや貴殿の慎重な態度はわしも賛成じゃ。しかし、わしのこの手紙はずっと持っていてくだされ。そしてもしも、助けが必要ということであれば、わしの家の門を叩いてくだされ。貴殿が証拠を手にした暁には、単に恥辱をすすぐのみならず、貴殿の主張を明らかに宣言する方法を必ず貴殿にお示し申そう……」
彼は立ち去ろうとしたが、ドアから出て行く前に次のように付け加えた。
「これからは、ゲームの際自分の左側に座った男の指を注意しておきますぞ……それに、わしが貴殿の立場であれば、あの記事の基になったメモを手に入れようとするであろうな……書かれたものというのは、大いに役に立ってくれるときがあるものじゃ……」
男爵が立ち去ると、フェライユール夫人は立ち上がった。
「パスカル、あの方は何かを知っているわ」彼女は叫んだ。「それにお前の敵は彼の敵でもある。彼の目を見れば分かります……はっきりとド・コラルト氏を非難なさっていたわね」
「ええ、僕も分かりました。お母さん、決心がつきましたよ……僕は出発しなくちゃなりません。今のこの瞬間から、パスカル・フェライユールはもう存在しないんです……」
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早速その日の夜、引っ越しの大型馬車がマダム・フェライユールの住んでいた家の前に停車していた。彼女は家財道具をまるごと家具屋に売り、先に旅立った息子に合流するつもりだと語った。アメリカで。12.30