そのときこそ、私が許されぬ罪を犯したときでした……。このような秘密の手紙のやり取りをすることは過ち以上のものだと分かっていたから。貴族でない男に私を嫁がせるなんてこと、私の家族が許す筈がないということはよく分かっていたし、このような関係を続けていれば絶望的な結果に繋がることは間違いのないことでした。自分の純潔や、これまで汚点のなかった一族の名誉、私の幸福と人生が危機に瀕していた。一言で言うなら、私は自分を見失いつつあったのです。
でも、どんなことがあっても私は頑として決心を変えなかった。説明できないようなある種の酩酊状態に捉われ、全てを犠牲にしても、鋭い破滅的な喜びを味わうのだ、という……。
とにかく彼は私にものを考える暇も、息を吐く間も与えなかった。どこにいようと、絶え間なく自分の存在を私に感じさせ続けた……。超人的な巧みさと大胆さ、そして誘惑のテクニックで、彼は私の生活の中に入り込んでくる術を持っていた。父の邸の中にさえ……。朝目が覚めると、自分の部屋のマントルピースの上に珍しい花で一杯の花瓶が置いてある、ということが何度も何度もあった。誰がいつ、どのようにしてそこに置いたのか、私はどうしても分からなかった。だって前の晩寝る前に私は自分の部屋のドアに二重に鍵をかけておいたのに。
ああ、自分の周囲に絶え間なくある情熱が息づいているのを感じずに済む方法なんてあるかしら。自分の呼吸しているその空気の中にさえ入り込んでくる、そんな情熱を!それに身を任せずにどうしていられるでしょう……。
アルチュール・ゴルドンの目的を知ったときはもう遅かったのです……。
彼がパリにやって来たのは、どこかの裕福な女相続人を誘惑するという固い決意を持っていたからでした。そしてたっぷりの持参金と共に彼と結婚することを家族に無理やり同意させる。そのためにはその家の名誉を汚すようなスキャンダルを惹き起こし、どうしても結婚させることが必要なようにする……。
世の中には、そうやって一山当てようとする以外の方法を知らない、という男たちがいるものです。
彼は、私以外にもう二人、非常に裕福な家の令嬢に言い寄っていました。三人のうち一人は攻略できるだろうと目論んだのです。
で、最初に降伏したのが私でした。天によって定められたとしか思えない、予期せざる偶然の出来事が私の運命を決めたのです……。
うちの庭園の真ん中にはあずまやがあり、そこには玉突き室とフェンシングの練習に使える大きな部屋があって、私の兄は先生や友人たちと練習する場所として使っていました。私はアルチュールにどうしてもと哀願され、夜、そこで既に数回彼と会っていました。
そこでは私たち二人だけだと信じ込んでいたので、私は自由に振る舞える嬉しさで大胆になり、蝋燭を灯すことさえしていたのです……。
ある夜、アルチュールとそこで落ち合ったとき、何か背後で荒々しい息遣いが聞こえたように思ったのです。驚いて振り向くと……入口のところに兄が立っていました。
ああ、そのとき私は自分がいかに罪深いかを悟りました。私の兄と私の恋人、二人のうちどちらかは、ここから生きて出ることは出来ないだろうと……。1.30
でも、どんなことがあっても私は頑として決心を変えなかった。説明できないようなある種の酩酊状態に捉われ、全てを犠牲にしても、鋭い破滅的な喜びを味わうのだ、という……。
とにかく彼は私にものを考える暇も、息を吐く間も与えなかった。どこにいようと、絶え間なく自分の存在を私に感じさせ続けた……。超人的な巧みさと大胆さ、そして誘惑のテクニックで、彼は私の生活の中に入り込んでくる術を持っていた。父の邸の中にさえ……。朝目が覚めると、自分の部屋のマントルピースの上に珍しい花で一杯の花瓶が置いてある、ということが何度も何度もあった。誰がいつ、どのようにしてそこに置いたのか、私はどうしても分からなかった。だって前の晩寝る前に私は自分の部屋のドアに二重に鍵をかけておいたのに。
ああ、自分の周囲に絶え間なくある情熱が息づいているのを感じずに済む方法なんてあるかしら。自分の呼吸しているその空気の中にさえ入り込んでくる、そんな情熱を!それに身を任せずにどうしていられるでしょう……。
アルチュール・ゴルドンの目的を知ったときはもう遅かったのです……。
彼がパリにやって来たのは、どこかの裕福な女相続人を誘惑するという固い決意を持っていたからでした。そしてたっぷりの持参金と共に彼と結婚することを家族に無理やり同意させる。そのためにはその家の名誉を汚すようなスキャンダルを惹き起こし、どうしても結婚させることが必要なようにする……。
世の中には、そうやって一山当てようとする以外の方法を知らない、という男たちがいるものです。
彼は、私以外にもう二人、非常に裕福な家の令嬢に言い寄っていました。三人のうち一人は攻略できるだろうと目論んだのです。
で、最初に降伏したのが私でした。天によって定められたとしか思えない、予期せざる偶然の出来事が私の運命を決めたのです……。
うちの庭園の真ん中にはあずまやがあり、そこには玉突き室とフェンシングの練習に使える大きな部屋があって、私の兄は先生や友人たちと練習する場所として使っていました。私はアルチュールにどうしてもと哀願され、夜、そこで既に数回彼と会っていました。
そこでは私たち二人だけだと信じ込んでいたので、私は自由に振る舞える嬉しさで大胆になり、蝋燭を灯すことさえしていたのです……。
ある夜、アルチュールとそこで落ち合ったとき、何か背後で荒々しい息遣いが聞こえたように思ったのです。驚いて振り向くと……入口のところに兄が立っていました。
ああ、そのとき私は自分がいかに罪深いかを悟りました。私の兄と私の恋人、二人のうちどちらかは、ここから生きて出ることは出来ないだろうと……。1.30